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逗子、葉山、鎌倉、横須賀、横浜市金沢区の在宅医療

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在宅医療における認知症について55~抗精神病薬 ― 効果と危険性をどう見極めるか
〜BPSD(認知症の行動・心理症状)への最終手段〜 BPSD(認知症に伴う興奮・幻覚・妄想など)は、時に介護者の努力だけでは対応しきれないことがあります。そのようなとき、医師が最後の手段として検討するのが 抗精神病薬 です。 しかしこの薬は、確かに「効く」一方で、 命に関わる副作用のリスクもある 。ここでは、その効果と危険性、そして「使うべきかどうか」を考える視点を解説します。 1. 効果とリスクのバランス 非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、クエチアピンなど)は、BPSDのうち特に 興奮・暴言・幻覚・妄想 に対して効果があることが、複数の臨床試験で確認されています。 一方で、そのレビュー(系統的解析)では次のような 有害事象の増加 が報告されています: 眠気・過鎮静 錐体外路症状(手足の震え、筋硬直など) 脳血管障害(脳梗塞など) 尿路感染症、浮腫、歩行障害 死亡リスクの上昇 つまり、「効くけれど危険性も高い」。抑肝散やトラゾドンよりも確実に症状を抑える効果がありますが、その代償として 副作用のリスクが格段に高い のです。 2. FD
11月3日読了時間: 4分


在宅医療における認知症について54~トラゾドン ― 認知症の不眠に対して「唯一の科学的根拠がある薬」
〜ベンゾ系は使ってはいけない、トラゾドンが第一選択〜 同居家族を睡眠不足に追い込むほど厄介なのが、**認知症の人の夜間不眠(睡眠障害)**です。夜中に何度も起きて歩き回る、叫ぶ、昼夜逆転する——こうしたBPSDは、介護者の消耗を大きくし、施設入所や入院を余儀なくされる大きな要因になります。 ベンゾジアゼピン系睡眠薬は使ってはいけない 従来、睡眠障害に対して多く使われてきたのが ベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZD系) 。しかし、最新の系統的レビューでは、BZD系の睡眠薬に関して 認知症患者を対象としたプラセボ対照二重盲検試験が1件も存在しない ことが報告されています。 しかも、BZD系薬剤には以下の副作用リスクが 科学的に確立 しています: 認知機能の低下 せん妄の誘発 転倒・骨折のリスク増加 したがって、 認知症の人の睡眠障害にBZD系を使うべきではありません 。 トラゾドンだけがプラセボを上回った 同レビューによると、これまで臨床試験が行われたのは メラトニン、ラメルテオン、トラゾドン の3剤のみ。 メラトニン → 無効 ラメルテオン → 無
11月2日読了時間: 4分


在宅医療における認知症について53~抑肝散・トラゾドン・抗精神病薬の使い分け
〜BPSDに対する薬物療法の位置づけ〜 前回家族・介護環境の調整」では、まず非薬物的介入(介護者の関わり方や環境調整) を重視すべきことをお伝えしました。それでもなお、興奮や暴言・幻覚などの BPSD(行動・心理症状)**が強く、生活に支障を来す場合に初めて薬物療法を検討します。 抑肝散 ― 易怒・興奮・幻覚への漢方的アプローチ 1. どんなときに使う? 抑肝散は、認知症に伴う 怒りっぽさ・興奮・暴言・暴力 などの症状に効果があるとされる漢方薬です。 2. 効果のエビデンス 複数の無作為化比較試験(RCT)の系統的レビューでは、プラセボ(偽薬)に比べてBPSDの改善がみられたとの報告があります。特に、 妄想・幻覚・焦燥・攻撃性 に対して有効とされました。一方で、**認知機能(MMSEスコア)**の改善効果は認められませんでした。 唯一の二重盲検試験(信頼性が高い試験)では、アルツハイマー型認知症に対して 抑肝散とプラセボの間に有意差は認められません でした。安全性は良好でしたが、科学的には「効くとも言えない」という結論です。 3. 使用時の注意点
11月1日読了時間: 4分


