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認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤27~Logopenic 型進行性失語— 症状・診断・経過・マネージメント —

  • 4 時間前
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CASE / 臨床症例
CASE / 臨床症例

現病歴

50歳代後半の女性。家族歴や既往歴に特記すべきことはなかった。初期症状は言いたい単語が出なくなるというもので、徐々に喚語困難が悪化。一方で、記憶障害・視空間認知障害・行動面の問題は認めず、幻覚や妄想などの精神症状も認めなかった。主婦としての家事は普通にこなし、対人交流も良好に保たれ、自宅から歩いて15分ほどの友人宅でお茶会を楽しんでいたが、十分な会話を楽しむことはできなかった。

初診時現症(発症2年後)

歩行には問題なく、パーキンソニズムを含めて神経所見に目立った異常を認めなかった。診察中も礼節を保ち、判断力は保たれていた。喚語困難がしばしば認められたが、発話自体は流暢で速度も遅くなく、長さも文レベルで正常であった。理解面では明らかな問題を認めなかった。失語に対する病識は概ね認められた。

MMSE では失語のために 18/30 点と低かった(減点は見当識6点・計算4点・3単語即時再生1点・文の復唱1点)。「桜、猫、電車」の3単語即時再生では「桜、猫」までしか復唱できず、電車を「だんしゃ」などと音の一部を誤った音に置換する音韻性錯語も稀に認められた。数唱でも障害が顕著で、順唱で3桁まで、逆唱では2桁もできなかった。

 

症状のポイントと鑑別

本症例の症状は進行性失語症として捉えられる。50歳代と比較的若年で発症し、記憶障害・視空間認知障害・行動障害は認めず、日常生活レベルや社会機能はほぼ保たれている中で、緩徐に進行する喚語困難を主症状とした失語症である。MMSEの点数の低さは認知症の重症度ではなく、失語を反映する結果であった。

原発性進行性失語の中でも、発語失行は認めずに流暢で文レベルの発話であり非流暢/失文法型とは異なる。言語理解は良好で意味型進行性失語とも異なる。一方、復唱が困難で稀に音韻性錯語も伴い、喚語困難が目立つ点から、logopenic型進行性失語が考えられた。

検査所見
検査所見

血液検査では異常を認めなかった。WAB失語症検査では復唱と呼称を中心とした低下を認めた。話し言葉の理解では、単語の理解や短文の理解は良好であったが、重文を含む複雑な文の理解(経時的命令課題)では成績が低下した。

項目

点数

情報の内容

8/10

流暢性

9/10

話し言葉の理解

8.5/10

復唱

6.3/10 ⬇

呼称

7.3/10 ⬇

画像検査では、この時点で頭部MRIでは明らかな萎縮を認めなかったが、⁹⁹ᵐTc ECD SPECTのeZIS解析では左半球優位にシルビウス裂後方周囲の側頭−頭頂葉接合部を中心とした相対的血流量の低下が認められた。

診断とその後の経過
診断とその後の経過
言語症状に関しては、喚語困難は悪化したため発語は極端に乏しくなり、文のみならず単語の理解障害も伴うようになった。その後の経過を年単位で追うと、次第に広範な認知機能低下が明らかとなっていった。
言語症状に関しては、喚語困難は悪化したため発語は極端に乏しくなり、文のみならず単語の理解障害も伴うようになった。その後の経過を年単位で追うと、次第に広範な認知機能低下が明らかとなっていった。

発症約2.5年後

携帯電話・テレビのリモコン・コーヒーメーカーなどの電化製品の使用方法や車の運転の操作方法がわからなくなる

発症3年後

爪切りの使用法やスーツケースの開け方など日常道具の使用も困難となる

発症4年後

水を沸かす際にやかんではなくフライパンを使ったり、車のドアを開ける際に冷暖房用のリモコンで開けようとするなど道具の意味的な誤使用が出現。明らかなエピソード記憶の障害も出現

発症7年後

夫を認知することができなくなり、おむつなどの異食が出現するなど明らかな意味記憶障害も明らかとなる

発症9年後(65歳)

把握反射や吸引反射などの原始反射が出現。同年に誤嚥性肺炎で死亡

 

Logopenic型進行性失語について

Logopenic型進行性失語は、句や文の復唱障害と喚語困難が目立つが、単語の理解や発話の運動面・統語が保たれている進行性失語の1型である。言語の機能を大まかに分けると、①文の構造や発話の運動面に関する統語/構音機能、②語の意味に関する意味機能、③言語音の構成に関する音韻機能の3つがあり、これらの障害がそれぞれ進行性失語の3亜型(非流暢/失文法型・意味型・logopenic型)に当てはまる。

音韻機能障害としての特徴

語の音韻配列を正しく想起することが困難となると、「ゆきだるま」が「ゆきでるま」などとなる音韻性錯語が出現する。喚語困難に関しても口先まで出かかっている場合などは、語の音韻型の想起が困難であると捉えられる。Logopenic型で最も特徴的な復唱の障害は、音韻性錯語や語聾の要素のほかに、語の音韻型を把持することが困難である音韻性短期記憶障害による要素が大きい。

病理背景

Logopenic型進行性失語は高齢発症の場合もあるが、50歳代から60歳代前半に発症する若年例が比較的多く、病理背景は中にはLewy小体病やFTLD病理をもつ場合もあるが、ADであることが多く、その割合は2/3から100%と報告されている。したがって、logopenic型進行性失語の大部分は、若年発症で記憶障害ではなく失語を呈する非定型ADと位置づけることができる。

マネージメントのポイント
マネージメントのポイント

Logopenic型進行性失語は経過とともに失語症状の悪化に加え、電化製品や道具の使用が困難になり、エピソード記憶障害や意味記憶障害も出現してくる。また、認知機能の低下に伴って、うつ症状や興奮などの精神症状を伴うことも多い。若年で発症することが多いため、経済的な問題も生じやすい。時期に応じて、コミュニケーションやADL面のサポート、さらには認知症の行動・心理症状(BPSD)に対するケアが必要になる。

在宅医療での実践ポイント
在宅医療での実践ポイント

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