攻めの栄養療法を科学する28~侵襲(しんしゅう)と栄養療法
- 賢一 内田
- 2025年12月29日
- 読了時間: 3分

― 高度侵襲下では「攻めの栄養療法」は禁忌 ―
■ 侵襲とは何か
侵襲とは、
重症感染症
大手術
多発外傷
熱傷
など、生体を傷害し、生体恒常性(ホメオスタシス)を破綻させる強い刺激を指します。
侵襲が加わると、生体内では以下の反応が起こります。
内因性エネルギー供給(endogenous energy supply)の増大
ストレスホルモンや炎症性サイトカインの大量産生
代謝の亢進とインスリン抵抗性の出現
■ 外因性エネルギー=栄養療法の落とし穴
栄養療法は、**外因性エネルギー供給(exogenous energy supply)**に該当します。
侵襲下では、
生体内から供給されるエネルギー+外から投与するエネルギー
この両者の合計でエネルギー需要が満たされます。
そのため、
👉 「推定エネルギー必要量と同量の栄養を外から投与する」ことは、過剰投与(overfeeding)になる可能性が高い
という点が、極めて重要です。
■ 侵襲時に最も注意すべき合併症:高血糖
侵襲が起こると、
肝臓・骨格筋に貯蔵されたグリコーゲンが消費される
しかし
骨格筋グリコーゲンは他臓器では利用できない
肝グリコーゲンも 12~24時間で枯渇
その後は、
乳酸
アミノ酸
を材料とした糖新生によって血糖が維持されます。
■ 飢餓と侵襲の決定的な違い
飢餓時と異なり、侵襲下では、
外から糖質(ブドウ糖)を投与しても👉 糖新生は抑制されない
インスリン感受性が低下し👉 グリコーゲン・脂肪への変換が阻害
その結果、
高血糖が起こりやすい状態になります。
■ 高血糖がもたらす悪循環
高血糖は単なる数値異常ではありません。
好中球機能低下
細胞内殺菌能低下
免疫能低下
を引き起こし、👉 感染症リスクを著明に増加させます。
そのため、侵襲下では
🎯 目標血糖値:180 mg/dL以下
を基本とします。
■ 侵襲時の栄養投与量の考え方
● エネルギー量
間接熱量計による測定(可能であれば)
または25~30 kcal/kg/day(簡易式)
👉 ※「多ければ良い」ではありません。
● たんぱく質量
1.2~2.0 g/kg/day(実測体重)
腎機能を評価しながら慎重に調整
■ 侵襲性低栄養の本質
侵襲による低栄養は、
飢餓
悪液質(カヘキシア)
とは異なり、短期間で急速に進行します。
そして最も重要なのは、
👉 侵襲の原因(感染・炎症・外科的問題など)が制御されなければ、栄養だけで低栄養を改善することは不可能
という点です。
■ 結論
高度侵襲下における「攻めの栄養療法」は禁忌
高度侵襲下では内因性エネルギーがすでに過剰
そこに攻めの栄養を重ねると👉 過剰投与・高血糖・感染リスク増大
まず優先すべきは侵襲の制御(治療)
👉 侵襲が落ち着いた段階で、初めて「攻め」を検討する
これが、安全な栄養療法の原則です。
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