攻めの栄養療法を科学する⑤~【リハ栄養診療ガイドライン2018のポイントまとめ】
- 賢一 内田
- 12月3日
- 読了時間: 4分

――4疾患に対する最新エビデンスと実践への活かし方――
リハ栄養の実践では、「どの患者に、どの程度の栄養介入を行うべきか?」という判断が常に求められます。
その指針となるのが、リハ栄養診療ガイドライン2018 です。ここでは、ガイドラインが示す重要ポイントをわかりやすくまとめます。
◆ リハ栄養診療ガイドライン2018の対象疾患
現時点での信頼できるエビデンスをもとに、4つの疾患領域に対して推奨が作成されています。
● 対象となる4疾患
脳血管疾患
大腿骨近位部骨折
成人がん(不応性悪液質を除く)
急性疾患(acute illness)
これらの臨床課題(CQ)に対して、GRADE system(エビデンス評価方法)に基づき推奨が整理されています。
◆ 強化型栄養療法とは?
ガイドラインにおける「強化型栄養療法」は、通常の食事や給食に加え、
個別の栄養アセスメント
栄養指導、栄養カウンセリング
経口補助食品(ONS)
経腸・静脈栄養
などを組み合わせて行う 積極的な栄養介入 を指します。
◆ 4疾患の推奨内容(エッセンス)
① 脳血管疾患(高齢・急性期)
【CQ】リハ実施中の脳血管疾患患者に強化型栄養療法を行うべきか?▶ 【推奨】弱く推奨(エビデンス低)
理由:死亡率・感染症の減少、QOL改善が期待できるため。
② 大腿骨近位部骨折(65歳以上)
【CQ】リハを実施している65歳以上の大腿骨近位部骨折患者に強化型栄養療法は必要か?▶ 【推奨】弱く推奨(エビデンス低)
理由:
死亡率低下
合併症減少
ADL改善
筋力改善といった効果が示されているため、術後早期からの併用が望ましい。
③ 成人がん
【CQ】不応性悪液質を除く成人がんにリハ+栄養指導は有効か?▶ 【推奨】一律の推奨はしない(エビデンス非常に低)
理由:
QOLが低下する可能性
介入研究の脱落率が高い
エビデンスが乏しい
ただし、患者の意向・病状を踏まえて個別判断が望ましい。※パネル会議では「がん患者のリハ栄養を否定すべきでない」という患者家族の声も反映されている。
④ 急性疾患(acute illness)
【CQ】リハ実施中の急性疾患患者に強化型栄養療法を行うべきか?▶ 【推奨】弱く推奨(エビデンス非常に低)
理由:リハ効果の向上が期待でき、自主的リハに加えて 強化型リハプログラムとの併用が望ましい とされている。
◆ 診療ガイドラインは「EBMに基づく意思決定ツール」
ガイドラインは EBM(Evidence Based Medicine) の考え方に基づいて作られています。
EBMは次の5ステップで実践されます。
疑問を定式化する(CQ設定)
情報(研究)を集める
集めた情報を批判的に評価する
患者に適用する
振り返り・改善する
ガイドラインの作成過程はこのEBMそのものであり、臨床家が実践する際の STEP2(研究探索)・STEP3(批判的吟味)を代行し、治療を行う STEP4(適用)を支援する役割 を担っています。
◆ 推奨は「エビデンスだけ」で決まるのではない
リハ栄養の推奨文は下記の要素を総合的に評価して決められます。
エビデンスの信頼性(確実性)
効果と害のバランス
患者家族の意向
価値観
費用対効果
医療者の専門性
医療環境・地域性
たとえば 成人がん では、当初「推奨しない」案だったものが、患者家族の希望・価値観を反映して最終案が修正されました。これはリハ栄養学会が「患者とともに作るガイドライン」を重視している象徴的な事例です。
◆ リハ栄養ガイドラインの“本当の価値”
ガイドラインは「正解を押し付けるもの」ではありません。患者と医療者が、最適なケアをともに選ぶための基盤となるものです。
何を根拠に判断するのか?
どこまで介入するのが妥当なのか?
どの患者にどの栄養介入が必要なのか?
こうした疑問に答えるための 意思決定支援ツール として活用することが、リハ栄養ガイドラインの最大の意義です。




コメント