認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤50~傍腫瘍性症候群+ Treatable Dementia の鑑別のためにどんな検査を提出すべきか
- 20 時間前
- 読了時間: 7分

🧬 傍腫瘍性症候群 (PNS)🧠 CASPR2抗体🧠 VGKC複合体抗体✅ Treatable認知症🫁 肺小細胞癌⚡ 辺縁系脳炎📋 PNS Care Score📋 Graus 2021年診断基準🏥 Morvan症候群💊 ステロイドパルス療法🔍 認知症レッドフラグ📊 可逆性認知症メタ解析🖼️ FDG-PET / SWI🎯 TEA(一過性てんかん性健忘)
傍腫瘍性症候群
症例提示(CASE)
現病歴
患者背景
70歳代の現役会社役員の男性。元来記憶力に自信があった。X年8月頃から数カ月前の出来事を思い出せなくなり、「頭の中をかき回されるような」「ぼーっとするような」症状と両足部の「じんじん」とする疼痛が出現。日々メモをとっても後から見直しても書いた内容を覚えていなかった。3カ月後にA病院を受診。
家族から病歴聴取で、頭部違和感出現時に意識減損と口部自動症を伴っていることが判明。脳波では発作間欠期に右前頭側頭部に棘波→側頭葉てんかんの診断でレベチラセタムが開始・増量されたが発作が抑制されず、半年後に改めて精査目的で入院した。
飲酒:日本酒を毎日3合程度。喫煙:1日60本を50年間。既往:高血圧症、脂質異常症。
初診時現症と認知機能検査

検査所見
血液検査:血算・生化学(甲状腺機能・ビタミンB₁含め)異常なし。梅毒反応陰性。抗核抗体80倍(抗SS-A/B、ANCA、抗甲状腺抗体は陰性)。髄液:蛋白・細胞数の上昇なし、IgGインデックス正常、オリゴクローナルバンド陰性。
脳波:右前頭側頭部からevolutionする律動波(発作時脳波)→ subclinical seizureと考えられた。
頭部MRI(T2強調):両側扁桃体の腫大。FDG-PET:右側頭葉内側の代謝亢進。血清・脳脊髄液ともに抗CASPR2抗体が陽性だった。抗LGI1抗体・抗NMDAR抗体・傍腫瘍神経症候群に関連する細胞内抗体(Ma1, Ma2, amphiphysin, CV2, Ri, Yo, Hu等)はすべて陰性。体幹部造影CT・全身FDG-PETでは明らかな腫瘍は認められなかった。
診断のポイントと鑑別
高齢男性でてんかん発作と記憶障害が亜急性に発症。鑑別:感染性脳炎(特に単純ヘルペス脳炎)、神経梅毒、Wernicke脳症、Creutzfeldt-Jakob病、中毒・代謝性疾患など。検査の結果、自己免疫性辺縁系脳炎と診断した。
口部自動症を伴う意識減損発作からは内側側頭葉起始のてんかん発作が示唆された。一部の側頭葉てんかんでは意識減損を伴わない発作性の健忘症状を認めることがあり、一過性てんかん性健忘(TEA)と呼ばれる。辺縁系脳炎でも認めうる症状だが、本症例では前向健忘・逆行健忘ともに経過中持続性にあることから、TEAではなく辺縁系脳炎の症状と考えられた。
その後の経過と最終診断
ステロイドパルス療法
両足部の疼痛とてんかん発作はともに改善。健忘も緩徐に改善。RAVLTは即時再生13・遅延再生10、慶應版自伝的記憶検査は小児期9/9点・成人期9/9点まで改善。
退院後3年弱
以降発作の再発はなかった。しかし肺小細胞癌が明らかになった。
🎯 最終診断:肺小細胞癌に伴う傍腫瘍性CASPR2抗体陽性辺縁系脳炎
🧬
傍腫瘍性症候群(PNS)について
定義と概要
担癌患者に認める神経症状の多くは、腫瘍の直接浸潤・化学放射線療法の副作用・栄養代謝性によるものだが、稀に免疫学的機序の介在によって多岐にわたる神経症状(中枢・末梢神経・神経筋接合部)を呈することがあり、これが現在のPNSの定義である。腫瘍に発現する抗原に対する抗体(onconeuronal antibody)がPNS発症に関与している可能性が明らかになり、2021年のGrausらの改訂PNS診断基準では"PNS Care score"を算出し、Definite/Probable/Possibleの3つの診断レベルに分類する。
腫瘍と自己免疫性脳炎との関係
抗体 | 関連する主な腫瘍 | 症状 |
Hu(ANNA-1) ▲高リスク | 小細胞肺癌≫非小細胞肺癌・神経内分泌腫瘍・神経芽腫 | 感覚性ニューロノパチー、慢性胃腸偽閉塞症、脳脊髄炎、辺縁系脳炎 |
CV2/CRMP5 | 小細胞肺癌、胸腺腫 | 脳脊髄炎、感覚性ニューロノパチー |
Amphiphysin | 小細胞肺癌、乳癌 | 多発根神経炎、感覚性ニューロノパチー、脳脊髄炎、スティッフパーソン症候群 |
Ri(ANNA-2) | 乳癌>肺癌 | 脳幹/小脳症状、オプソクローヌス-ミオクローヌス症候群 |
Ma2 and/or Ma | 精巣腫瘍、非小細胞肺癌 | 辺縁系脳炎、間脳炎、脳幹脳炎 |
NMDAR | 卵巣/卵巣外の奇形腫 | 抗NMDAR脳炎 |
CASPR2 ▼低リスク | 悪性胸腺腫*(主にMorvan症候群) | Morvan症候群、辺縁系脳炎、後天性ニューロミオトニア(Isaacs症候群) |
LGI1 | 悪性胸腺腫、神経内分泌腫瘍 | 辺縁系脳炎 |
GABAᵦR | 小細胞肺癌 | 辺縁系脳炎 |
P/Q VGCC | 小細胞肺癌 | Lambert-Eaton筋無力症候群、rapidly progressive cerebellar syndrome |
AMPAR | 小細胞肺癌、悪性胸腺腫 | 辺縁系脳炎 |
GAD65 | 小細胞肺癌・神経内分泌腫瘍・悪性胸腺腫 | 辺縁系脳炎、スティッフパーソン症候群、小脳失調 |
*CASPR2のうち、Morvan症候群を呈するものに限る(Graus F, et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflam. 2021; 8: e1014より改変)
PNS発症後の腫瘍スクリーニング
しばしば腫瘍が明らかになる前にPNSを発症することから、特に「高リスク臨床病型」かつ「高リスク抗体」を有する例では、初回の腫瘍スクリーニングが陰性であっても4〜6カ月ごとに再スクリーニングを行うことが推奨されている。多くの腫瘍がPNS発症後2年以内に明らかになるため、スクリーニング期間は2年間が目処となる。
免疫療法
PNSにおいては腫瘍の早期発見と治療が予後改善の要である。免疫療法にはステロイド・血漿交換・シクロホスファミド・免疫グロブリンなどが用いられる。免疫療法の効果はPNSの種類や関連する抗体によって異なり、神経細胞表面抗原に対する抗体が関与する脳炎(NMDAR脳炎・GABAᵦR脳炎・AMPAR脳炎など)では一般的に免疫療法の効果が期待できる。一方、細胞内抗原に対する抗体が認められる場合は神経細胞の損傷が不可逆的で、免疫療法の効果は部分的である。
VGKC複合体抗体関連疾患・特にCASPR2関連疾患
CASPR2抗体とは
1993年にニューロミオトニアの原因としてVoltage-gated potassium channel(VGKC)抗体が提唱された。現在、radioimmunoassay法によってVGKC抗体が検出されても、LGI1あるいはCASPR2(contactin associated protein 2)抗体の存在が確認されない限り臨床的価値を有さないと考えられている。
CASPR2は中枢神経・末梢神経に広く分布する。CASPR2に対する自己抗体が関連する症候群は中年以降の男性に多く、その症状は多彩で、脳症(認知機能障害・けいれん)、小脳機能障害、末梢神経の過剰興奮性、自律神経障害、不眠、神経原性疼痛、体重減少などがあり、約8割の症例でこれらの症状のうち3つ以上が重複して出現する。
CASPR2抗体関連疾患667例のシステマティックレビュー
各種検査はしばしば正常所見を示す。その割合は:


