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攻めの栄養療法を科学する24~侵襲|高度侵襲下では「攻めの栄養療法」は禁忌

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 2025年12月24日
  • 読了時間: 3分


侵襲とは何か

侵襲とは、重症感染症・大手術・多発外傷・熱傷など、生体を傷害し、生体恒常性を大きく乱す刺激を指します。

侵襲が加わると、生体内では以下が生じます。

  • 内因性エネルギー供給(endogenous energy supply)の増大

  • ストレスホルモン・炎症性サイトカインの大量分泌

一方、栄養療法は**外因性エネルギー供給(exogenous energy supply)**に相当します。生体のエネルギー需要は、👉 内因性+外因性エネルギーの合計で満たされるという点が重要です。

「必要量=外因性投与」は危険

侵襲下で、エネルギー必要量と同量の外因性エネルギーを投与すると、実質的には overfeeding(過剰栄養) となる可能性があります。

その結果、最も問題となる合併症が 高血糖 です。

侵襲時に高血糖が起こる理由

侵襲時には、

  • 肝臓・骨格筋のグリコーゲンが消費される

  • 肝グリコーゲンは 12~24時間程度で枯渇

  • その後は

    • 乳酸

    • アミノ酸

を材料とした 糖新生 によりグルコースが供給されます。

飢餓時と異なる重要な点は、

  • 外因性に糖質(ブドウ糖)を投与しても糖新生が抑制されない

  • インスリン抵抗性が進行し

    • グリコーゲン合成

    • 脂肪合成

が阻害され、高血糖をきたしやすいことです。

高血糖がもたらすリスク

  • 好中球機能低下

  • 細胞内殺菌能低下

  • 免疫能低下

これにより 感染症リスクが増大するため、👉 目標血糖値は 180 mg/dL 以下に管理することが推奨されます。

侵襲時の栄養投与の目安

  • エネルギー必要量

    • 間接熱量計

    • または 25~30 kcal/kg/day(簡易式)

  • たんぱく質投与量

    • 1.2~2.0 g/kg/day(実測体重)

    • 腎機能を評価しながら調整

ただし、重要なのは👉 侵襲による低栄養は「原因治療」が最優先という点です。

侵襲の根源(感染・出血・炎症・外科的侵襲など)が適切にコントロールされなければ、栄養療法のみで低栄養を改善することは困難です。

そのため、👉 高度侵襲下における「攻めの栄養療法」は原則として禁忌と考えます。

悪液質|「攻めてはいけない」代表的病態

悪液質とは

悪液質(cachexia)は、通常の栄養療法では改善が困難で、

  • 著明な骨格筋量減少

  • 機能障害の進行

を伴う、慢性炎症を背景とした代謝異常症候群です。

主な原因疾患には以下があります。

  • がん

  • 慢性心不全

  • 慢性腎不全

  • COPD

  • 自己免疫疾患

  • 慢性感染症

  • 敗血症などの消耗性疾患

がん悪液質のステージと栄養療法

がん悪液質は以下の3段階に分類されます。

① 前悪液質(Pre-cachexia)

  • 慢性炎症

  • 軽度の体重減少

  • 食欲不振

👉 早期介入が最も重要なステージ

  • エネルギー:25~30 kcal/kg/day

  • たんぱく質:1.0~1.5 g/kg/day

定期的な評価を行いながら、攻めの栄養療法も条件付きで可能です。

② 悪液質(Cachexia)

  • 明らかな体重減少

  • 筋肉量減少

  • 身体機能低下

病態に応じて、症状緩和を意識した栄養介入が中心となります。

③ 不応性悪液質(Refractory cachexia)

  • 急速に進行するがん

  • 抗がん治療への抵抗性

  • 余命が限られた状態

この段階では、

  • 経管栄養 → 下痢・腹部膨満・嘔吐

  • 静脈栄養 → 浮腫・腹水・胸水・高血糖

などにより、QOLを著しく低下させる可能性があります。

👉 不応性悪液質では、栄養状態改善を目的とした「攻めの栄養療法の適応はない」と考えられます。

まとめ|侵襲・悪液質は「攻めない勇気」が必要

  • 高度侵襲下では→ 内因性エネルギーが優位→ overfeeding・高血糖リスクが高い

  • 悪液質、とくに不応性悪液質では→ 栄養投与がQOL低下につながる可能性

「栄養を入れること=善」ではない。病態を見極め、「攻めない判断」も栄養療法の重要な一部です。


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