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在宅医療における認知症について60~認知症の「病状説明」をどう行うか― 告知の限界と、軽症例における慎重な対応 ―

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 2025年11月14日
  • 読了時間: 3分


🔹 病状説明の前提:「告知は技術的に不可能」

認知症の診断や病名の説明(病状説明)は、患者本人や家族・介護者との協力関係を築くうえで欠かせないステップです。しかし、まず押さえておくべき大前提があります。

それは、

認知症の「確定診断」を技術的に行うことは現状では不可能であるということです。

認知症の確定診断は病理診断(脳組織を直接調べる方法)によってのみ可能です。私たちが日常臨床で行っているのは、あくまで臨床診断ですが、その診断基準は不完全であり、病理診断と一致しないケースも少なくないことが知られています。

つまり、医師の診断は「最善の推定」にすぎず、“確定告知”は医学的に成立しないのです。

🔹 「軽症だからこそ伝えるべき」は誤り

しばしば、「軽度の認知症なら理解力が保たれているから、本人に診断名を伝えるべきだ」と言われます。一見もっともらしい意見ですが、実はこの考え方には大きな誤解があります。

理由はシンプルで、

軽症であればあるほど診断が難しいからです。

軽症例では症状があいまいで変動も多く、専門医でも確定に至らないことが多々あります。

🔹 J-ADNI研究が示す「診断の不確実性」

アルツハイマー病の早期診断法を検証した国内最大級の研究「J-ADNI(Japanese Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative)」では、専門医による詳細な診察・血液検査・画像検査(PET・MRI)・心理検査が数年にわたり行われました。

その報告書には、次のような記載があります。

「診断基準に照らして不適切な症例が含まれていた」 「ベースライン診断の誤りが見られた」 「初診直後では認知機能の実態が把握できないことが多く、数か月の経過観察が必要」 「介護者や本人による虚偽申告があり、検査目的での過剰申告例も存在」

つまり、高度な検査環境下でも誤診が起こりうるということです。PETを含む先端検査を用いても確定できない段階の診断を、一般外来で短時間の面談と簡易検査のみで確実に行うのは不可能です。

🔹 「診断名」は独り歩きする

患者や家族は、医師が発した診断名を**「確定された事実」**として受け止めがちです。しかし実際には、不完全な基準に基づいた“仮の診断”であることが少なくありません。

この誤差を理解しないまま診断名が伝わると、

  • 「うちの家族はもう治らない病気なんだ」

  • 「仕事を辞めなければならない」

  • 「運転免許を返納しないといけない」といった過剰な反応を引き起こす可能性があります。

したがって、軽症の段階で診断名を伝える際には極めて慎重であるべきです。

🔹 軽症ほど「診断を共有する覚悟」が必要

症状が進めば、診断は比較的容易になります。しかし、軽症のうちは、医師自身が“診断の揺らぎ”を受け入れる覚悟が求められます。

「認知症」と伝えることよりも、

「今の時点での観察結果」と「今後の変化を一緒に見ていく姿勢」を示すことが、本人・家族の信頼を損なわずに説明するための最善の方法です。

🩺 まとめ

ポイント

内容

認知症の確定診断

病理診断でのみ可能。臨床診断は不完全。

告知の原則

「技術的に確定できない」ことを前提に。

軽症例への配慮

軽症ほど誤診リスクが高く、慎重な説明が必要。

医師の姿勢

「診断名」ではなく「経過と支援の方向性」を共有する。

💬 結語

認知症の病状説明において大切なのは、「確実な診断」ではなく、不確実性をどう伝えるかです。診断の限界を理解し、患者と介護者が安心して共に歩めるよう、“説明”ではなく“共有”の姿勢を持つことが、これからの医療に求められる在り方でしょう。

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