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在宅医療における認知症について16~慢性硬膜下血腫と認知症診断 ― 見逃してはいけない病気

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 8月11日
  • 読了時間: 3分


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認知症診断における画像検査の役割

認知症の診断に、脳血流シンチグラフィやドーパミントランスポーターシンチ(ダットスキャン)といった脳機能画像は必須ではありません。多くの診断ガイドラインでは、疑い例に安易に脳機能画像を行わず、治療方針が変わる可能性があるときのみ実施することを推奨しています。画像検査の主な目的は、脳外科的に治療可能な疾患を除外すること。そのためには、まず**脳の形態画像(CTやMRI)**が重要です。造影検査までは不要で、頭部単純CTや単純MRIで十分です。

慢性硬膜下血腫とは?

慢性硬膜下血腫は、頭蓋骨の内側にある硬膜と脳の間に血が溜まる病気です。軽い頭部外傷から2〜3週間後以降に発症し、以下のような症状が見られます。

  • 頭痛

  • 片麻痺(体の片側の麻痺)

  • 歩行障害

  • 精神症状(ぼーっとする、意欲低下、眠気、物忘れ など)

これらはアルツハイマー病やうつ病でも見られるため、症状だけで鑑別するのは非常に困難です。もし画像検査を行わず、症状だけで抗認知症薬や抗うつ薬を処方してしまうと、この病気を見落とし、治療のチャンスを逃す危険があります。

危険因子

慢性硬膜下血腫の主な危険因子は脳萎縮です。高齢者に多く、特に以下の条件に当てはまる方は注意が必要です。

  • 常習飲酒(脳萎縮しやすく、転倒リスク増加)

  • 抗凝固薬や抗血小板薬の使用(例:ワルファリン、アスピリン)

  • 軽い頭部外傷歴(本人が覚えていないことも多い)

報告によると、発症者のうち28%が常習飲酒者、21%がクマリン系抗凝固薬使用者、13%がアスピリン使用者とされています。

診断と治療

頭部CTまたはMRIを行えば、大きな慢性硬膜下血腫の見落としはほぼありません。MRIの方が感度は高く、可能であればMRIがおすすめです。外傷直後に異常がなくても、数週間後に血腫が形成されることがあるため、一度異常がないからといって将来の発症を否定できない点に注意が必要です。

治療は、症状や血腫の大きさによって異なります。

  • 脳を強く圧迫している場合や症状が明らかな場合 → 穿頭血腫除去術

  • 軽症や自然吸収が見込まれる場合 → 経過観察

なぜ重要か?

慢性硬膜下血腫は治療可能な認知症様疾患です。認知症と診断する前に、この病気を除外することが多くのガイドラインで推奨されています。「物忘れ=認知症」と決めつけず、まずは画像で脳外科的疾患を確認することが何より大切です。

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