認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤26~Psychiatric-onset dementia with Lewy bodies(DLB):BPSDについて精神病性うつ病として発症しECTで加療されたpsychiatric-onset DLBの症例と、認知症の行動・心理症状(BPSD)の包括的理解
- 8 分前
- 読了時間: 5分

CASE
現病歴
70歳代前半の女性。中学校卒業後に就職、20歳代後半で結婚し挙児は3人。専業主婦を経てパートで働いていた。70歳代に入ってからは、家庭菜園で野菜作りをして近所に配るなど、社交的だった。精神科受診歴はなく、家族いわく心身ともに健康で明るい性格だったという。家事全般をこなし、銀行や役所の手続なども問題なく行えていた。
受診1年前・6月〜
足の痛みが悪化し、抑うつ気分・不眠・不安を訴えるようになった。近医精神科を受診し、うつ病の診断となった。10月に整形外科病院に入院し腰椎椎弓切除術を行ったが、退院後も抑うつ気分は増悪し、そわそわと一日中自宅の中を歩き回るようになった。「自分はとりかえしのつかないことをしてしまった、ご飯を食べる資格がない」と言って、食事を拒んだ。普段50kg近くあった体重が35kgまで減少。
精神科単科病院入院
ミルタザピン30mg・クエチアピン37.5mgなどで加療されるも、食事を摂取せず発動性は低下し亜昏迷状態であり、修正型電気けいれん療法目的で当院に転院となった。
当院入院後:ECT施行
顕著な不安焦燥および罪業妄想は改善し、軽度の不安や抑うつ気分は残遺するものの、食事は全量摂取し、病棟内を自ら散歩するなど意欲もみられ、笑顔がみられるようになった。
自宅退院準備中
夕方から夜間に「虫がいる、おじさんがいる、蛇がいる」などとありありとした幻視の訴えを繰り返したり、他の患者のことを母だと思い込んでいるという妄想性誤認症候群が認められた。これらの症状は1日の中で変動した。
DLB確定へ
MIBG心筋シンチグラフィーは早期2.19、後期1.77と低下。ドネペジルを開始し、幻視や認知機能の変動は改善したものの、筋強剛や易転倒性などパーキンソニズムがみられた。MMSE:25/30点(時間の見当識-2、場所の見当識-1、シリアル7 -2)。DLBの臨床診断基準(2017)に基づいてprobable DLBと診断した。

不安焦燥が前景にたち、罪業妄想などの微小妄想から、前医では拒食があり、発動性は著しく低下し、点滴などあらゆる医療行為を拒絶した。微小妄想とは、抑うつ状態でしばしばみられ、自分は価値のない存在と極端に考える。代表的なものに、罪業妄想に加えて、心気妄想・貧困妄想がある。
精神科的な状態像としては、精神病性のうつ状態に加えて、精神運動は大きく減退しており、拒絶症などの緊張病症候群の症状も呈していると考えられた。鑑別に、DLBをはじめとした神経変性疾患の前駆状態も挙がるが、あらゆる医療行為を拒否するような状態であり、精神症状に対する治療を優先し、修正型電気けいれん療法を週に3回、計10回施行した。
診断

70歳代に初回の精神病性うつ病のエピソードで初診となった症例である。初診時は、認知機能の変動・幻視・レム睡眠行動障害・パーキンソニズムといったDLBの中核的症状を認めず、精神病性うつ病として修正型電気けいれん療法にて加療され精神症状の改善がみられた。しかし、その後幻視・認知機能の変動が明らかになり、またコリンエステラーゼ阻害薬導入後にパーキンソニズムが惹起され、probable DLBの診断に至った。
Psychiatric-onset DLBについて
DLBの前駆期の状態として、軽度認知障害(MCI)とdelirium-onsetとともに、精神症状で発症するDLB(psychiatric-onset DLB)が知られている。幻視だけでなく他の感覚モダリティにおける幻覚・妄想性誤認症候群を含む体系だった妄想・アパシー・不安・抑うつといった症状を呈する。
遅発性のうつ病や精神病症状がpsychiatric-onset DLBとして最も報告が多い。本症例のように、前駆期は幻視などのDLBに特徴的な精神症状はみられず老年期精神疾患によくみられるような非特異的な精神症状を呈する場合は、臨床症状から鑑別を行うことは困難なことが多い。

DLBの過剰診断への注意

Psychiatric-onset DLBの治療とマネジメント




Behavioral and psychological symptoms of dementia
Behavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)とは、認知症に出現する行動・心理症状であり、中核症状であるエピソード記憶障害などの認知機能障害に伴って出現する。

薬剤カテゴリー用途・注意事項 抗精神病薬症状に応じて使用。ただしパーキンソニズムを筆頭として副作用に十分注意。AD患者では死亡率を用量依存的に高めることが知られている。 抗うつ薬うつ・不安症状に使用。 気分安定薬(抗てんかん薬)気分の変動・易怒性への使用。 メマンチン認知機能障害に加えBPSD軽減の効果も期待される。 抗不安薬不安・焦燥への対症療法的使用。 抑肝散(漢方)エビデンスのある漢方薬。副作用は比較的少ない。

たとえば、もの盗られ妄想はエピソード記憶障害に加えて、生活上の不安や自分の権利を戻したいといった復権の意味合いもうかがえることが多い。他にも、異食症には意味記憶障害(物の意味がわからないこと)が深く関係しているため、消しゴムなど柔らかかったり、シャンプーなど飲みやすそうなものを異食しやすい。この状況を治療者や介護者が把握することで、本人への接し方も変わるものである。
また、BPSDは介護者自体の性格傾向といった介護者側の要因も大きいことも知られている。実際に同じレベルのBPSDであっても介護者や介護施設によって問題となる場合と全く問題にならない場合がある。非薬物療法におけるわれわれの役割は、BPSDの症状を表面的に把握するのではなく、認知症の本人や介護者の置かれている状況を認知・環境・性格などの様々な側面を総合的に評価して、介護者が介護場面で認知症の本人のBPSDを少しでも改善できるように援助していくことだろう。





コメント