攻めの栄養療法を科学する23~はじめに|「攻めの栄養療法」は万能ではない
- 賢一 内田
- 2025年12月23日
- 読了時間: 4分

「攻めの栄養療法」とは、体重や筋肉量を増やすことを目的に、エネルギー消費量に加えて“エネルギー蓄積量”を考慮して必要量を設定する栄養療法です。
ただし、単純にエネルギー量を増やせばよいわけではありません。
糖質・脂質・たんぱく質の配分
患者の病態や合併症
リハビリテーション・運動療法の併用
これらを考慮せずに行うと、
病態の悪化
代謝性合併症
脂肪のみの増加
を招く可能性があります。
特に、リハビリや運動療法を併用しない「攻めの栄養療法」は、筋肉ではなく脂肪を増やすだけになりやすく、必ずしも患者の利益にはなりません。
そのため、「攻めの栄養療法」は👉 すべての患者に適応される治療ではない👉 禁忌を理解したうえで、適切な対象に限定して実践することが重要です。
本稿では、攻めの栄養療法を行う際に必ず理解しておくべき禁忌事項を、特に重要な「低栄養・飢餓状態」を中心に解説します。
低栄養患者における禁忌①|飢餓状態
飢餓とは何か
飢餓とは、社会的・経済的要因や疾患を背景に、長期間にわたり栄養摂取が不足し、慢性的な栄養障害をきたしている状態を指します。
飢餓状態では、体内のエネルギー利用は以下のように変化します。
グリコーゲン分解 肝臓に貯蔵されたグリコーゲンからグルコースを供給 → しかし貯蔵量は少なく、約1日で枯渇
筋たんぱく分解 筋たんぱくが分解され、アミノ酸(主にアラニン)が放出 → 肝臓で糖新生され、全身のエネルギー源となる
脂質分解・ケトン体利用 飢餓が長期化すると脂肪分解が進み、 脂肪酸 → β酸化 → ケトン体 が産生され、主要なエネルギー源となる
この状態に、急激な栄養投与を行うことが最大のリスクとなります。
飢餓状態で最も注意すべき合併症|Refeeding syndrome(再摂食症候群)
Refeeding syndrome(RFS)とは
Refeeding syndrome(RFS)とは、慢性的な飢餓状態にある患者に対して、大量の栄養(特に糖質)を急速に投与した際に生じる、重篤な代謝合併症です。
急激な栄養投与により、
インスリン分泌の急増
電解質・水分の急激な細胞内移動
が起こり、以下の異常をきたします。
低リン血症
低マグネシウム血症
低カリウム血症
ビタミンB1欠乏
体液バランス異常
その結果、
意識障害・昏睡
痙攣・脳症
不整脈
心不全
呼吸不全
など、致死的な合併症を引き起こす可能性があります。
Refeeding syndrome のリスク評価(NICEガイドラインより)
RFSリスク因子の分類
▶ At Risk
5日以上、ほとんど食事を摂取していない
▶ High Risk(以下のうち1項目以上)
BMI < 16.0 kg/m²
過去3~6か月で 15%以上の意図しない体重減少
10日以上ほとんど食事を摂取していない
栄養再開前の - 低カリウム血症
低リン血症
低マグネシウム血症
▶ High Risk(以下のうち2項目以上)
BMI < 18.5 kg/m²
過去3~6か月で 10%以上の意図しない体重減少
5日以上ほとんど食事を摂取していない
アルコール依存の既往
インスリン、抗がん剤、制酸薬、利尿薬の使用
▶ Extremely High Risk
BMI < 14.0 kg/m²
15日以上ほとんど食事を摂取していない
飢餓状態での栄養投与の基本原則
栄養開始前に行うべきこと
電解質(K・P・Mg)の評価
ビタミンB1:200~300 mg/日を栄養開始前から投与
マルチビタミン・ミネラル補充を並行
初期エネルギー投与量
10 kcal/kg/日から開始
重症例(BMI <14.0 kg/m²)では 5 kcal/kg/日
4~7日かけて慎重に増量
👉 飢餓状態では、「攻める」より「守る」ことが最優先です。
それでも「攻めの栄養療法」が可能になるタイミング
重要なのは、RFSを恐れて栄養を与えないことではありません。
RFSが生じない
電解質・代謝が安定している
ことを確認しながら、👉 段階的に「攻めの栄養療法」へ移行することは可能です。
つまり、
❌ 飢餓状態でいきなり攻める → 危険
⭕ 飢餓を是正し、状態を見極めてから攻める → 適切
という判断が求められます。
まとめ|「攻めの栄養療法」は“適応と順序”がすべて
攻めの栄養療法は、適切に使えば強力な治療手段
しかし、飢餓・重度低栄養では明確な禁忌・注意点がある
特に Refeeding syndrome のリスク評価は必須
「いつ」「誰に」「どの順序で」行うかが最重要
攻める前に、守る。それができて初めて、攻めの栄養療法は患者の力になります。




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