認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤28~Creutzfeldt-Jakob 病(CJD)— 診断・検査・プリオン病の全体像 —
- 20 時間前
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現病歴
70歳代前半の右利き女性。精神科受診歴はなく、定年まで調理師として勤務。定年後は書道教室に通うなど趣味を謳歌していた。海外渡航歴はなし。3カ月前から不眠・抑うつ気分を訴え始め以後悪化。1カ月前になると「喉から食道までつながっていない、夜寝ていて内臓があっちこっちにいってなくなっちゃった」などと言うようになり(内臓否定妄想:Cotard症候群的訴え)、近医を受診しLewy小体型認知症が疑われた。
3週間前には転倒を繰り返し言葉が出づらくなり、「立体的に見えない、平面に見える」などと言い音に敏感になった。2週間前には不随意運動が出現し、幻視・精神症状のため精神科単科病院へ入院。抗精神病薬などで加療するも不随意運動は悪化し無言無動状態となったため、精査のために総合病院へ紹介された。
初診時現症
追視はあるものの意味のある発語はなし。口部・頸部・体幹・四肢にミオクローヌスを認め、腱反射は亢進し、病的反射・驚愕反応を認めた。
診断のポイントと鑑別
病初期は、抑うつ症状・内臓の存在を否定するといった否定妄想の訴えから、神経病性うつ病・Lewy小体型認知症などが鑑別に挙がった。しかし、その後歩行障害・視覚異常・ミオクローヌスを呈し、約3カ月の経過で無言無動状態に至った経過は、孤発性Creutzfeldt-Jakob病(CJD)として典型的である。
孤発性CJDを疑った際は家族歴の有無・英国などへの海外渡航歴・硬膜移植や下垂体製剤の使用歴などを確認し、各種脳炎・脳症・てんかん・他の神経変性疾患を除外した上で、脳波上PSD・頭部MRI拡散強調像の特徴的な高信号所見・髄液の14-3-3蛋白やタウ蛋白高値・プリオン蛋白遺伝子所見によってプリオン病とその病型の診断に至る。
孤発性CJDの3期臨床経過

頭部MRI・脳波・髄液検査
頭部MRI拡散強調像(DWI)において、左優位に大脳新皮質の広範な領域および線条体に高信号を認めた。髄液中14-3-3蛋白は陽性であった。脳波検査では入院時には全般性不規則徐波が連続性に出現するのみであったが、入院2カ月後にはPSD(周期性同期性放電)を認めた。プリオンタンパク質(PrP)遺伝子コドン129多型M/M、異常型プリオン蛋白はタイプ1であった。




不眠・抑うつ気分が出現。内臓否定妄想(Cotard症候群的訴え)が出現し近医受診。Lewy小体型認知症を疑われる
発症3週間前〜
転倒を繰り返す。言葉が出づらくなる。「立体的に見えない」などの視覚異常。音への過敏が出現
発症2週間前〜
不随意運動(ミオクローヌス)出現。幻視・精神症状のため精神科単科病院へ入院。抗精神病薬で加療するも悪化し無言無動状態へ
総合病院へ転院後
MRI DWIで大脳皮質・線条体に高信号。髄液14-3-3蛋白陽性。入院2カ月後に脳波でPSDを確認。孤発性CJDと診断確実
その後の経過
経管栄養を継続し、繰り返す誤嚥性肺炎に対して対症療法を行い、約1年半の経過で死亡 プリオン病の全体像
プリオン病はプリオンによる感染性で致死的な神経変性疾患の一群であり、種の壁を越えて伝播する人獣共通感染症である。特徴的な病理像から伝達性海綿状脳症(TSE)ともいう。プリオンとは宿主の正常蛋白質であるPrPCの構造が変化したPrPScを指す。
プリオン病の3分類

Cotard症候群は、器官の否定・不死・巨大妄想・劫罰・悪魔憑き妄想を古典的な3徴とし、Cotardが1880年に記載した43歳の女性症例が始まりである。様々な神経・精神疾患で出現する。
Heidenhain variantは視覚障害のみが病初期にみられる病型で、孤発性CJDの約4%といわれる。視覚障害は視知覚の障害・幻覚・皮質盲・Anton症候群など様々な症候を含み、頭部MRI拡散強調像では後頭葉で高信号を認めることが多い。
新しい診断技術:RT-QuIC

急速に進行する認知症(数週〜数カ月)にはCJDをはじめとするプリオン病を鑑別に挙げる
初期の抑うつ・不眠・精神症状だけで精神疾患と判断せず、ミオクローヌスや視覚症状の出現に注意する
海外渡航歴(英国など)・硬膜移植歴・下垂体製剤使用歴・家族歴の確認が必須
MRI DWI・脳波(PSD)・髄液検査(14-3-3蛋白・RT-QuIC)を積極的に活用する
診断確定後は第5類感染症として7日以内に保健所への届出が必要
根治療法はなく対症療法が中心。終末期は誤嚥性肺炎対策・栄養管理・家族支援が重要
感染管理(外科的処置時の標準予防策の徹底)と家族への適切な説明・サポートを行う







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