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在宅医療における認知症について61~ 認知症を「予防する」ために知っておきたいこと

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 2 日前
  • 読了時間: 4分


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― 特に“薬”が与える影響について ―

認知症の方を支えるご家族、とくに子世代からは、「自分も認知症になるのでは…」と心配の声を聞くことが少なくありません。

これまでの数多くの疫学研究から、認知症の発症にはいくつかの“危険因子”があることがわかっています。

■ 変えられない危険因子

代表的なものは以下の3つです。

  • 加齢:年齢が上がるほど発症リスクが高まる

  • 遺伝(アポリポタンパクE ε4):アルツハイマー病の発症リスクを高める

  • 教育年数:教育期間が長いほど発症しにくい傾向

しかし、これらは「知ったところで避けようがない」因子ばかり。そこで注目されるのが、**“変えられる要素=予防可能な因子”**です。

一般臨床の現場で取り組める予防要因は大きく3つあります。

  1. 医薬品(薬の影響)

  2. 生活習慣病(高血圧・糖尿病など)の管理

  3. 生活習慣(運動・睡眠・栄養など)

本記事では、その中でも特にエビデンスが蓄積している**「薬と認知症リスク」**にフォーカスします。

■ 1. ベンゾジアゼピン(BZD)系薬と認知症リスク

ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、不眠・不安などに一般的に処方される薬ですが、認知機能を低下させる可能性があり、特に高齢者では注意が必要です。

● 疫学研究から

ベンゾジアゼピン系薬の使用歴と認知症発症を調べたメタ解析では、

使用者は認知症の発症リスクが約1.5倍(オッズ比1.49)に上昇(95%信頼区間 1.30–1.72)

という報告があります(Epidemiologic meta-analysis)。

あくまで「関連」を示す疫学データで因果関係は断定できませんが、**“飲む前に知っておくべき情報”**であることは間違いありません。

● 高齢者は特に危険

米国老年医学会(AGS)のBeers基準では、65歳以上にはBZD系薬を原則使用すべきでないと明確に推奨されています。

理由は

  • 転倒・骨折

  • せん妄

  • 認知機能の低下などの有害事象が増えるためです。

■ 2. 抗コリン薬と認知症リスク

抗コリン薬は、泌尿器科・精神科・耳鼻科・内科など、幅広い領域で処方される薬です。

代表例

  • OAB(過活動膀胱)治療薬:ソリフェナシン、オキシブチニン

  • 抗うつ薬:パロキセチン、三環系抗うつ薬

  • 抗ヒスタミン薬:ジフェンヒドラミン(市販薬にも多い)

  • 制吐剤、抗めまい薬 など多数

● 長期使用は“用量依存的”にリスク上昇

シアトル地区の65歳以上 3434名を追跡したコホート研究では、

抗コリン薬の累積使用量が多いほど、認知症リスクが上昇高用量群では使用なし群に比べ 1.54倍 に増加(JAMA Intern Med. 2015)

高用量の基準は「10年間で常用量換算で3年以上の服用」

  • ソリフェナシン 5mg/日 × 3年以上

  • パロキセチン 20mg/日 × 約1.5年以上

● 画像研究でも脳萎縮との関連

US-ADNIのデータ解析では、抗コリン薬使用者は非使用者に比べ、

  • 大脳皮質体積の減少

  • 側頭葉皮質の菲薄化

  • 側脳室の拡大

  • 認知スコアの悪化

が見られるという報告があります。

さらに、20年以上の追跡研究でも抗コリン薬使用群はアルツハイマー病の発症率が増加(1.63倍)という結果が示されています。

● 市販薬にも抗コリン作用

風邪薬、酔い止め、アレルギー薬など“市販薬”にも抗コリン作用があるものがあり、知らず知らずのうちにリスクを高めているケースもあります。

■ 代表的な抗コリン薬(例)

※ブログ用に「種類だけ」をシンプルに掲載

● 抗ヒスタミン薬

  • クロルフェニラミン

  • ジフェンヒドラミン

  • クレマスチン

  • シプロヘプタジン

  • ヒドロキシジン

● 抗うつ薬

  • アミトリプチリン

  • イミプラミン

  • ノルトリプチリン

  • パロキセチン

● 泌尿器科薬

  • オキシブチニン

  • ソリフェナシン

  • トルテロジン

  • フェソテロジン

● 抗精神病薬

  • クロルプロマジン

  • オランザピン

  • チオリダジン

  • クロザピン

● パーキンソン薬

  • トリヘキシフェニジル

  • ビペリデン

(※実際はもっと多数ありますが、ブログには主要なものに絞っています)

■ 認知症予防としての「薬の見直し」

以上の理由から、認知症予防の観点では、

● ベンゾジアゼピン系薬

● 抗コリン薬

この2つは特に慎重な使用が望まれる薬です。

もちろん、「どうしても必要な症状がある」「代替薬がない」ケースもあり、完全に否定するものではありません

しかし

  • 長期連用

  • 不必要な継続

  • 市販薬の安易な使用は避けるべきです。

■ まとめ:家族が知っておくべきこと

認知症の予防は、“変えられる因子に着目すること” がとても重要です。

その中でも薬は、本人と家族、医師が話し合えば必ず見直しができる領域です。

  • 「眠れないからとりあえず睡眠薬」

  • 「昔から飲んでいるから継続」

  • 「市販薬だから安心」

こうした“なんとなく続けている薬”こそ要注意。

認知症が心配な方ほど、一度、主治医や薬剤師と一緒に「薬の棚卸し」をしてみることをお勧めします。#認知症ケア

















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