がん性皮膚潰瘍とロゼックス®ゲルのケア:在宅医療での実践と工夫
- 賢一 内田
- 7月9日
- 読了時間: 3分

表在化して自壊する皮膚転移 ― がん性皮膚潰瘍とは
下の画像は、皮膚転移が体表に現れ、自壊した「がん性皮膚潰瘍」の一例です。皮膚に浸潤・再発・転移した悪性腫瘍が潰瘍化し、独特の臭いや浸出液、出血、疼痛を伴うことがあります。当院ではこうした皮膚潰瘍に対し、ロゼックス®ゲルを中心とした外用ケアを積極的に行っています。この記事ではその理由と実際の使い方を解説します。
がん性皮膚潰瘍の病態と臭気のメカニズム
がん性皮膚潰瘍は、転移性がんの約5〜10%に発生するとされ、特に乳がんや頭頚部がんでの頻度が高いと報告されています【※1】。
潰瘍面から漂う特有の不快な臭い(がん性皮膚潰瘍臭)は、潰瘍深部の感染や腫瘍組織の壊死に由来します。嫌気性菌(Bacteroides属、Clostridium属など)が産生する**揮発性脂肪酸(酪酸・吉草酸・ヘキサン酸など)や、壊死によるポリアミン(プトレシン・カダベリン)**が臭気物質となるのです【※2】。
がん性皮膚潰瘍臭が及ぼす影響
◆ 患者さんへの影響
直接的苦痛:不快な臭いがもたらす持続的な精神的・身体的苦痛
間接的苦痛:自尊心の低下、社会的孤立、治療意欲の喪失
◆ 周囲の影響
家族や医療スタッフのコミュニケーション困難
看護・介護負担の増加
におい対策とケアのポイント
① 創の洗浄
wound bed preparation(創面環境調整)の基本です。潰瘍部と周囲を微温湯と弱酸性洗浄剤で丁寧に洗浄し、壊死組織は可能であれば除去します(※出血リスクがある場合は控える)。

② ロゼックス®ゲルの使用
当院では、潰瘍部の臭気コントロールと感染予防にロゼックス®ゲル(有効成分:メトロニダゾール)を使用しています。これは嫌気性菌のDNA合成を阻害し、殺菌・静菌作用を発揮します。

◆ 実際の使用方法
創部とその周囲を洗浄
潰瘍に合うサイズのガーゼにロゼックス®ゲルを塗布
貼付後、吸水パッドを重ねて固定
◆ 使用量の目安
10×10cmの潰瘍に対して1回あたり約8g。
◆ 注意点
禁忌:「脳・脊髄の器質的疾患(例:多発性脳梗塞、てんかん、髄膜炎など)」がある方には注意。
血中移行の可能性あり(Cmaxはフラジール内服の1/8.5程度)。最大30g/日で7日間連続使用時のCmax:852ng/mL。
緩和ケアとしての意義
がん性皮膚潰瘍は、痛み・出血・悪臭などの身体的なつらさに加え、精神的な苦痛や社会的孤立といった全人的苦痛を引き起こします。
私たちはロゼックス®ゲルを適切に使用することで、こうした症状に苦しむ患者さんのQOL(生活の質)を少しでも高めることを目指しています。
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