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在宅医療における認知症について67~【医師向け】「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」という言葉に潜む“印象操作”

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 4 日前
  • 読了時間: 3分

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精神科領域の製薬会社パンフレットをどう読むか

医療の世界は非常に幅広く、精神科を専門としない医師が“精神薬理”の細部まで把握することは現実的には困難です。その隙間を埋めるように、製薬会社は「精神科の知識を分かりやすくまとめたパンフレット」を無料で配布します。

しかし、その多くは**気づかれないように巧妙に“自社製品が有利に見えるよう加工された情報”**です。医師側はそれを理解したうえで読み解くか、それとも受け取らないか──常に二者択一を迫られています。

精神科や老年医学の領域では特に、こうした“用語の印象操作”によって誤解が生まれやすく、処方判断に影響が出ることもあります。

❚ よくある印象操作①

「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」という“安全そうな名前”

ゾルピデム・ゾピクロン・エスゾピクロンは、製薬会社の資料では**「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」**という名前で紹介されます。

この表現は、

💡 ベンゾジアゼピンとは全く違う、安全な新世代の睡眠薬という“誤った印象”を与えがちです。

しかし実際には──

■ 同じ受容体に結合します

構造式が違うだけで、作用はベンゾジアゼピン系と同じくベンゾジアゼピン受容体に結合します。

つまり、依存・転倒・骨折・せん妄・認知機能低下のリスクは同様です。

❚ 転倒・骨折リスクは本当に低い?

研究データをみると、むしろ 非ベンゾ(Z薬)の方がリスクが高い 場面も多いことがわかっています。

● 例:ゾルピデム使用者の入院中転倒率

  • ゾルピデム投与群:3.04%

  • 非投与群:0.71%4倍以上の転倒リスク

● 高齢者骨折との関連

股関節骨折のオッズ比

  • ゾルピデム:1.95

  • ベンゾ系:1.46→ ゾルピデムの方が高い

● 歩行バランス試験

健常高齢者12名の試験では

  • ゾルピデム内服:58%が歩行バランス不良でテスト失敗

  • プラセボ:0%

❚ なぜ「非ベンゾ」が広まったのか

高齢者には本来、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を“できるだけ使わない”のが国際的標準です。

  • 米国老年医学会:65歳以上は使用回避

  • 日本老年医学会:75歳以上は慎重投与

  • 海外の処方期間:1〜2週間〜最大4週間まで

しかし、不眠を訴える高齢者は非常に多く、睡眠衛生指導だけでは納得されないケースが多いのも事実です。

この“困った状況”で、製薬会社は 「非ベンゾ」という安全そうな新名称を打ち出し、医師と患者の双方に受け入れやすい印象を作り出しました。

❚ 医師が気をつけるべきポイント

  1. 「非ベンゾ」という言葉は構造の違いを指すだけで、作用は同じ

  2. 高齢者では転倒・骨折リスクが明確に上昇する

  3. 睡眠衛生指導は嫌がられやすいが、最も根本的な治療法

  4. 製薬会社パンフレットは“印象”でなく“データ”を見ることが重要

❚ 参考リンク

YouTubeで分かりやすく解説

● さくら在宅クリニック(在宅医療・緩和ケア)👉 https://www.shounan-zaitaku.com/

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