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認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤25~Delirium-onset dementia with Lewy bodies(DLB)せん妄を前駆症状とするレビー小体型認知症

  • 9 時間前
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 CASE

 現病歴

初診時に60歳代後半であった右利きの独居男性。以下の経過を経て、独居生活の継続が困難となったため、長女に付き添われて受診した。

1年前:ワクチン接種直後

新型コロナウイルスのワクチンを接種した直後から、状況にそぐわない意味不明な発言をするようになった。近所に住む長女が暫く付き添って経過をみていたところ、徐々に意思疎通の問題がなくなったが、ワクチンの接種前と比較して動作が緩慢になり、もの忘れが多くなったため、マンションの管理人を退職した。夜間を中心に見当識が若干悪くなることもあった。

半年前:ベンゾ中止→再出現

かかりつけの精神科で前述のエピソードを相談したところ、ロフラゼプ酸エチルの内服が中止された。しかしながら、その直後から意思疎通が再び困難となり、絨毯や壁の模様がもぞもぞ動く小さな虫に見えたり、自分の手にも小さな虫が這うような幻が見えたりするようになった。ロフラゼプ酸エチルの内服を再開したところ意思疎通が可能となり、虫は見えなくなったが、動作は緩慢なままであった。

4カ月前〜現在

特に誘因なく小さな虫の幻が時折見えるようになり、もの忘れも多くなった。独居生活の継続が困難となり受診に至った。

家族歴・既往歴

家族歴には特記すべき事項はない。45歳からうつ病の診断でロフラゼプ酸エチルの内服(2 mg/日)を継続していた。62歳から腰部脊柱管狭窄症による左大腿部の痛みがあり、プレガバリンの内服(100 mg/日)を継続していた。

 初診時現症

意識は清明であり、少なくとも診察時は意思疎通に問題はなかった。性格は神経質であり、些細なことにこだわる傾向が認められた。神経学的診察では仮面様顔貌とMyerson徴候、左優位の四肢の運動緩慢、左上肢の筋強剛、前屈歩行、姿勢保持障害、頻尿、便秘、起立性低血圧が認められた。明らかな嗅覚低下はなく、RBDを疑うエピソードは聴取されなかった。

神経心理学的診察では軽度の全般性注意障害が認められたが、その他の明らかな認知機能障害は認められなかった。

TUG(3 m起立歩行試験)では所要時間が13.4秒(歩数は17歩)と軽度の歩行速度の低下が認められた。MMSE:28/30点(計算3/5点のみで失点)。

診断のポイントと鑑別
診断のポイントと鑑別

本症例では、①繰り返し出現する構築された具体的な幻視(小さな虫)と思われるエピソードの聴取に加え、初診時に②特発性のパーキンソニズム(動作緩慢・寡動・筋強剛)が認められ、レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)の臨床診断基準の中核症状が2つ認められた。患者は運動障害と全般性注意障害の出現により就労の継続が不可能となり、初診時には独居生活の継続にもサポートが必要となっていたため、進行性の認知機能障害がある(認知症がある)と判断した。

また、運動障害とほぼ同時期に認知機能障害が出現したため、Parkinson病と診断するよりもDLBと診断する方が適切であると思われた。その中でも、新型コロナウイルスのワクチン接種を契機としたせん妄がDLBの前駆症状であった可能性があり、delirium-onset DLBに分類される臨床経過と思われた。

検査
検査

血液検査・髄液検査では異常所見が認められず、脳波においてもてんかん型放電や基礎律動の異常・間欠的律動性もしくは持続性高振幅性の全般性デルタ活動・三相波は認められなかった。頭部MRI検査においても明らかな異常所見は認められなかった。

¹²³I-ioflupane ドパミントランスポーターシンチグラフィー:背側優位に両側線条体の集積の低下が認められた。SBRは右線条体が4.03、左線条体が3.69であり、両側ともに同年齢の健常者における-2 SD以下の数値であった。

¹²³I-meta-iodobenzyl-guanidine(MIBG)心筋シンチグラフィー:早期相・遅延相ともに心筋での著明な集積低下が認められた。心/縦隔比(H/M ratio)は早期相が1.26、遅延相が0.96であった。

パレイドリア・ノイズパレイドリアテスト:有意なパレイドリア反応は認められなかった。

 診断

 その後の経過
 その後の経過

患者本人の希望で初診後も一人暮らしを続けていく方針となった。介護保険サービスによる通所リハビリテーションはすでに利用していたため、訪問介護サービスを導入し、服薬状況や屋内環境のチェックを行うようにした。

初診から2週間後にドネペジルの内服を3 mg/日の内服量で開始し、その2週間後に5 mg/日の内服量へと増量したところ、以後の1年の経過で錯視と幻視が再び出現することはなかった。また、初診から2カ月経過した時点で、レボドパ・ベンセラジド合剤の内服をレボドパ100 mg/日(ベンセラジド28.5 mg/日)から開始し、その1カ月後にレボドパ200 mg/日(ベンセラジド57 mg/日)に増量したところ、徐々に動作の緩慢さが軽減した。

初診時から半年後のTUGの成績は所要時間が10.2秒(歩数は16歩)まで向上し、初診時から1年後に施行したMMSEの総得点は、初診と同様の28点(計算で失点)であった。

 Discussion

本症例のまとめ

新型コロナワクチンの接種を契機としたせん妄が発症し、その後に運動機能と認知機能の低下が出現した。初診時には繰り返し出現する小さな虫の幻視のエピソード・全般性注意障害・特発性のパーキンソニズムが認められ、すでに日常生活動作に支障をきたしていた。DLBの臨床診断基準によるprobable DLBの診断基準を満たし、delirium-onset DLBに分類される臨床経過であった。

Prodromal DLBについて

近年、DLBの前駆段階(prodromal DLB)としての症状が注目されており、2020年にprodromal DLB研究用臨床診断基準が公表された。その中では、Alzheimer病による軽度認知障害(MCI)と同様にLewy小体を伴う軽度認知障害(MCI-LB)という疾患概念が提唱されただけではなく、delirium-onset DLBpsychiatric-onset DLBの2つの臨床亜型も提唱された。

Delirium-onset DLB(本症例)

認知機能の低下もしくは認知症の発症に先行するせん妄のエピソードがあることが必要とされている。



本症例:ワクチン接種後のせん妄 → 認知機能・運動機能の低下

せん妄とprodromal DLB
せん妄とprodromal DLB

DLB患者とAD患者を対象とした後ろ向き研究によると、DLB患者では認知症になる前の1年間にせん妄の発症があった患者の割合が17.2%とAD患者(3.2%)と比較して有意に多かったと報告されている。また、認知症になる前に2回以上のせん妄の発症があった患者の割合がDLB患者(23%)ではAD患者(14%)より多かったとの報告もある。

しかしながら、せん妄の症状には注意機能や覚醒度の変動・幻覚といったDLBの中核的症状とオーバーラップするものがある。医療機関でせん妄と診断された後に経過観察され、DLBと後に診断された症例ならともかく、初診時に聴取した患者の病歴で確認された認知の変動・幻覚がDLBとしての症状だったのか、もしくはせん妄の症状だったのかを判断することは極めて難しい。


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