認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤23~Atypical progressive supranuclear palsy(PSP)前頭葉症状が前景に立つPSP-Fの症例bvFTDとの鑑別と、PSP臨床亜型のMAXルールによる診断の実践
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進行性核上性麻痺PSPPSP-FAtypical PSPbvFTD前頭側頭型認知症4リピートタウオパチーCBD眼球運動障害垂直性核上性麻痺パーキンソニズム姿勢保持障害NPI脳血流シンチグラフィードパミントランスポーターMAXルール在宅医療認知症
CASE
現病歴
60歳代後半の右利きの男性。6年前から怒りっぽくなった。また、思い返してみると同時期から歩行がわずかに遅くなってはいた。2年前からは細かな作業が苦手になり、稀に転倒するようになった。妻の話では、1年前頃から運転中に信号を無視することが増え、以前は好きではなかった甘いものを食べるようになったとのことだった。
初診時現症
診察中に何度も席を立ち診察室を歩き回っていた。上方視制限に加えて、垂直方向の衝動性眼球運動の緩徐化を認めた。強く閉眼させた後に開眼を促すと眼瞼攣縮が続いてしまい時間がかかった。指タップや手の開閉などの連続運動を行わせると左上肢優位に動きの遅さ・拙劣さが目立った。頸部・体幹に強い筋強剛を認めた。すり足歩行で継ぎ足歩行は4歩まで可能だった。軽度の姿勢保持障害を認めpull testでは5歩後退したところで何とか踏みとどまることができた。
MoCAを実施しようとしたが患者が検査室から立ち去ってしまい実施困難だった。
NPI(Neuropsychiatric Inventory)では興奮、無為/無関心、脱抑制、異常行動および食行動異常を認めた。
診断のポイントと鑑別
本症例は性格変化と動作緩慢で発症し、その後に脱抑制や食行動異常が加わった。運動面では動作緩慢に加えて発症4年後に軽度の易転倒性を認め、診察では軽度の眼球運動障害および眼瞼攣縮/開眼失行を認めていた。行動異常は前頭側頭型認知症(FTD)の亜型であるbehavioral variant FTD(bvFTD)が最も疑われた。
bvFTDの背景病理は多彩で、TDP43プロテイノパチー、4リピートタウオパチー(進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症)、およびPick病などが知られている。パーキンソニズムを伴っている場合には4リピートタウオパチーが鑑別診断の上位に挙がる。本症例で垂直方向の衝動性眼球運動の緩徐化を認めていることはPSPの眼球症状を示唆する。その他、眼球運動障害および眼瞼攣縮/開眼失行、頸部・体幹に強い筋強剛、易転倒性を伴う姿勢保持障害を認めておりPSPが疑われる。前頭側頭型認知症に類似した前頭葉障害の強いタイプはPSP-F(predominant frontal presentation)に分類される。
一方で同じく4リピートタウオパチーに分類される大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration: CBD)も臨床像が多彩であることが明らかとなっており、前頭葉性行動・空間症候群(frontal behavioral-spatial syndrome)という臨床病型ではbvFTDの行動異常とパーキンソニズムという症候の組み合わせを生じうることから、CBDの可能性も念頭に置く必要がある。
検査
血液検査ではHbA1c 7.0と上昇を認めたが、甲状腺機能は正常で、その他には認知症やパーキンソニズムの原因となるような異常は認めなかった。頭部MRIでは中脳被蓋部の萎縮ははっきりしなかったが、前頭葉の萎縮と第三脳室の軽度の拡大を認めた。ドパミントランスポーターシンチグラフィーでは両側線条体におけるFP-CIT集積低下が目立ち(Bolt法によるSBR: R=2.69, L=2.57)、脳血流IMPシンチグラフィーでは両側前頭葉〜側頭葉前方にかけての血流低下および基底核血流低下を認めた(図1)。MIBG心筋シンチグラフィーは正常所見であった(H/M比 early 2.08, delay 2.14, washout ratio 22.2%)。
診断

日常生活場面での易怒性に対してトラゾドン25 mgを投与したところ改善傾向を認めた。その後、無為および運動症状が緩徐に悪化したが、それとともに脱抑制行動は徐々に沈静化した。1年後には垂直性核上性眼球運動障害および嚥下障害が目立つようになった。
Discussion
本症例のまとめ
bvFTDを示唆する性格変化で発症し、その後にパーキンソニズムを中心とした運動症状が緩徐に進行した症例で、症候としては行動異常が前景に立っていた。その後の経過でPSPを示唆する眼球運動障害や易転倒性がみられ、ドパミントランスポーターシンチグラフィーでも線条体集積低下がみられた。
bvFTDについて
bvFTDは性格変化および社会的行動の障害を主徴とする臨床症候群で、初期には脱抑制・無為・共感の欠如などを高頻度に認め、その後に常同行動や保続・紋切り型の会話および食行動異常や衝動制御困難などを伴ってくる。これらの症状は患者の生活の質を低下させ大きな介護負担にもなるが一般的な認知機能検査では異常を検出しにくく、bvFTDの患者は早期から病識の欠如を伴うことが多いため介護者への詳細な問診が早期診断の鍵となり、NPIは診断ツールとしても利用しやすい。
■ possible bvFTD診断に必要な6つの臨床的特徴


①
臨床症候から possible bvFTD を選別(6項目中3つ以上)
↓
②
画像バイオマーカーを用いてADなど他疾患を除外 → probable bvFTD(前頭葉または側頭葉の萎縮/血流低下/代謝低下)
↓
③
病理学的診断もしくは遺伝子診断 → definite bvFTD
PSPの臨床亜型
atypical PSPの臨床病型は非常に多彩であり、パーキンソン病に類似したPSP-P(predominant Parkinsonism)、すくみ足の目立つPSP-PGF(Progressive Gait Freezing)、前頭側頭型認知症に類似した前頭葉障害の強いPSP-F、眼球運動障害を主体とするPSP-OM、発語失行や進行性非流暢性失語を呈するPSP-SL、大脳皮質基底核症候群に類似したPSP-CBS、姿勢保持障害を主体とするPSP-PI、また本邦では小脳性運動失調を主体とするPSP-Cが少なくないことも知られている。
PSP-F(本症例)
前頭側頭型認知症に類似した前頭葉障害が前景。行動異常・脱抑制・無為が目立つ。
PSP-RS(Richardson症候群)
古典的PSP。垂直性核上性麻痺+姿勢保持障害+認知機能低下。
PSP-P
パーキンソン病に類似。L-DOPA部分奏効も多い。進行するとRS様に移行。
PSP-CBS
大脳皮質基底核症候群に類似。肢節運動失行・他人手徴候など。CBDとの鑑別が重要。
PSP-SL
発語失行・進行性非流暢性失語が主体。言語症状から発症する。
PSP-PGF / PSP-OM / PSP-PI / PSP-C
すくみ足・眼球運動障害・姿勢保持障害・小脳失調がそれぞれ主体となる亜型。
複数の臨床亜型が該当する場合 — MAXルール







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