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認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤30~一酸化炭素(CO)中毒の遅発性脳症(DNS)— 診断・治療・認知機能障害 —

  • 4 時間前
  • 読了時間: 5分

CASE / 臨床症例

現病歴

30歳代男性。目張りされた自室で練炭こたつを使用、意識障害の状態で発見され救命センターへ搬送された。現場の状況から推定して少なくとも1日は放置された状態であった。救急隊が接触し速やかに酸素10L投与を開始し、動脈血酸素飽和度は98%前後を保ったまま接触後38分で院着となった。*本症例は北陸勤務時代の症例であり、とても記憶に残っています。

到着時、JCS 100・GCS 6(E1V1M4)と意識障害があり、頭部CTでは淡蒼球に低吸収域を認め、練炭による急性CO中毒と診断し入院となった。第2病日の頭部MRIで両側淡蒼球にT2 FLAIR延長域を認めた。

入院時CO-Hbは4.0%とすでに低値。非侵襲的陽圧換気による正常圧酸素療法を24時間行い、徐々に全身状態は改善。第8病日には意識レベルもJCS1となりADLも自立していた。一方でMMSE 24/30点と認知機能低下がみられた。

 

第29病日:退院予定の朝、病室で問いかけに反応がない状態で発見。JCS 10の意識障害を認めた。腹臥位で寝ており、多量の発汗と失禁で衣服は汚れていた。瞳孔不同なし、対光反射は両側迅速、前庭動眼反射は保たれていた。全身の脱力が強く自力歩行が困難であった。

 

診断のポイントと鑑別

CO中毒による急性期症状が改善し、4〜6週間程度の無症状期を経て神経症状が再燃するものを遅発性脳症(delayed neurological sequelae:DNS)という。失見当識・記銘力障害・失禁・失行・人格変化などの多彩な症状を呈することが特徴である。

 
 

検査所見と認知機能の推移

画像・髄液・脳波所見

第29病日の頭部MRIで淡蒼球の病変は縮小している一方、深部白質にT2延長域を認めた(脱髄の広がり)。髄液検査で細胞数は正常であったが、ミエリン塩基性蛋白(MBP)が258 pg/mL(正常値<102 pg/mL)と高値を示し脱髄が示唆された。脳波はdiffuse slow waveがみられ、振幅も全体に低かった。

認知機能検査の推移(DNS発症前 vs 発症8カ月後)
認知機能検査の推移(DNS発症前 vs 発症8カ月後)
診断とその後の経過
診断とその後の経過
DNS発症日より、脳症の改善目的にメチルプレドニゾロンとメマンチンを用いた薬物療法と理学療法を行った。反応は部分的で、第47病日から無動状態となり筋強剛も増悪。FIM運動項目は第53病日に最低点の13点まで低下した。しかし髄液MBPは加療により減少しており、継続的に介入したところ第75病日頃より徐々に意識レベル・ADL・認知機能が改善した。
DNS発症日より、脳症の改善目的にメチルプレドニゾロンとメマンチンを用いた薬物療法と理学療法を行った。反応は部分的で、第47病日から無動状態となり筋強剛も増悪。FIM運動項目は第53病日に最低点の13点まで低下した。しかし髄液MBPは加療により減少しており、継続的に介入したところ第75病日頃より徐々に意識レベル・ADL・認知機能が改善した。

DNSの病態・治療・予後
DNSの病態・治療・予後

DNSの病態(脱髄と酸化ストレス)

CO中毒によるDNSの病態として脱髄と酸化ストレスが挙げられる。COが直接的にオリゴデンドロサイトを障害し、COによりMBPが脂質過酸化反応によって構造変化を起こし、マクロファージとCD4陽性細胞を介した免疫反応による脱髄を起こす可能性がある。またCOは脳血管周囲に酸化ストレスを引き起こし、NMDA受容体の活性を介して一酸化窒素が産生され、細胞機能障害・細胞死に至ることが報告されている。

薬物療法の根拠

CO中毒の初期治療
CO中毒の初期治療

1

曝露源からの離脱・安静・全身管理

CO曝露歴があり、頭痛・めまい・嘔気・嘔吐・認知機能障害などがみられれば、まず曝露源から一刻も早く距離をとり、安静の上、適切な全身管理を行う

2

高流量100%酸素による正常圧酸素療法

酸素療法によって血中の溶解酸素含量を増やすことで、HbからCOの解離を促し、CO-Hbの半減期を室内気の平均5時間から平均1時間に短縮させる

↓ 適応を検討

3

高気圧酸素(HBO)療法の検討

約2〜3気圧で100%酸素を70〜120分投与。CO-Hbの半減期をさらに20分程度に短縮させる。ただしDNSの予防効果については未だ一定した見解は得られていない(2021年COP-J studyでも有意な効果は示せていない)

DNSの予見性(リスク因子)

年齢36歳以上

COHb濃度25%以上

治療開始までの時間CO曝露から24時間以上

本症例のように発見が遅れた場合COHb濃度は参考にならないが、他2因子は満たしていたためDNS発症リスクは高かった。無症候期間があるため少なくとも6週間程度の経過観察は必要である。

DNSにおける認知機能障害の特徴

CO中毒の神経学的後遺症として記憶障害・遂行機能障害・注意障害・思考速度の低下が残存しやすいとされている。さらにアパシーが問題となることが多く、86例のDNSをフォローしたところ全例でアパシーを認めたという報告がある。DNSのアパシーは認知機能低下に付随した意欲低下の側面に加え、淡蒼球障害と白質異常による前頭葉(特に内側面機能低下)からの精神的な空虚さが根幹にあると考えられる。

在宅医療・訪問診療での実践ポイント

  • 前頭葉症状・記憶障害・アパシーを呈する患者では必ずCO曝露歴(練炭・ガス・火災など)を問診する

  • CO中毒後は少なくとも6週間の経過観察が必要。無症候期後の突然の神経症状再燃に注意する

  • DNSのリスク因子(年齢36歳以上・COHb 25%以上・治療開始遅延)を把握しておく

  • DNS発症時は髄液MBP・脳波・画像(深部白質T2延長)を確認し他疾患を除外する

  • 薬物療法(ステロイド・メマンチン)と理学療法の早期介入が予後改善に寄与する

  • アパシーは全例に認められる重篤な後遺症であり、常に外的刺激を与える環境調整が重要

  • 長期的なフォローアップと社会資源の活用、家族への説明・支援が在宅療養の鍵となる

 


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