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認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤24~Atypical corticobasal syndrome(CBS)後部皮質症状から始まるCBSの鑑別と経過観察

  • 9 時間前
  • 読了時間: 6分
大脳皮質基底核症候群CBSCBDAtypical CBS後部皮質萎縮症PCABálint症候群同時失認半側空間無視PSP4リピートタウオパチーCSFバイオマーカーWMS-RFABMMSE脳血流シンチグラフィードパミントランスポーター在宅医療認知症
大脳皮質基底核症候群CBSCBDAtypical CBS後部皮質萎縮症PCABálint症候群同時失認半側空間無視PSP4リピートタウオパチーCSFバイオマーカーWMS-RFABMMSE脳血流シンチグラフィードパミントランスポーター在宅医療認知症

  CASE

 現病歴

60歳代の右利き、教育歴9年の女性。2年前よりめまい感を自覚するようになった。めまい感があっても歩行や日常生活は可能であり、耳鼻科や眼科・内科を複数受診したが、いずれも当該科での検査では異常は認められず、原因が不明であった。冷蔵庫の中などの目的の物を探すのが苦手になった。1年前に、自動車運転中に右へのカーブで左にはみ出した脱輪事故を起こした。近医より当科へ紹介されて受診した。

  既往歴・家族歴

66歳より高血圧症。姉に認知症があるとされるが詳細は不明。

  初診時現症

意識は清明、言語は正常。視野および眼球運動の障害・眼振は認めなかった。主観的なめまい感は常に訴えがあったが、客観的な診察所見では捉えることは困難であった。眼球運動の検査で指標を追うことができるが、1つの方向で注視したまま止められず、すぐ検者の方や他の方向を見てしまった。また、視覚の消去現象の診察では、注視してはならない指標を見てしまうため評価できなかった。注視の維持が困難であると捉えた。

MMSE:24/30点(失点は見当識で2点、計算・注意で3点、構成で1点)。順唱は4桁で、視覚性スパンは2個まで。視覚性優位に注意の低下が疑われた。視覚性運動失調・肢節運動失行・観念運動性失行・観念性失行はいずれも認めず、失算・左右失認・手指失認もなかった。左手で手掌書字覚・立体覚が低下していた。

FAB:7/18点(失点は概念化で2点、流暢性で2点、運動系列で3点、葛藤指示で1点、Go/No-Goで3点)。語の流暢性では動物のカテゴリーで8個/分、語頭音「か」の語の列挙で3個/分と低下が認められた。

麻痺はなく、左上肢に誘発法でごく軽度の筋強剛を認めた。歩行は正常で、姿勢保持障害は認めなかった。

検査
検査

標準高次視知覚検査において、図形の模写では左視野にある対象の部位が一部欠けてしまい、左の半側空間無視があると考えられた。塗り絵では、線で囲まれた部位を塗っている途中で、はみ出す傾向が認められ、「線画」と「塗っている場所」を同時に認知できないことが疑われた(図1)。行動性無視検査(BIT)の一部を施行したが、記号の抹消試験では失点はなく、写真課題でも取り組みは遅いが、探索に偏りや不足はなかった。

WMS-Rを施行したところ言語性記憶の指標は86、視覚性記憶は<50(カットオフ以下)、一般的記憶は76、注意集中は61、遅延再生は67であった。注意集中の低下および視覚性優位の記憶の低下があることにより記銘の段階で障害があり、記憶の貯蔵・想起に特異的な障害ではないと考えられた。

■ WMS-R 結果

頭部MRI(T1強調像水平断)では、側脳室とシルビウス裂の軽度の拡大を認めたが、全体に正常範囲の所見と考えられた。⁹⁹ᵐECD-SPECTのeZIS解析では右頭頂葉優位に脳血流低下部位を認めた。ドパミントランスポーターシンチグラフィーでは、striatal binding ratio(SBR)は右6.11、左6.34と保たれていたが、定性的には右線条体が対側に比べて集積低下が疑われた。MIBG心筋シンチグラフィーは正常所見であった。
頭部MRI(T1強調像水平断)では、側脳室とシルビウス裂の軽度の拡大を認めたが、全体に正常範囲の所見と考えられた。⁹⁹ᵐECD-SPECTのeZIS解析では右頭頂葉優位に脳血流低下部位を認めた。ドパミントランスポーターシンチグラフィーでは、striatal binding ratio(SBR)は右6.11、左6.34と保たれていたが、定性的には右線条体が対側に比べて集積低下が疑われた。MIBG心筋シンチグラフィーは正常所見であった。

 診断のポイントと鑑別

本症例では、全般性注意の低下・視覚性注意維持の困難・軽度前頭葉機能低下・視空間認知障害(軽度の左半側空間無視・背側型同時失認・構成障害)・記銘力障害の症候があると捉えられ、右の頭頂葉・後頭葉を中心とする機能障害が示唆された。また、Bálint症候群の一部を満たすような同時失認や、視覚性の注意維持困難が強いため、対側の頭頂病巣も疑われた。

