在宅医療における認知症について48~【抗精神病薬】―BPSDに「効く」が、「危険」も伴う薬―
- 賢一 内田
- 10月20日
- 読了時間: 3分

認知症のBPSD(行動・心理症状)──とくに興奮・暴言・幻覚・妄想などが強い場合、医師が処方を検討する薬のひとつに抗精神病薬があります。
抑肝散やトラゾドンに比べると、抗精神病薬は確実な効果が期待できる一方で、重大な副作用リスクを伴う薬であることを忘れてはなりません。
■ 抗精神病薬の効果と危険性
BPSDに対する非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、クエチアピンなど)の効果を検証した無作為化二重盲検試験のレビューでは、確かに興奮・攻撃性・幻覚などの症状が有意に改善しました。
しかし同時に、以下のリスク上昇が明らかになっています。
強い眠気・ふらつき
錐体外路症状(パーキンソン様症状)
脳血管障害(脳梗塞・脳出血など)
尿路感染症・浮腫・歩行障害
死亡率の上昇
つまり、「効くが危険」という薬なのです。
■ FDAの警告:死亡リスクは1.6〜1.7倍
2005年、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、非定型抗精神病薬を認知症患者に使用すると死亡率がプラセボの1.6〜1.7倍になると警告しました。2008年には定型抗精神病薬(ハロペリドールなど)にも同様の警告が拡大されました。
死亡というのは「究極の有害事象」であり、これを受けて海外では処方が大幅に減少しました。たとえばフランスでは、認知症患者への抗精神病薬処方率が2003年:14.2% → 2011年:10.2%(約3割減)に低下。
一方、日本では同期間に21.3%→21.3%と変化なし。この点は今なお課題といえます。
■ 死亡リスクの実数
180日以上抗精神病薬を使用した場合の死亡率は以下の通りです(JAMA Psychiatry, 2015)。
薬剤名 | 死亡率 | NNH(害を受けるまでの人数) |
ハロペリドール | 3.8% | 26人に1人 |
リスペリドン | 3.7% | 27人に1人 |
オランザピン | 2.5% | 40人に1人 |
クエチアピン | 2.0% | 50人に1人 |
また、10〜12週間の短期間試験でも、120人に1人が薬によって死亡したと報告されています。短期間でも、リスクは「ゼロではない」のです。
■ 臨床での位置づけ
抗精神病薬は、重度の興奮・暴力行為・幻覚・妄想などがあり、**他害・自害の恐れがある場合の“最終手段”**として使用されます。
つまり、
「薬を使わないと介護者が危険」「暴力的行動で在宅療養の継続が難しい」このような場合に限定すべき薬です。
漫然と長期投与を続けることは避け、最短期間での漸減・中止を目指すべきです。
■ まとめ
抗精神病薬は確実な効果があるが、死亡を含むリスクがある
FDA警告以降、海外では使用が減少、日本は依然高水準
使用は「やむを得ない場合」に限定し、短期間での中止を目指す
家族・介護者への説明と同意が不可欠
抑肝散やトラゾドンといった比較的安全な選択肢をまず検討し、**抗精神病薬は“最後のカード”**として慎重に使うことが求められます。
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