在宅医療における認知症について18~VSRAD誤用にご用心 〜Zスコアだけで診断はできません〜
- 賢一 内田
- 8月13日
- 読了時間: 3分

VSRADとは?
VSRAD(Voxel-based Specific Regional Analysis system for Alzheimer’s Disease)は、MRI画像から**内側側頭葉(海馬や海馬傍回など)**の萎縮の程度を数値化し、アルツハイマー病の早期診断を支援する解析ソフトです。結果は「Zスコア」で表示され、数値が高いほど萎縮が強いことを示します。
報告によれば、内側側頭葉萎縮の有無はアルツハイマー病の病理診断と感度91%、特異度94%で一致するともされています。しかし—— Zスコアだけでアルツハイマー病を診断してはいけません。
誤診の落とし穴
前頭側頭葉変性症:側頭葉の萎縮が強く、アルツハイマー病でなくてもZスコアが高く出る
正常圧水頭症:脳室拡大により海馬が押され、見かけ上萎縮しているように見え、Zスコアが高く出る
Zスコアだけを見て判断すると、本来違う病気をアルツハイマー病と誤診する危険があります。
回避するには→ 脳全体を読影し、臨床症状・経過と合わせて総合的に判断する必要があります。ソフトがあっても、結局「読影の手間」は省けないのです。
実は“研究用”が前提
VSRADの使用条件には、製造元が「医療関係者が研究目的で使用することを前提」と明記しています。診療目的で使うことは本来の想定外であり、レポート用紙にも**赤字で「Not for Diagnosis(診断には用いない)」**と書かれています。
よくある誤解
「Zスコアが3以上だからアルツハイマー病」→ 誤り
「Zスコアが1未満だから否定できる」→ 誤り
Zスコアは施設・撮影条件・機種によって変動します。さらに、同じ患者さん・同じ機械でも撮影時のアーチファクト(偽像)で結果が変わることがあります。そのため、経時的にZスコアを追っても臨床的な意味は不明です。
レビー小体型認知症の指標追加
2015年には新バージョンで**「背側脳幹/内側側頭部の萎縮比」**が追加されました。レビー小体型認知症では背側脳幹の萎縮が目立ち、内側側頭部は比較的保たれる傾向があるためです。しかし、これもあくまで研究目的であり、この指標だけで診断することは誤用です。
ちょっと変わった“参考法”
レビー小体型認知症を疑う場面では、MRI撮像中の様子を技師から聞くことも有用です。日中の眠気が強い人は、撮像中の大きな騒音にもかかわらず熟睡することがあります。これは認知機能変動というレビー小体型認知症の特徴かもしれません。
まとめ
VSRADはあくまで研究用。診断には臨床症状と総合判断が必要
Zスコアは補助的指標であり、単独では診断不可
撮影条件や機種差で結果は変動する
他疾患でも高値が出るため、必ず鑑別を
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