在宅医療における認知症について70~【抗うつ薬の“効果グラフ”はなぜ誤解を生むのか】
- 賢一 内田
- 18 時間前
- 読了時間: 3分

— 製薬会社が「プラセボ群を目立たなくする」方法を徹底解説 —
抗うつ薬の効果を示す治験データは、しばしばプラセボ群(偽薬)に比べて優れているように見えるよう加工されています。
とくにSSRI のように、自然回復率の高いうつ病では、実薬とプラセボの差が小さく、製薬会社にとっては治験データの見せ方が極めて重要です。
今回取り上げるのは、2011年発売のSSRIエスシタロプラム(レクサプロ)の国内治験(MLD55-11MDD21)のグラフです。
実データを読み解くと、製薬会社パンフレットで典型的に行われる“印象操作”がよくわかります。
■ 1. プラセボなしのグラフはよく見える(図1)

最初の図は「実薬10mg群」と「20mg群」だけを比較したもの。
治療前 → 8週間後で HAM-D が大きく下がるので「お、効いているな」と感じます。
しかし──これはプラセボ群が描かれていないグラフです。
つまり、「自然経過で良くなっている分」を隠しているわけです。
■ 2. プラセボを入れると印象は一変(図2)

同じ治験で、プラセボ群も一緒に描いたものが図2。
ここで、読者の印象は完全に変わります。
プラセボ群(偽薬)も大幅に改善
10mg 群とほぼ同じ
20mg 群は、なんとプラセボ群より改善幅が小さい
つまり、
実薬とプラセボの差は「ほぼゼロ」
ということです。
■ 3. 実際の数字を見ても、差はほぼ存在しない(表11)

HAM-Dの改善量は以下の通り:
群 | 改善量(治療前 → 8週後) |
プラセボ | -13.2 |
10mg | -13.6 |
20mg | -12.3 |
→ プラセボより優れている、と明確に言えるデータではない。
■ 4. 有害事象はどうか?(図3)

有害事象の発生率を見ると:
プラセボ:60%弱
10mg:70%
20mg:80%
副作用の発生率は、実薬の方がプラセボより高い(むしろ用量依存的に増えている)。
■ 5. 製薬会社はどう“印象操作”するのか?
今回の図から読み取れる典型的な手法は次の3つです。
◎ 印象操作①
「プラセボなしのグラフ」だけを前に出す
図1のように、実薬群だけをプロットすると見栄えがよくなる。
読者は「効いている」と錯覚しやすい。
◎ 印象操作②
プラセボ群の線を細く・薄く・点線にして存在感を消す
図2がまさにそれ。
実薬 → 太線・濃い色
プラセボ → 細い点線・薄い色
同じデータでも、見せ方で効果があるように見える。
◎ 印象操作③
有害事象の高さを比較しにくいグラフを使う
図3では縦軸100%まで使ってあり、差が目立ちにくい。
実際には:
20mg群はプラセボより約20%も有害事象が多い
しかしグラフのデザインで「誤差」に見えるようになっている
■ 6. 製薬会社がこの手法を使う理由
うつ病は 自然回復率が 2年で80–90% と非常に高いため、治験では実薬とプラセボの差が小さくなりがちです。
製薬会社にとっては都合が悪いので、
プラセボを目立たなくする
実薬群だけのグラフを先に提示する
差があるように見える色使いにする
といった手法が多用されます。
■ まとめ
今回のエスシタロプラム治験は、「実薬はプラセボとほとんど変わらない」という結果でした。
しかし、パンフレットの構成や色の使い方によって「実薬は有効」という印象をもたせることができます。
抗うつ薬は「効かない」という話ではありません。問題は──
製薬会社資料は“教科書”ではなく“広告物”であるデータの見せ方にバイアスがかかっていることを理解する必要がある
という点です。
うつ病治療では、医師がデータの本質を読み解き、患者への説明に生かすことが重要です。
■ 参考リンク
● さくら在宅クリニック(在宅医療・緩和ケア)https://www.shounan-zaitaku.com/
● 精神科医・袋井先生のYouTubeチャンネルhttps://www.youtube.com/@fukuroi1971




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