看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する54~在宅でできる「水分貯留と心機能」の評価
〜心嚢液・胸水・LVEF・IVCの観察ポイント〜 ① 水分貯留の評価 ― 心嚢液と胸水を見分ける 在宅医療で心不全を診るうえで重要なのが、**体内の水分貯留(うっ血)**を把握することです。心臓の周囲や胸腔内に液体がたまると、呼吸苦や倦怠感の原因になります。 心嚢液 は心臓を包む膜(心嚢)の内側に貯留し、**心窩部断面(みぞおち方向からのアプローチ)**で観察できます。エコー上では液体成分のため、 黒く抜けた無エコー域 として描出されます。同様に、 胸水 も胸腔内にたまる液体で、心嚢液と同じく黒い無エコー像として観察されます。 少量の心嚢液は経過観察で済むことが多いですが、**心嚢液が多量に貯留して心臓を圧迫する(心タンポナーデ)**場合は緊急対応が必要になります。 ② 心収縮機能の評価 ― LVEF(左室駆出率) 心臓のポンプ機能を示す最も代表的な指標が、**LVEF(Left Ventricular Ejection Fraction:左室駆出率)**です。 LVEFは、心臓が拡張して最も大きくなったときの左室内径(拡張末期径)と、収縮して最
10月31日読了時間: 3分


看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する53~在宅医療で活かす「心エコー」
〜プローブの当て方と観察の基本〜 ① 患者の体位とアプローチ方法 心エコー検査では、 左側臥位または左半側臥位 が基本です。胸骨左縁の 第3〜第4肋間 から観察すると、心臓の構造を最も明瞭に描出できます。 しかし、在宅医療の現場では、 体位変換が難しい 高齢で心臓の位置が下がっている 肺気腫などを合併している といったケースも多く見られます。そのような場合には、 仰臥位のまま心窩部(みぞおち)から観察する ことが有効です。 この「胸骨左縁」と「心窩部」からの2か所のアプローチで、 短時間・低負担で基本的な心機能評価 が可能になります。 ② 使用する装置とプローブ 成人の心エコーでは、 1〜5MHz程度のセクタ型プローブ が標準的です。視野が広く、肋骨の間から心臓全体をとらえることができます。一方、 心窩部からの観察 では、 コンベックス型プローブ でも代用可能です。最近の携帯型エコーには、これらの機能が一体化されており、在宅でも実用的です。 ③ 観察法①:胸骨左縁から心臓全体を描出(左室長軸像) プローブの位置 は胸骨左縁の第3〜4肋間。 マーカ
10月30日読了時間: 3分


看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する52~在宅での需要が高まる「心エコー」の役割
〜高齢社会における心不全管理の新しい視点〜 ① 心疾患は高齢者の主要な死因 日本は世界でも類を見ない超高齢社会を迎えています。それに伴い、 心不全 をはじめとする心疾患の患者数が急増しており、「息苦しい」「足がむくむ」「疲れやすい」といった訴えをもつ高齢者が増えています。 心疾患は、現在日本の 後期高齢者の死因第2位 を占めており、在宅医療でも避けて通れない重要な疾患領域です。 ② 在宅での心不全モニタリングにエコーが活躍 慢性心不全の患者さんは、 在宅での経過観察 が中心となります。普段の生活の中で少しずつ体調が変化するため、医師や看護師が定期的に「増悪のサイン」を見極めることが大切です。 その際に役立つのが、**携帯型の心エコー(超音波検査)**です。呼吸苦や浮腫が出現したときに、心臓の動きをその場で確認できれば、「入院が必要か」「在宅で調整可能か」の判断がスムーズになります。 ③ 在宅で心エコーを行う目的 心不全とは、心臓が全身へ十分な血液を送り出せなくなった状態です。在宅での心エコーでは、主に次の3つのポイントを押さえることで、 心機能の
10月29日読了時間: 3分


