誤嚥性肺炎を科学する66~摂食嚥下機能によい影響をもたらす薬剤もある。ACE阻害薬やドパミン産生亢進薬は、嚥下反射惹起・喀出の感度にかかわるサブスタンスPの濃度を高める
- 4月1日
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よい影響をもたらす可能性のある薬
サ

ブスタンスP・ACE阻害薬・ドパミン産生亢進薬と摂食嚥下機能
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摂食嚥下機能によい影響をもたらす薬剤もある。ACE阻害薬やドパミン産生亢進薬は、嚥下反射惹起・喀出の感度にかかわるサブスタンスPの濃度を高める
薬剤の副作用には、悪いものだけではなく、よい影響をもたらす可能性がある薬もあります。前項(90〜93ページ)まで、摂食嚥下機能に悪影響を及ぼす可能性のある薬剤について述べました。この項では副作用が摂食嚥下機能にとってよい面をもつ薬剤を紹介します。
サブスタンスPの役割
誤嚥性肺炎の予防や発症に関連する神経伝達物質(神経興奮に関連する物質)として、サブスタンスPというペプチド(アミノ酸が連結した物質)が注目されています。サブスタンスPは中枢神経・末梢神経の終末に存在していて、感覚神経の感度調整に役立っています。
中枢神経(脳幹)末梢神経終末(咽頭・喉頭・気道)サブスタンスP嚥下反射惹起喀出(むせ)感度
📌 摂食嚥下との関係:
咽頭のサブスタンスPは嚥下反射惹起、喉頭・気道のサブスタンスPは誤嚥したものの喀出(むせ)の感度とかかわりがあります。
図8-3 サブスタンスP(概念図)
ACE 阻害薬
高血圧治療薬の一種にACE阻害薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)というものがあります。これは血管収縮抑制効果が主目的の薬ですが、サブスタンスPを増加させるという副作用をもっています。
💊 副作用メカニズム
ACE阻害薬の副作用の1つとして、空咳が増えることが知られています。これは喉頭・気道でのサブスタンスP濃度が高くなり、咳嗽反射感度が高くなった結果であると考えられます。
人を対象としたいくつかの研究で、ACE阻害薬を投与していると肺炎発症が予防できたというエビデンスが報告されていることから、誤嚥性肺炎の予防や治療に役立つ可能性が示唆されています。
✅ 実践のポイント
誤嚥性肺炎を繰り返している方で何らかの降圧剤をすでに服用中であれば、ACE阻害薬へ変更するのは1つの選択肢かもしれません。担当医と相談してみましょう。
ドパミン産生亢進薬
ドパミン作動性神経の刺激でサブスタンスP濃度が高まりやすいことがわかっています。パーキンソン病の治療薬として用いられることがあるアマンタジン(シンメトレル®)は神経終末でドパミン放出を助長しますので、結果的に末梢(咽頭・喉頭・気管)でのサブスタンスP濃度が高くなると考えられています。
🌿 葉酸補充も検討
葉酸欠乏はドパミン産生減少の原因になりますので、葉酸欠乏があれば補充を検討します。
その他の薬剤
誤嚥予防や摂食嚥下運動にとってよい影響がある薬剤は、前述のほかにいくつか報告されていますので、表にまとめました(表8-3)。
表 8-3誤嚥予防や摂食嚥下運動によい影響があるかもしれない薬剤
ACE 阻害薬
アマンタジン(シンメトレル®)
シロスタゾール(プレタール®)
半夏厚朴湯
カプサイシン
メンソール
黒コショウ
⚠ 重要なポイント
薬剤変更や休薬だけで誤嚥性肺炎が必ずしも予防できるものではないという考えをもつことです。「ほかに何か工夫ができるとしたら薬剤調整だ」というくらいの理解でよいと思います。多くの疾病は薬の選択が治療の主体ですが、誤嚥性肺炎の予防と治療においては、薬の選択は1つのオプションにすぎないということです。
COLUMN
摂食嚥下機能評価
飲み込む機能を評価することは、食支援を展開するうえで、ならびに、誤嚥性肺炎の予防や治療を行ううえでも、とても重要です。最も正確な機能評価法は放射線を用いて行う嚥下造影検査ですが、必ずしも嚥下造影検査を行わないといけないわけではありません。ベッドサイドで行う簡易評価法があります。
💧 水飲みテスト
大がかりな準備なくできる簡易評価法として有名です。3mLの水を飲んでもらい、嚥下運動が惹起されるか、むせがあるか、呼吸状態が変化するか、声の変化があるかなどを観察します。
🧪 V-VST(世界的に最も精度が高い水飲みテスト)
volume-viscosity swallow test:ネクター状→水→プリン状の3段階と、飲み込む量を3段階に調整して安全に飲み込めていないサインがあるか、効果的に飲み込めていないサインがあるかを評価します。V-VSTを行うのが専門職でなくても信頼性が高いことが証明されています。
1) Clavé P, Arreola V, Romea M et al : Accuracy of the volume-viscosity swallow test for clinical screening of oropharyngeal dysphagia and aspiration. Clinical Nutrition 27(6) : 806-815, 2008.
不顕性誤嚥の評価法
「摂食嚥下機能を評価すること」と「不顕性誤嚥(むせのない誤嚥)を評価すること」は、少し意味合いが異なります。不顕性誤嚥の評価は誤嚥性肺炎発症リスクに直結するものであり、摂食嚥下障害の評価はどうやって(how to eat)・何を食べるか(what to eat)、つまり食支援の進め方に直結するものであると考えられます。
不顕性誤嚥の評価法は、現在のところ2つの有力な検査法があります。
① S-SPT(簡易嚥下誘発試験)
simple swallowing provocation test:とても細いチューブを鼻から咽頭に挿入し、チューブから水をわずかに注入し、嚥下運動が惹起されるかを見るものです。
② 水飲みテスト+クエン酸咳テスト
水飲みテストで異常を呈し、かつ1%クエン酸生食水吸入で咳誘発が遅延している場合、不顕性誤嚥が高度であると判定します。
1) Teramoto S, Sudo E, Matsuse T et al. Impaired swallowing reflex in patients with obstructive sleep apnea syndrome. Chest 116(1) : 17-21, 1999.
2) Wakasugi Y, Tohara H, Hattori F et al. Screening test for silent aspiration at the bedside. Dysphagia 23(4) : 364-370, 2008.
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