在宅医療における認知症について66~長谷川式簡易知能評価スケール改訂版(HDS-R)
- 賢一 内田
- 11月21日
- 読了時間: 4分

― 日本で最も広く使われる認知症スクリーニング検査 ―
HDS-Rは、日本の高齢者における 認知症のスクリーニング を目的に作成された検査です。特に 記憶障害を中心に、大まかな認知機能の低下を捉える ために設計されています。
最高点:30点
20点以下 → 認知症が疑われる
21点以上 → 非認知症とするのが最も弁別性が高い
MMSEと同じ「30点満点」ですが、評価している領域や構成・順番が大きく異なります。MMSEとHDS-Rは同時実施が不可能 であり、役割もやや異なります。
■ HDS-Rの構造と実施法(MMSEとの比較を交えながら)
HDS-Rには 日本文化に特有の配慮 や、言語・記憶中心の評価 が特徴的にみられます。
以下、各項目の実施ポイントとMMSEとの違いを整理します。
① 年齢(1点)
「お年はいくつですか?」
誤差2年まで正解
数え年文化に配慮した、日本独自の仕様
MMSEにはこのような“許容範囲”の規定はありません。
② 時間の見当識(4点)
「今年は何年ですか?」「今日は何月ですか?」など。
MMSE(5点)より項目が1つ少ない
誤りやすい季節判定は含まないため、採点が安定しやすい
③ 場所の見当識(2点)
「私たちが今いるところはどこですか?」
HDS-Rではここが MMSEと大きく違うポイント です。
病院名まで言う必要はない
「病院」「家」「施設」など、“どの種類の場所か理解できていればOK”
出なければ、ヒントを選択式で与えてもよい(例:「家ですか?病院ですか?施設ですか?」)
→ MMSEでは「病院名」「階数」まで求めるため、HDS-Rの方が実生活での“場所の理解”に近い評価。
④ 記銘(3点:固定された単語を使用)
HDS-Rは 必ず下記のどちらかの3語を使う と決まっています。
①「さくら」「ねこ」「でんしゃ」
②「うめ」「いぬ」「じどうしゃ」
これは、「植物」「動物」「乗り物」から連想される日本語の最上位語を選んだ科学的・妥当性のあるセットであり、恣意的な単語変更は禁止。
→ MMSEでは語の変更は自由なので、ここは決定的に異なる点です。
最大3回まで繰り返し可能
ただし 得点は最初に正解した語のみ
⑤ 計算(2点:MMSEとは方法が異なる)
「100から7を引いていってください」
最初の答えが間違ったら即打ち切り
2回だけ実施(MMSEは5回)
質問文は「100引く7は?」「そこから また7 を引くと?」と聞く(MMSEのように“93から7を引いてください”と言ってはいけない)
→ これは 作業記憶(ワーキングメモリ) を評価するための仕様で、 数字を保持しながら引き算を続ける能力をみています。
⑥ 数字逆唱(2点)
例:
「6-8-2」→「2-8-6」
「3-5-2-9」→「9-2-5-3」
1秒ずつ区切って提示
練習問題(例:「1-2を反対からいうと?」)を入れるのは可
3桁逆唱ができなければ打ち切り
→ MMSEには存在しない 作業記憶検査。
⑦ 再生(6点:MMSEと大きく違う重要項目)
④で覚えた3語を再生する課題。
自発想起:各2点(計6点)
言えなければヒントを“1つずつ段階的に”与える例:
「植物がありましたね」
それが終わってから「動物がありましたね」
最後に「乗り物がありましたね」
→ MMSEと違ってヒント使用が認められる点が大きな違い。
⑧ 5物品記銘(5点)
時計・鍵・鉛筆・歯ブラシ・スプーンなどを使う。
本人にとって馴染み深い物を使用(スマホ・注射器は避ける)
名前を言いながら置く(例:「これは時計ですね」)
→ 実際の生活の中での物品記憶に近い評価となる。
⑨ 流暢性(5点:語の流暢性を測る)
「知っている野菜の名前をできるだけ挙げてください」
約10秒間止まったら打ち切り
点数は以下の通り:
0点:5個以下
1点:6個
2点:7個
3点:8個
4点:9個
5点:10個以上
知識量ではなく“言葉をスラスラ出す力(語流暢性)”の評価
→ HDS-Rの中でもFTD(前頭側頭葉変性症)で低下しやすい項目です。
地域差・性差がないことが検証済み
■ HDS-Rの本質:MMSEとは全く異なる「日本に最適化された認知症スクリーニング」
HDS-Rは、
日本語の特性
日本文化(数え年・生活環境)
高齢者の生活実態を踏まえて作成された、世界でも珍しい「国産の認知機能検査」です。
MMSEよりも
記憶中心・作業記憶の比重が高い
日本の高齢者が理解しやすい設問構造
ヒント使用も柔軟で、誤診を防ぎやすい
という特徴があります。
MMSEとHDS-Rは、点数だけで比較したり、そのまま置き換えて使ったりすることはできません。それぞれの特性を理解し、目的に応じて使い分けることが重要です。




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