看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する51~エコーで腹水量を推定する方法
〜体腔液の性状と臨床判断のポイント〜 ① 腹水量の目安をエコーで評価する 腹水がどの程度たまっているのかを知ることは、治療方針を立てるうえで非常に重要です。CTなどの精密検査ができない場面でも、 エコー(超音波)を用いた簡便な腹水量推定法 が考案されています。 この方法では、 腹水の分布と厚み を基準に概ねの貯留量を推定します。 腹水の分布 推定量(mL) モリソン窩や脾腎境界のみ 約150mL ダグラス窩または膀胱上窩のみ 約400mL 左横隔膜下にわずかに貯留 約600〜800mL 両側傍結腸溝(左右結腸腹側)にも貯留 約1,000〜1,500mL 右横隔膜下に厚み1.0cm 約2,000mL 右横隔膜下に厚み2.0cm 約3,000mL ※仰臥位・体重50kgの成人を標準とした推定値(文献8より引用) このように、**液体の「分布範囲」と「厚み」**を観察することで、体腔全体の腹水量をある程度把握できます。 ② 貯留液の性状を観察する 胸水や腹水は、通常は**漿液性(透明な液体) で、エコー上は 無エコー域(黒く抜けた領域)**として描出さ
10月28日読了時間: 3分


看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する50~胸水・腹水をエコーで観察する ― 横隔膜を中心にしたアプローチ法
1. 横隔膜を境に「胸水」と「腹水」を見分ける 胸水や腹水を観察する際、まず注目すべきは 横隔膜 です。横隔膜は、胸腔と腹腔を分ける“仕切り”のような構造であり、液体がどちら側にあるかで病態の判断が変わります。 エコーでは、肋間から両側を走査します。 右側 :肝臓(右葉)を目標に走査 左側 :脾臓を目標に走査 横隔膜の 頭側(上側)に液体が見えれば胸水 、 尾側(下側)であれば腹水 と判断します。右肋間走査では、少し尾側にずらして**モリソン窩(肝と右腎の間)**の観察も行います。 さらに、下腹部の 正中縦断走査でダグラス窩 を観察。上腹部正中では 肝左葉周囲と心嚢液の有無 も確認します。最後に、 左右の傍結腸溝 もチェックしておくと、腹水の分布をより正確に把握できます。 2. 短時間で液体貯留を確認する「FAST」法 エコーによる胸水・腹水の検索では、**FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)**という考え方が参考になります。 もともとは外傷初療で 体幹部出血を迅速に評価するための
10月27日読了時間: 3分


看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する49~エコーでアプローチする胸腔・腹腔の基礎知識
〜胸水・腹水の「たまりやすい場所」を理解する〜 胸腔と腹腔の構造 胸腔は、 肺の表面を覆う臓側胸膜 と、 胸郭内側を覆う壁側胸膜 の間にある空間です。ここに液体がたまると「胸水」と呼ばれます。少量の胸水は 肺の底(横隔膜に近い背側)にたまり、次第に肺全体を取り囲むように広がります。量が増えると、肺を圧迫して呼吸苦や無気肺 を引き起こすこともあります。 一方、腹腔は 臓器の表面を覆う臓側腹膜 と 腹壁内側を覆う壁側腹膜 の間の空間で、ひとつながりの体腔です。臓器が入り組んでいるため、液体は特定の「たまりやすい場所(リセス)」に集まりやすく、以下のような部位が代表的です。 右横隔膜下腔(肝臓の上) モリソン窩(肝と右腎の間) 左右の傍結腸溝 ダグラス窩(骨盤底の最も低い部分) 仰臥位(あお向け)での液体貯留部位 患者さんが仰臥位になると、液体は 重力により最も低い位置 に集まります。胸腔では 横隔膜上部の肺底部背側 、腹腔では ダグラス窩 → 横隔膜下 → モリソン窩 の順に貯留しやすいとされています。そのため、これらの部位を意識して走査することで、
10月26日読了時間: 3分


