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認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤22~慢性外傷性脳症(CTE) Chronic traumatic encephalopathy 反復性軽度頭部外傷から生じる神経変性疾患 — タウ病変と臨床診断(TES)のポイント

  • 3 時間前
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慢性外傷性脳症CTE外傷性脳症症候群TES反復性頭部外傷脳震盪タウ蓄積タウPETアミロイドPETコンタクトスポーツボクサー脳症若年性認知症気分障害遂行機能障害MMSE若年性認知症在宅医療認知症
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  CASE

 現病歴

60歳代の男性。職業は映像制作および大学教授。以下に示すような症状の経過を経て、難治性の抑うつおよび認知機能障害の器質性疾患の精査のために、X年に高次脳機能障害外来を受診した。

X-6年〜

めまい、耳鳴り、ふらつき、難聴、頭痛を自覚。多数の医療機関を転々と受診したが、頭部MRI・脳血流SPECT・脳波検査などで異常はみられず、原因は不明のまま。

X-4年〜

抑うつ症状が出現し、希死念慮も出現。抑うつ症状が持続し、職務をこなすことが次第に困難となった。

X-2年〜

気分の高揚が出現し、選挙に立候補するなどの過活動が一過性にみられた。易怒性の亢進・感情コントロールの困難・同僚を糾弾するなどの行動・対人関係トラブルが頻発。記憶力の低下・集中困難を自覚。

X-1年〜

姿勢時振戦・歩行困難・構音障害なども呈するようになった。複数の医療機関でうつ病、双極性障害、パーソナリティ障害、身体表現性障害などの診断を受けていたが、抗うつ薬や気分安定薬による効果は認められなかった。

初診時現症

初診時、めまいや耳鳴り・難聴などの症状は依然として持続していた。抑うつ気分・希死念慮・焦燥感などを伴う抑うつ状態が認められた。些細なことで激高するなど、情動制御の困難も顕著であった。

抑うつ症状の評価ではCES-Dで52点、アパシーの評価ではやる気スコアが24点といずれもカットオフ値を超えていた。また、記憶障害・遂行機能障害も認められ、これは緩徐に悪化する傾向を示していた。

MMSE:25/30点(見当識-3、計算-1、再生-1)と軽度の認知機能低下。論理的記憶の遅延再生が9/50点(60歳代の平均と比較して下位18パーセンタイル)、ROCFTの遅延再生が14/36点(60歳代平均25.2±6.4)と軽度の近時記憶の障害が疑われた。

 頭部外傷への曝露歴
 頭部外傷への曝露歴

本症例の問診の過程でコンタクトスポーツによる濃厚な脳震盪への曝露が明らかとなった。小学校・中学校はサッカー部に所属しており、一度、ヘディングにより数分間の意識消失を経験した。高校生の時にアイスホッケーを開始。成人後は複数のチームを掛け持ちし、社会人リーグや国際親善試合にも出場するなど、精力的に活動をこなしていた。多数の脳震盪を経験し、医療機関に搬送されたことが複数回あった。アイスホッケーは交通事故の直前まで計41年間継続した。

脳画像検査

頭部MRI検査では、脳室拡大・白質の萎縮などの所見を認めたが、明らかな脳損傷痕やAlzheimer病を示唆する脳の萎縮所見は認めなかった。脳血流SPECTでは右上部前頭葉に限局した集積低下が認められたが、Alzheimer病で認められることの多い頭頂葉・後方連合野・後部帯状回・楔前部の血流低下は認めなかった。

認知症をきたす神経変性疾患の有無を検討するため、アミロイドPETおよびタウPETを実施した。結果、アミロイドPET検査は陰性であり、Alzheimer病は否定された。一方、タウPET検査では側頭葉底面前方にかけてタウPET薬(¹⁸F–PM–PBB3)の顕著な集積を認めたことから、非Alzheimer型タウオパチーであることが示唆された。

臨床診断
臨床診断
Discussion
Discussion

本症例のまとめ

本症例は、抑うつや躁状態を含む気分障害・情動制御困難が先行し、その後、緩徐進行性の認知機能障害および運動症状という臨床像に加えて、長期にわたるコンタクトスポーツへの従事と脳震盪への曝露歴を有することから、CTEが背景病態として疑われた。

診断基準(TES:NINDS criteria, 2021改訂版)

CTEは神経病理学的診断名であり、確定診断は剖検によってのみなされる。CTEの臨床診断病名として、TESが米国国立神経疾患・脳卒中研究所より提唱されている。最新版のTES診断基準では、まず「反復性外傷性脳損傷(TBI)への曝露の有無」が問われる。

 ● TES診断基準フローチャート(NINDS criteria)

病態
病態

脳震盪などの意識障害を伴わない軽度TBIに繰り返し曝露していた場合、数年から数十年が経過して進行性の認知機能障害・精神症状・運動症状などを呈する遅発性の脳障害が引き起こされる場合がある。これは、かつてはボクサー脳症(boxer's encephalopathy)やdementia pugilisticaと呼ばれていた病態であり、近年はCTEという病名が定着している。

臨床症状・神経心理学的検査での特徴
臨床症状・神経心理学的検査での特徴

■ CTEの主な臨床症状

カテゴリー

主な症状

特記事項

認知機能

記憶障害(近時記憶)、作動記憶障害、注意機能障害

最も頻度が高い

精神症状

不眠症、不安障害、うつ病、攻撃性亢進、物質乱用/依存症

自殺リスクが高い

行動・気分

易怒性、情動制御困難、脱抑制、アパシー

早期から出現

運動症状

パーキンソニズム(現代型では少ない)、構音障害

古典的ボクサー脳症に多い

身体症状

難治性頭痛、めまい

高頻度に認められる

  行動障害/気分障害型

若年で発症し、抑うつなどの精神症状が優位となる臨床亜型。うつ病・双極性障害などとの鑑別が問題になる。

  認知機能障害型

高齢で発症し、認知機能障害が主症状となる臨床亜型。最終的に認知症に至るケースがある。

治療・マネジメント

現時点では、CTEを含めた脳内タウ蓄積を標的とする治療法は存在しない。そのためCTEの対策としては、コンタクトスポーツ選手や兵士など脳震盪のリスクの高い職業では脳震盪への曝露を可能な限り減らす努力が求められる。将来的には、タウを標的とした新たな疾患修飾薬により、タウ蓄積の進行を抑制する治療法の確立が期待されている。


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