認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤54~一過性全健忘Transient Global Amnesia(TGA)
- 2 時間前
- 読了時間: 3分

症例提示(CASE)
現病歴
患者背景
50歳代半ばの大卒右利き男性。中小企業の社長。数日前から激務で3〜4時間の睡眠しかとれず疲労していた。当日午前10時頃、顧客と商談の最中に何度も同じ質問を繰り返すようになった。自分がどうしてそこで、その商談をしているのかがわからず、商談の相手も当惑した。社員に連れられて午後1時に救急外来を受診した。
既往歴:高血圧にてアンジオテンシン受容体拮抗薬内服。飲酒:ビール1日500 mL程度。
初診時現症
来院時血圧 135/75 mmHg。「なぜ俺はここにいるのか。ここはどこだ」と付き添いの社員に繰り返し質問する。当日の朝会社に出勤したことは覚えているが、その後の記憶はなかった。時間の見当識は障害され、年月季節は言えたが日と曜日はわからないと答えた。MMSE:25/30点(時間見当識で2点、語の再生で3点失点)。
付き添いの社員が把握していた昨日・3日前・1週間前・1カ月前の商談についての記憶は全くなかった。自伝的記憶については、20年前の新婚旅行の記憶ははっきりしていたが、約10年前の東日本大震災については大地震があったことをぼんやり答えるのみで、津波や原発事故について想起することも再認することもできなかった。
記憶障害の分類

診断のポイント
数分ごとに同じ話を繰り返すのは急性発症の前向性健忘によるものと考えられ、一過性全健忘(TGA)に特徴的な症状である。TGAでは24時間以内に自然軽快する。受診時点では発症後約3時間であり経過をみる必要がある。


翌日の外来受診
同日起床時以降、健忘症状はみられていないことが確認された。発作中の記憶は失われているが、東日本大震災などの遠隔記憶については回復していた。
前向性健忘に加えて10年ほど遠隔のエピソードに関する逆向性健忘もみられた。TGAの逆向性健忘は、TGAのエピソードが終了するにつれて徐々に短縮する。
Discussion:TGAの臨床症状の特徴と病態
臨床的特徴
TGAは突然、新しい情報を数秒以上保持できない前向性健忘が生じ、救急外来を受診することも稀ではない疾患である。「ここはどこですか」「なぜ私はここにいるのですか」などの定型的な質問を、説明され納得しても数十秒も経つと同じ順序で繰り返すのが特徴的で、この発言により周囲から異常に気づかれることも少なくない。


発症メカニズムは特定されていないが、突然発症かつ自然回復の経過から、後方循環の虚血や側頭葉てんかんが原因の1つと考えられている。その他:

TGAの診断基準と鑑別診断
提案されているTGAの診断基準


比較項目 | TGA | TEA(てんかん性健忘) |
健忘発作の持続 | 通常6〜8時間、最長24時間 | 通常1時間以内(短い) |
同じ質問の繰り返し | 特徴的に認められる | 一般に欠如(24%のみで健忘が唯一のてんかん症状) |
他の発作症状 | なし | 嗅覚幻覚、自動症などを伴うことが多い |
発症年齢 | 50〜70歳が多い | 発症年齢が若い点が鑑別点 |
反復 | 3〜27%(比較的少ない) | 反復しやすい |
MRI DWI | 24〜72時間後に海馬CA1に点状高信号 | 通常異常なし |
TGAのマネージメント
TGAは24時間以内に自然に回復するため、典型的な症状を示すTGA患者に対し、過度な検査や不必要な薬物投与、医療介入は避ける。






コメント