看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する48~胸水・腹水におけるエコー(超音波検査)の役割
胸水・腹水とは? 胸腔や腹腔の中には、臓器がスムーズに動くための ごく少量の水分 が存在しています。しかし、心不全や感染、腫瘍などの原因によって 過剰に水がたまる ことがあります。胸腔内にたまる場合を「 胸水 」、腹腔内にたまる場合を「 腹水 」と呼びます。 胸水では呼吸苦、腹水ではお腹の張り(膨満感)を訴えることが多く、在宅医療でもしばしば遭遇する病態です。 滲出性と漏出性 ― 原因による分類 胸水や腹水は、その成分によって大きく**滲出性(しんしゅつせい) と 漏出性(ろうしゅつせい)**に分けられます。 滲出性 :炎症やがんなどにより、血管からタンパク質を多く含んだ液体がしみ出すタイプ→ 例:肺炎やがん性胸膜炎、がん性腹膜炎など 漏出性 :血管内外の圧力バランスが崩れ、薄い液体が漏れ出すタイプ→ 例:うっ血性心不全、肝硬変など 腹水では、がんや肝硬変が主な原因で、胸水では心不全や感染が多くみられます。 検査方法 ― CTやX線だけではない 胸水や腹水の有無を調べる際、病院では一般的に 胸部X線やCT検査 が用いられます。胸水は 150mL以
10月25日読了時間: 3分


在宅医療における認知症について52~【認知症ケアの基本】―家庭で“失敗体験”をさせない、そして“役割”を持ってもらう―
認知症の人が家庭で安心して暮らし続けるためには、 本人の尊厳を守る環境づくり が何より大切です。そのために、家庭内で守るべき2つの原則があります。 ① 本人に「失敗体験」をさせない できないことを無理にさせたり、難しい課題を与え続けたりすると、本人の 自信と意欲を失わせる 結果になります。 料理の段取りがうまくできないのに手順を一人で任せる 複雑な計算ドリルを延々とやらせる 同じ質問に叱責で返す これらはすべて、本人の「できなかった」という体験を積み重ねることになり、不安・焦燥・抑うつを悪化させる BPSDの引き金 になりかねません。 家族にはこう伝えましょう。 「失敗すればするほど、不安が強くなります。」「難しい課題を無理にさせても、認知機能の改善にはつながりません。」 本人が“できる範囲で達成感を得られる活動”を選び、 小さな成功体験を積み重ねる ことが大切です。 ② 本人にできる家事をしてもらう 何もしない時間が長くなると、心身機能が低下していく「廃用症候群」を招きます。頼まれごとがなく、ただ一日中ぼんやり過ごすだけでも、BPSD(不安・焦
10月24日読了時間: 3分


在宅医療における認知症について51~【認知症ケアの基本】
―外出機会が乏しい人にはデイサービスを― 認知症の人にとって、外出や社会的交流の機会は「脳の活性化」と「生活リズムの維持」に直結します。仕事や地域活動がなく、家に閉じこもりがちな場合は、 デイサービスの利用 が最も効果的な非薬物療法です。 ■ デイサービスは“非薬物療法”の中心 英国の NICE(国立医療技術評価機構)認知症ガイドライン では、軽度〜中等度の認知症に対して、 「構造化された集団認知刺激療法(Cognitive Stimulation Therapy:CST)への参加機会を与えるべき」と明記されています。 日本の介護保険制度でいう デイサービス は、まさにこのCSTに相当する取り組みです。 ■ 科学的根拠が示す“デイサービスの効果” 日本で行われた認知症治療薬の臨床試験解析(GAL-JPNシリーズ・メマンチン国内第Ⅲ相試験)では、薬を使っていない プラセボ群の中でも、介護サービスを利用していた人のほうが 、 全般的臨床評価(CIBIC-plus) 認知機能スコア(SIB)でより良い結果を示しました。 つまり、 介護サービス(デイサー
10月23日読了時間: 3分


在宅医療における認知症について50~【認知症ケアの基本的対応】―最初に確認すべき5つの優先順位―
認知症が疑われたとき、すぐに薬や介護サービスを考える前に、まず行うべきことがあります。それは「 診断の確定と除外 」です。 まずは、内科的・脳外科的疾患による可逆的な認知機能低下(例:甲状腺機能低下、慢性硬膜下血腫、感染症など)を除外し、次に「薬剤による認知機能低下」がないか確認し、必要なら 減薬 を行います。 これらを終えたうえで「認知症性疾患である」と判断された場合、次の5つの対応方針を念頭におきましょう。 🧩 認知症対応の5つの優先順位 危険動作はやめてもらう 仕事や社会的活動はできるだけ続けてもらう 外出機会が少ない人にはデイサービスを利用してもらう 家庭では“失敗体験”をさせない 家庭内でできる家事は本人にやってもらう この順番を意識するだけで、日常対応の迷いがぐっと減ります。以下、それぞれのポイントを具体的に見ていきます。 ① 危険動作はやめてもらう ― 安全がすべての出発点 認知症ケアの第一歩は「 安全の確保 」です。本人や家族の希望よりもまず優先すべきは、“事故を防ぐこと”。このステップを乗り越えれば、早すぎる入所を防ぐことにも
10月22日読了時間: 4分


