在宅医療における認知症について46~【抑肝散・トラゾドン・抗精神病薬】
- 賢一 内田
- 10月18日
- 読了時間: 3分

―BPSD(認知症の行動・心理症状)への薬物治療をどう考えるか―
非薬物的アプローチ(家族・介護環境の調整)を行ってもBPSDが落ち着かない場合、初めて薬物療法の検討が必要になります。ここでは、漢方薬の抑肝散を中心に、科学的根拠と注意点を整理します。
■ 抑肝散の特徴と効果
抑肝散(よくかんさん)は、易怒性・興奮・暴言・暴力・幻覚・妄想などのBPSD症状に一定の効果を示すことがあるとされています。無作為化比較試験のレビューでは、プラセボ群と比較してBPSD全般、とくに妄想・幻覚・焦燥/攻撃性の改善が報告されました。副作用による中止率もプラセボと差がなく、安全性が高い点が特徴です。
ただし、認知機能(MMSEスコア)を改善する効果は確認されていません。さらに、唯一の二重盲検試験では、アルツハイマー病のBPSDに対して有意差が認められなかったという結果が出ています。したがって、「効く場合もあるが、確実ではない」薬といえます。
■ 使用上の注意と投与法
抑肝散には甘草が含まれるため、低カリウム血症・浮腫・高血圧・不整脈に注意が必要です。特に長期投与を行う場合は、定期的な血中カリウム測定を行いましょう。
初期量:1日1包から開始
効果があれば:1日3包まで漸増
効果発現:1〜2週間で見られることが多い
4週間で変化なければ効果なしと判断し中止
複数の漢方を併用するのは避け、他の方剤を中止してから抑肝散を開始するのが原則です。
■ 抗精神病薬との位置づけ
抗精神病薬には一定のBPSD改善効果がある一方で、副作用(転倒・脳卒中・死亡リスク上昇)が問題になります。抑肝散は安全性の面で優れていますが、抗精神病薬の代替薬とは言えません。日本老年医学会のガイドラインでは、「非薬物療法で改善が得られない場合に使用を考慮」とされ、アルツハイマー病以外の認知症のBPSDに対する第一選択薬としても妥当と考えられます。
■ 使用を避けるべきケース
明確なアルツハイマー型認知症と診断されている場合
抗認知症薬(ドネペジル・メマンチンなど)を併用している場合
自傷他害など緊急性の高いBPSDには不向き(即効性がないため)
粉薬が苦手な方
■ まとめ
抑肝散は、アルツハイマー病以外の認知症に伴うBPSDにおいて、安全に試すことができる選択肢です。ただし、「効く場合と効かない場合がある」「効果なければ速やかに中止」「効果があっても漸減を試みる」という基本原則を守ることが大切です。家族や介護者の負担軽減を目的に、非薬物療法と併用しながら短期的に使用することが望まれます。
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