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攻めの栄養療法を科学する21~はじめに|栄養療法は「治療の基盤」

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 12 分前
  • 読了時間: 5分

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栄養療法は、健康の維持・増進のみならず、生活習慣病やさまざまな疾患の治癒・改善を支える重要な治療の一部です。患者が何らかの栄養障害に陥った場合、適切な栄養スクリーニングと栄養アセスメントを行い、早期に栄養状態を維持・改善する方策を講じることは、医療の基本とされています。

近年の研究により、栄養療法は以下の点で患者予後を改善することが示されています。

  • 創傷治癒の促進

  • 感染症合併の予防

  • 治療反応性の向上

  • 在院日数の短縮

  • 医療費の削減

病期(セッティング)によって異なる「攻めの栄養療法」

2018年度の厚生労働省・病床機能報告では、平均在院日数の中央値は以下の通りでした。

  • 高度急性期:9日

  • 急性期:14日

  • 回復期:51日

  • 慢性期:234日

このように医療のセッティングによって在院日数・患者背景・関与する職種・ゴール設定は大きく異なります。そのため、「攻めの栄養療法」の対象患者や適応も、セッティングごとに考える必要があります。

本稿では、急性期医療における栄養療法の考え方を中心に解説します。

急性期医療における栄養療法の特徴

ICU患者における新たな課題:ICU-AW

集中治療医学の進歩により、重症患者の救命率は大きく向上しました。一方で近年注目されているのが、救命後の長期機能予後です。

ICU関連筋力低下(ICU-acquired weakness:ICU-AW)は、集中治療領域における代表的な二次性サルコペニアであり、いまだ確立した対策はありません。

ICU管理下では、

  • 強いストレス代謝(神経・内分泌・免疫反応の賦活)

  • 異化亢進

  • 鎮静・人工呼吸管理による活動制限

  • 骨格筋萎縮

が同時に進行し、重度の栄養障害をきたしやすい状態となります。

急性期における栄養投与の基本方針

経腸栄養を優先する

日本版重症患者栄養療法ガイドラインでは、重症患者では経腸栄養を第一選択とすることが強く推奨されています(エビデンスレベル:高)。

ただし、

  • 開始時期

  • 投与経路

  • 投与量

が最終的な予後にどこまで影響するかについては、依然として議論が続いています。

エネルギー投与量:原則は「underfeeding」

急性期、特に発症初期1週間では、エネルギー投与を必要最小限に抑える underfeeding が推奨されています。

ただし例外もあります。重症熱傷患者では、体表面積10~80%、深度2~3度の症例において、30kcal/kg/日以上を投与した群で死亡率が低下したとの報告があり、熱傷診療ガイドラインでは低エネルギー投与は推奨されていません

たんぱく質投与は「攻めの栄養療法」の要

たんぱく質投与量については、明確な至適量は未確定とされつつも、

  • 1.2~2.0g/kg/日(実測体重)

の投与が推奨されています(エビデンスレベル:低、推奨レベル:強)。

さらに、ICU入室中の高齢重症患者では、

  • 2.0~2.5g/kg/日

のたんぱく質摂取が、窒素バランス改善に必要であるとの報告もあります。

現時点では、エネルギーは抑えつつ、たんぱく質はしっかり投与することが、急性期における「攻めの栄養療法」の中核といえます。

入院時点ですでに「低栄養・サルコペニア」の患者も多い

わが国では、地域在住高齢者においても、

  • サルコペニア有病率:7.5~8.2%

  • 低栄養:6%

と報告されています。つまり、入院前からすでに栄養障害を有している患者が少なくないのが現実です。

急性期では、

  • 入院前の栄養状態

  • 疾患侵襲による必要量増大

の両面を踏まえた、入院時からの栄養スクリーニング・アセスメントが不可欠です。

心不全における栄養管理のパラダイムシフト

近年、心不全治療では「制限する栄養指導」から「BMIを維持する栄養管理」へと考え方が変化しています。

特に心臓悪液質(カヘキシー)では、

  • カテコラミン・コルチゾール上昇

  • 炎症性サイトカイン増加

  • インスリン抵抗性

  • テストステロン低下

  • 脂肪・筋たんぱく分解亢進

が同時に進行します。

ステージC~Dの慢性心不全では、体たんぱく質異化を考慮し、

  • 1.2~1.5g/kg/日のたんぱく質摂取

が推奨されています。

急性期における栄養療法のゴール設定

急性期では在院日数が短く(9~14日)、栄養介入の効果が入院中に明確に現れないことも多いのが実情です。

そのため、

  • 医師

  • 看護師

  • 薬剤師

  • セラピスト

  • 管理栄養士

  • 医療ソーシャルワーカー

など多職種で、退院後の転帰を見据えた現実的なゴール設定が重要となります。

急性期における「攻めの栄養療法」の目的は、

  • 劇的な改善ではなく

  • 栄養状態と身体機能の維持

  • 次のセッティング(回復期・在宅)への橋渡し

であるといえます。

「攻めの栄養療法」が適さない場面

以下の状況では、「攻め」の栄養療法は慎重、あるいは避けるべきです。

  • 超急性期で循環動態が不安定な時期

  • 心不全終末期

  • 不応性悪液質

循環動態が安定し、機能改善が見込めるタイミングを見極めて適応を判断することが重要です。

また、栄養負荷を行う際には、**血糖管理(感染管理の観点からも)**が極めて重要であることを忘れてはなりません。

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