在宅医療における認知症について49~【抗精神病薬②】―使用の適応と、減薬・中止の考え方―
認知症のBPSD(行動・心理症状)に対して、 抗精神病薬 を使うかどうかは非常に難しい判断です。効果は確かにありますが、その一方で 死亡率上昇という重大なリスク が伴います。では、どんなときに使うべきなのでしょうか。 ■ 抗精神病薬が「やむを得ない」ケース 多くの国内外のガイドラインでは、 「 非薬物療法で対応しても自傷他害のおそれがある場合 に限って使用する」と明記されています。 つまり、 本当に命や安全を守るためにしか使わない薬 です。 たとえば── 幻視によって「畳に虫がいる」と思い込み、ろうそくで畳を焼こうとする人 「妻が浮気をしている」という妄想から、ゴルフクラブで攻撃しようとする人 このように、 介護者の安全が脅かされる状況 では、副作用リスクを理解した上で「薬を使わないことの危険性」と比較検討する必要があります。 抗精神病薬を使えば危険性は確かに高まりますが、使わなければ 火事や暴力などの重大事故 に発展しかねません。つまり、命を守るための“非常手段”として使用が検討されるのです。 ■ 家族と共有すべき「具体的な数字」...
10月21日読了時間: 4分


在宅医療における認知症について48~【抗精神病薬】―BPSDに「効く」が、「危険」も伴う薬―
認知症のBPSD(行動・心理症状)──とくに興奮・暴言・幻覚・妄想などが強い場合、医師が処方を検討する薬のひとつに 抗精神病薬 があります。 抑肝散やトラゾドンに比べると、抗精神病薬は 確実な効果 が期待できる一方で、 重大な副作用リスク を伴う薬であることを忘れてはなりません。 ■ 抗精神病薬の効果と危険性 BPSDに対する 非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、クエチアピンなど)の効果を検証した無作為化二重盲検試験のレビューでは、確かに興奮・攻撃性・幻覚などの症状が有意に改善 しました。 しかし同時に、以下の リスク上昇 が明らかになっています。 強い眠気・ふらつき 錐体外路症状(パーキンソン様症状) 脳血管障害(脳梗塞・脳出血など) 尿路感染症・浮腫・歩行障害 死亡率の上昇 つまり、「効くが危険」という薬なのです。 ■ FDAの警告:死亡リスクは1.6〜1.7倍 2005年、 アメリカ食品医薬品局(FDA)は、非定型抗精神病薬を認知症患者に使用すると死亡率がプラセボの1.6〜1.7倍 になると警告しました。2008年には定型抗精神病
10月20日読了時間: 3分


在宅医療における認知症について47~【トラゾドン】―認知症の不眠とBPSDにどう向き合うか―
認知症のBPSD(行動・心理症状)の中でも、 睡眠障害 は家族や介護者を最も疲弊させる症状の一つです。「夜間の徘徊や覚醒で同居家族が眠れない」──その対応に悩む現場は少なくありません。 ■ ベンゾジアゼピン系睡眠薬は使ってはいけない これまで睡眠障害に使われてきた ベンゾジアゼピン受容体作動薬 (例:マイスリー、ハルシオンなど)は、認知症患者に対しては 科学的根拠がなく、むしろ害がある ことが分かっています。 その理由は以下の通りです。 認知機能をさらに低下させる せん妄・転倒・骨折のリスクを高める 依存性を生じる したがって、 認知症の人の睡眠障害に使ってはいけない薬 と考えるべきです。 ■ 科学的根拠があるのはトラゾドンだけ 認知症における睡眠障害治療薬の有効性を検証したレビューでは、臨床試験が行われたのは メラトニン・ラメルテオン・トラゾドンの3剤のみ 。 そのうち、 トラゾドンだけがプラセボより有効 であり、かつ 安全性も高い ことが報告されています(被験者30名の小規模試験ですが、重要な結果です)。 ■ トラゾドンの使い方と注意点 トラ
10月19日読了時間: 3分