鑑別としては、軽度ながら左上肢の筋強剛があり、ドパミントランスポーターシンチグラフィーでの集積の左右差があることから、後部皮質の病巣と大脳基底核障害の両方を説明できる、大脳皮質基底核症候群(CBS)を想定した。ただし、CBSのArmstrong基準では、possible CBSにもならず、この時点ではposterior cortical atrophy(PCA)の症候群と捉えることが妥当と考えた。

 その後の経過と最終診断

初診時

PCAの症候群として経過観察。左半側空間無視・同時失認・視覚性注意障害が主体。運動症状は軽微。

2年後

頭部MRIで両側側脳室の拡大が進行。中脳被蓋・側頭葉内側面を含む大脳皮質のびまん性萎縮傾向が疑われた。

3年後

視空間認知障害が進行。全般性の知能の低下、歩行が遅くなり、左上肢以外の四肢の筋強剛も出現。姿勢保持障害と垂直性眼球運動障害が出現・進行。立位保持できず、日常生活動作に介護が必要となった。

発症6年

肺炎により死亡。病理は確認できなかった。

 Discussion
 Discussion

本症例のまとめ

本症例は、約1年の経過で視空間認知機能障害を疑う症状が進行し、神経心理学的検査で左半側空間無視・同時失認・構成障害・手掌書字覚/立体覚障害が確認できた。MMSEでの失点パターンや視覚性スパンの低下などからは全般性注意の低下があると考えられた。FABの成績(7/18点)がMMSEの成績(24/30点)と比較して不相応に低下しており、語流暢性の成績低下も著明であることから前頭葉機能障害が疑われる。

Bálint症候群の症例報告となった患者でも、受診の契機が「めまい」で、視野や眼球運動などでは異常が捉えられなかったとされている。本症例でドクターショッピングの契機となっていた「めまい感」も類似した症状ではないかと考えた。本症例では左半側空間無視や同時失認があることから、自動車運転という注意集中に負荷がかかる場面で脱輪事故に至ったのではないかと思われた。

Atypical CBSについて

本症例は初期には皮質の萎縮や大脳基底核症状が乏しく、CBSの診断基準を満たさなかった。この場合、初診時にはPCAの症候群と捉える方がよいと考えつつ、経過を追った。初診時から2年、発症から3年ほどの間に、パーキンソニズムが進行し、視・空間認知症状で「探せない」「家事ができない」問題よりも、四肢・体幹の筋強剛を伴う運動症状により日常生活動作が損なわれるようになった

CBS(大脳皮質基底核症候群)

  • 肢節運動失行、他人手徴候

  • 皮質性感覚障害

  • 非対称性のパーキンソニズム

  • 認知機能障害(前頭葉型)

  • 姿勢保持障害(進行期)

PCA(後部皮質萎縮症)

  • 視空間認知障害が主体

  • Bálint症候群(同時失認・眼球失行)

  • 半側空間無視・構成障害

  • 記憶は比較的保たれる(初期)

  • 背景病理はADが多い

CBSとPSPの鑑別について

病理学的に確認された大脳皮質基底核変性症(CBD)のうち、臨床表現型はCBS(37.1%、78/210例)に次いで、進行性核上性麻痺症候群(PSPS / Richardson症候群)(23.3%、49/210例)が占めた。CBD症例では、眼球運動障害が初診時に33%、経過中には60%でも確認されたという。眼球運動障害は進行性核上性麻痺(PSP)で特徴的とされるが、本症例でも進行期には顕著な垂直性眼球運動障害が確認され、姿勢保持困難と歩行障害が進行した。ただし、これらの症候のみではPSPとCBS・CBDとの鑑別は困難である。

CBSとCSFバイオマーカー

■ CBSとCSFバイオマーカー(CBD診療マニュアル 2022 CQ5-4より抜粋)

対象

CSFバイオマーカー

結果

文献

CBS (n=12), PSP (n=21)

t-tau, p-tau

PSP<CBS: t-tau (P<0.001), p-tau (P<0.05)

5)

CBS (n=22), PSP (n=46), コントロール (n=34)

3R-tau, 4R-tau

PSP<コントロール: 4R-tau (P<0.01) / 3R-tauでは各群間で有意差なし

7)

CBS (n=16), AD (n=512), PSP (n=20), DLB (n=52)

Aβ, p-tau

Aβ42低値かつp-tau高値のAD profileをもつ患者の割合: CBS 38%, AD 90%, PSP 10%, DLB 47%

6)

CBS (n=11), PSP (n=14), PD (n=10), MSA (n=21), コントロール (n=59)

NFL

CBS>コントロール (P<0.001), CBS>PD (P<0.001) / MSA, PSP, CBS群間では有意差なし

8)

AD: Alzheimer's disease, CBS: corticobasal syndrome, DLB: dementia with Lewy bodies, MSA: multiple system atrophy, PD: Parkinson's disease, PSP: progressive supranuclear pals


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