どんな検査項目を提出すべきか
治療可能な認知症とは?
Alzheimer型認知症を代表とする神経変性疾患による非可逆的かつ進行性の認知症と鑑別すべき、治療介入により認知機能の改善が見込める疾患(treatable dementia)。
認知症と診断した場合、頭部CTもしくはMRI・血算・血液生化学・甲状腺ホルモン・電解質・空腹時血糖・ビタミンB₁₂・葉酸の測定が日本神経学会の認知症疾患診療ガイドライン(2017年)で推奨されている。
Treatable dementiaの鑑別

当初認知症の10〜40%が可逆的原因とされたが、その後1988年、2003年のメタ分析によるとその率は5%、0.6%と経時的に大幅に低下している。
| 1988年メタ解析 | 2003年メタ解析 |
期間 | 1972〜1987年 | 1987〜2001年 |
研究件数 | 32 | 39 |
認知症患者数 | 2,781人 | 5,620人 |
潜在的に可逆性 | 13.2% | 9% |
部分的に改善 | 3.7% | 0.3% |
完全に改善 | 1.3% | 0.3% |
部分+完全改善 | 7% | 0.6% |
うつ | 4.5% | 0.9% |
感染症 | 0.6% | 0.3% |
正常圧水頭症 | 1.6% | 1.0% |
硬膜下血腫 | 0.4% | 0.3% |
特発性水頭症シャント術のアウトカム
出版年代 | 研究数 | 患者数 | 術後3カ月改善率 | 術後1年改善率 | 術後3年以上改善率 |
1970年代 | 2 | 92 | 45% | 45% | — |
1980年代 | 8 | 262 | 68% | 53% | — |
1990年代 | 12 | 459 | 64% | 81% | 40% |
2000年代 | 42 | 2,250 | 74% | 79% | 72% |
2006年以降 | 30 | 1,573 | 81% | 82% | 73% |
認知機能改善が術後みられるのは8割、3年経過すると7割程度であり、全例が改善するわけではない。
認知症診断におけるレッドフラグ
Alzheimer型認知症と安易に診断すべきでない非典型的特徴として以下が挙げられる。これらがある場合は専門科への紹介が現実的である。
1
説明のつかない急速な認知機能低下
2
発症年齢が若い
3
症状の変動が大きい
4
ハイリスクな曝露歴(飲酒、毒物など)
5
ハイリスクな行動歴(梅毒、HIVなど)
6
説明のつかない、予期しない神経所見
7
臨床像と合致しない精神心理テストの結果





コメント