在宅医療における認知症について46~【抑肝散・トラゾドン・抗精神病薬】
―BPSD(認知症の行動・心理症状)への薬物治療をどう考えるか― 非薬物的アプローチ(家族・介護環境の調整)を行ってもBPSDが落ち着かない場合、初めて薬物療法の検討が必要になります。ここでは、漢方薬の 抑肝散 を中心に、科学的根拠と注意点を整理します。 ■ 抑肝散の特徴と効果 抑肝散(よくかんさん)は、 易怒性・興奮・暴言・暴力・幻覚・妄想など のBPSD症状に一定の効果を示すことがあるとされています。無作為化比較試験のレビューでは、プラセボ群と比較してBPSD全般、とくに 妄想・幻覚・焦燥/攻撃性 の改善が報告されました。副作用による中止率もプラセボと差がなく、安全性が高い点が特徴です。 ただし、 認知機能(MMSEスコア)を改善する効果は確認されていません。 さらに、唯一の二重盲検試験では、アルツハイマー病のBPSDに対して 有意差が認められなかった という結果が出ています。したがって、「効く場合もあるが、確実ではない」薬といえます。 ■ 使用上の注意と投与法 抑肝散には 甘草 が含まれるため、 低カリウム血症・浮腫・高血圧・不整脈...
10月18日読了時間: 3分


看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する47~エコーで見るDVT⑥ ― 血栓の評価と判断の実際
深部静脈血栓症(DVT)の診断では、 血栓の存在・範囲・可動性・性状 を正確に把握することが重要です。ここでは、エコーによる血栓評価の基本手順を順を追って紹介します。 🔍血栓評価の4ステップ 1️⃣ 血栓検索(存在診断) 2️⃣ 血栓範囲の把握 3️⃣ 血栓中枢端(血栓尖)の可動性評価 4️⃣ 血栓性状評価(急性/慢性の判定) ① 血栓検索(存在診断) 基本は B-mode(2Dモード)による短軸走査 です。静脈を短軸で連続観察しながら、 適時圧迫 を行い血栓の有無を判断します。 🔸圧迫法の原理 正常静脈 :圧迫により完全につぶれ、内腔が消失する。 血栓あり :静脈内腔がつぶれず残存。(動脈は圧迫してもつぶれないため、比較対象として有用) 💡 静脈がつぶれない=血栓を強く疑う。短軸で検出後、 長軸走査 で血栓の連続性と内部性状を確認します。 🔸補助技術 カラードプラ法 :血流信号の欠損により血栓の存在を確認。 骨盤内観察 :腸管ガスの影響があるため、 やや強めの圧迫 で背側の静脈を描出。 ⚠️ 急性期の浮遊型血栓 は可動性が高く、 強い
10月17日読了時間: 4分


在宅医療における認知症について45~認知症の精神症状とその対応
〜性格のせいにせず、関係の中で変わるBPSD〜 🧩 病前性格との関係 「もともと気が強かったから」「昔から頑固だったから」といった 病前性格 とBPSD(行動・心理症状)を結びつけて考えることがありますが、実は 明確な因果関係は証明されていません 。...
10月10日読了時間: 4分


在宅医療における認知症について44~家族・介護環境の調整 〜BPSDがこじれる典型的パターン〜
うつ症状やBPSD(認知症の行動・心理症状)に対して、 断酒・減薬・身体疾患の治療・非薬物療法 など、医学的にできることをすべて行っても、それでもなお 精神症状が残る ことがあります。 その場合に必要になるのが、 家族・介護環境の調整 です。場合によっては、医学的介入と...
10月9日読了時間: 3分
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