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在宅医療における認知症について73~【睡眠薬パンフレットはどう読むべきか】

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 12 分前
  • 読了時間: 3分


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——ラメルテオン国内治験(CCT003試験)を例に解説——

さくら在宅クリニック

不眠症治療では「プラセボ効果(偽薬効果)」が大きく働くことが知られています。そのため、製薬会社のパンフレットでは実薬(本物の薬)のデータだけが強調され、プラセボ群の変化が見えにくくなることがあります。

今回は、睡眠薬ラメルテオン(商品名:ロゼレム)の国内治験データを例に、“パンフレットをどう読むべきか”について整理してみます。

■ ラメルテオンとは?

メラトニン受容体を刺激して「自然な眠気を導く」作用があるとされる睡眠薬です。ベンゾジアゼピン系やオレキシン受容体拮抗薬とは作用機序が異なり、依存性が少ないことが特徴と言われています。

■ CCT003試験の概要

  • 対象:慢性不眠症患者

  • 方法:ラメルテオン8mg vs プラセボ

  • 期間:14日間

  • 主要評価項目: 自覚的睡眠潜時(sSL:寝つくまでに要した時間)の変化

  • 全員が「睡眠日誌」をつけながら経過を観察

睡眠潜時(sSL)は、寝床に入った時刻 → 寝ついた時刻の差として記録されます。

■ “実薬だけ”を見た場合のグラフ(図10)

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パンフレットでよくみかけるのは、実薬群だけを描いた図。これを見る限り、治療前と比較して「ラメルテオンを飲むと寝つきが改善しているように見える」という印象になります。

■ しかしプラセボ群も並べてみると…(図11)

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実薬群とプラセボ群を同じグラフに載せると、両方ともほぼ同じように改善していることがわかります。

つまり、

  • 「薬が効いた」というより

  • “プラセボ効果”や“睡眠日誌をつけることによる副次的効果”の影響が大きい可能性があります。

睡眠日誌をつけると

  • 寝床に入る時刻が早すぎた

  • 朝起きる時刻が遅いなど、生活リズムの乱れに本人が気づき、自然と睡眠習慣が整っていくためです。

■ 結果のまとめ(表14)

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投与1週目:

  • プラセボより4.54分短縮(約272秒)

  • p = 0.001で統計学的には「有意」

投与2週目:

  • 差は2.36分(142秒)に縮小

  • p = 0.109で「有意差なし」

👉つまり、2週目には実薬とプラセボはほぼ同じという結果です。

■ 効果は「2分36秒」…この数字をどう解釈するか?

ラメルテオンを2週間飲んだときに期待できる効果は、寝つきが“約2分36秒”早くなる程度

これに価値があるのかどうかは、

  • 患者さん

  • 医療者

  • 規制当局

  • そして納税者の立場によって評価が分かれます。

事実、欧州(EMA)では2008年に承認されませんでした。

■ 安全性についてはどうか?

プラセボ群:7.0%(34/482例)ラメルテオン群:7.8%(38/489例)

差はわずか0.7ポイント。主な有害事象は

  • 傾眠

  • 頭痛

  • めまい

  • 倦怠感

  • 血中尿酸上昇

実薬とプラセボでほぼ同等の安全性であり、他の睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系やスボレキサント)のリスクと比較すると相対的には「安全寄り」といえます。

■ パンフレットを読むときの注意点

製薬会社のパンフレットは「実薬群だけ」を強調する傾向があります。

しかし、実際には

  • プラセボ効果

  • 睡眠日誌による行動変容が影響しており、実薬の真の効果は非常に小さい場合があります。

医師としては、“実薬だけのグラフ”に惑わされず、必ずプラセボとの比較を見る姿勢が必要といえるでしょう。

■ まとめ

  • ラメルテオンは比較的安全だが、効果は非常に小さい

  • プラセボ群も大きく改善する理由は睡眠日誌による行動変化

  • 実薬とプラセボの差は1〜2週で縮小

  • パンフレットは実薬群だけを見せる場合が多く注意が必要

睡眠薬は「飲めば眠れる」という単純なものではなく、生活リズムの見直しや睡眠習慣の改善こそが、本当の治療の中心です。

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