在宅医療における認知症について68~【医師向け】抗うつ薬の「中止後症状」を理解する
- 賢一 内田
- 2 日前
- 読了時間: 4分

— SSRI・SNRIの離脱症状はなぜ起こるのか —
抗うつ薬は“始めるのは簡単だが、やめるのは難しい薬”です。その理由のひとつが、服薬中断によって現れる 「抗うつ薬中止後症状(discontinuation symptoms)」 です。
イライラ
嘔気
めまい
運動失調
発汗
感覚異常
悪夢
これらの症状は、うつ病の再発と見分けにくく、時に患者さん・医療者双方を混乱させます。
■ 1. 抗うつ薬中止後症状とは?
英語では "antidepressant discontinuation symptoms" と呼ばれ、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)で特に起こりやすいものの、すべての抗うつ薬で発生しうる とされています。
中止後症状は、欧米でも1990年代以降くり返し研究されており、抗うつ薬の治療ガイドラインでも “注意すべき副作用” として位置づけられています。
■ 2. SNRI(特にデュロキセチン)でも高頻度に起こる
デュロキセチンは、
うつ病
糖尿病性神経障害
線維筋痛症
慢性腰痛症
変形性関節症の疼痛
…など多くの効能で使用されますが、れっきとした抗うつ薬 である以上、中止後症状が起こる可能性があります。
● デュロキセチンの中止後症状
メタ解析による報告では、発現率は44.3%と、かなり高い数字が示されています。
実際に、
飲み忘れた翌日に重度の離脱症状に苦しんだ症例
痛みの薬として処方され、効かないため自己中断したら強烈な中止後症状が出た症例
などが海外から複数報告されています。
また、SSRIとSNRIを比較したレビューでは、最も症状が重かったのはSNRI とされています。
■ 3. 中止後症状のチェックツール「DESS尺度」
中止後症状を評価するためのDESS(Discontinuation – Emergent Signs and Symptoms)尺度が存在し、臨床試験でも使用されています。
評価項目は40項目以上。
● 例
不安
イライラ
情動不安定(突然悲しくなる・怒りっぽい)
不眠・悪夢
発汗
手足のふるえ
目の乾燥・刺激感
歩行の不安定
視覚・聴覚の違和感
めまい
嘔気
下痢
感覚異常(電気が走るような“シビレ感” など)
非常に多彩であり、うつ病の再発や身体疾患と誤診されやすい ことが問題です。
■ 4. いつ起こる?どれくらい続く?
SSRIのメタ解析では以下のようにまとめられています。
出現時期:中止から数日以内が多い
多くは数週間で軽快
しかし
遅発例(数週間後に発症)
長期持続例(数週間〜数ヶ月) も存在
特に半減期の短い
パロキセチン(SSRI)
ベンラファキシン(SNRI)は中止後症状が出やすいことで知られます。
■ 5. 「漸減中止」しても症状は出ることがある
理論的にはゆっくり減らした方が安全ですが、臨床試験では以下の結果が出ています。
● 3日間で中止 vs 14日間で中止
→ 中止後症状の発現率はほぼ同じ(46.7% vs 46.2%)
● 症状が寛解した患者でも
→ 45%に中止後症状が出現
● メタ解析
→ 漸減しても、中止後症状の予防には必ずしもならない
つまり、「ゆっくり減らしても出るときは出る」というのが実際です。
■ 6. 治療法──残念ながら“決め手”はない
中止後症状には標準治療がなく、多くは“現場判断”になります。
● 軽度の場合
→ 数週間で自然軽快することが多い
● 重度の場合
元の抗うつ薬を再開する
より半減期の長い抗うつ薬(例:フルオキセチン)に切り替える
などが実際的な対応です。
■ 7. 患者への説明は「必ず」必要
抗うつ薬は
「飲み始めるのは簡単だが、やめるのは難しい薬」
にもかかわらず、中止後症状を事前に説明しないまま処方してしまうケースが少なくありません。
説明しない理由として「患者が怖がって飲まなくなるから」と言う医師もいますが、これは医学的にも倫理的にも不適切です。
なぜなら──
中止後症状は 40〜50% の発現率
うつ病の再発と誤解して 不必要な検査や再処方 に繋がる
自己判断の中断がもっとも危険
だからこそ、抗うつ薬開始時に必ず“やめるときのリスク”を説明することが必須 です。
■ まとめ
抗うつ薬の中止後症状は、医師にとっても難しいテーマですが、患者さんにとっては生活の質を大きく左右する重大な問題です。
SSRI・SNRIでは中止後症状が頻発
SNRI(特にデュロキセチン)は重症化しやすい
漸減中止しても予防できない場合がある
標準治療はなく「再開」か「経過観察」が中心
だからこそ、開始前の説明が最重要さくら在宅クリニック - YouTube
#抗うつ薬 #離脱症状 #中止後症状 #SSRI #SNRI
#デュロキセチン #パロキセチン #ベンラファキシン
#精神薬理 #メンタルヘルス #処方の注意点
#在宅医療 #さくら在宅クリニック #医師ブログ



コメント