在宅医療における認知症について43~うつ病治療 — 「まず脳を休ませる」からはじめる
- 賢一 内田
- 10月8日
- 読了時間: 4分

身体疾患・薬剤・飲酒などを除外しても改善しない場合は、うつ病治療に進みます。高齢者(65歳以上)ではベンゾジアゼピン受容体作動薬に頼らず、**“脳の休息=質の高い自然な睡眠”**を最優先に整えることが基本です。
ポイント:脳の休息は「たくさん横になる」ことではありません。夜に深く眠るために、日中は体をしっかり動かすことがむしろ大切です。
65歳以上向け・睡眠衛生の具体的指導
運動
1日30分以上の歩行を週5日以上。午後〜夕方の軽い運動も◎。
食生活
朝食を必ず(概日リズムを整え、不眠の訴えが減少)。
アルコールは断酒:睡眠効率を確実に低下させ、夜間覚醒を増やします。
カフェイン
コーヒー・玉露・煎茶・紅茶・ウーロン茶・ほうじ茶・玄米茶などは夕方以降は避ける。
個人差が大きいので、反応が強い人は終日カフェイン抜きも検討。
喫煙
喫煙者は入眠困難・浅睡眠が増えます。就床1時間前と中途覚醒時の喫煙はNG。
睡眠時間の目安
65歳の平均睡眠は約6時間。「8〜9時間」にこだわる必要なし。
日中の眠気がなければ足りていると説明。
入眠困難時の対応
30分以上眠れなければ一度ベッドを離れる(眠れない床上時間を減らす)。
寝室環境
騒音・まぶしい光は避ける(特にスマホのブルーライト)。
エアコン等で温湿度を快適に。
起床・就床のコツ
起床直後に日光を浴びる → 15〜16時間後に自然な眠気。
起床時刻は毎日一定に、可能ならやや早起き。
「眠くなってから」床に入る(不必要に長い就床は中途覚醒を招く)。
既往歴の確認と説明
脳卒中・パーキンソン病・頭部外傷はいずれもうつの強い危険因子。
既往がある場合は気分低下の原因として納得感のある説明を行うと、不安の軽減につながります。
生活支援の具体策(在宅医療で効く)
断酒指導を繰り返し(どうしても止められない場合は保健所・精神保健福祉センターへ家族と相談)。
介護負担が強い:介護保険の申請やサービス調整を提案。
引きこもり・不活発:デイサービス/デイケア、通所リハの活用。
昼間やることがない:シルバー人材センターや**地域サークル(囲碁・将棋、百歳体操、カラオケ、合唱、公民館講座、ボランティア)**などを紹介。
薬物療法の考え方(高齢者版)
自然寛解率:うつ病は2年で80〜90%が自然寛解とされます。
抗うつ薬:使っても使わなくてもよい(症状・生活障害の程度で判断)。
避ける薬:パロキセチンや三環系抗うつ薬は抗コリン作用が強く高齢者には不利。
重症例の対応:食事摂取ができない/自殺念慮・企図がある場合は入院施設のある精神科へ速やかに紹介。
認知症併存が疑わしいとき:
認知症は自然寛解しにくい。経過で認知機能が徐々に悪化するなら認知症として対応。
アルツハイマー病/レビー小体型では抗認知症薬を検討(血管性・前頭側頭葉変性症には適応なしに注意)。
認知症+抗うつ薬:有効性の明確な根拠は乏しいため併用は原則控える。
例外:不眠に対するトラゾドンはRCTで有効性が示されており、睡眠目的での使用は選択肢。
処方の原則 まず睡眠衛生と生活再構築(断酒・運動・日光・社会参加)。 抗コリン負荷の強い薬は避ける。 安全性を最優先し、小さく始めて丁寧に経過観察。
受診目安・専門紹介のタイミング
自殺念慮/自殺企図がある、栄養摂取不能、急速なADL低下 → 入院可能な精神科へ至急。
転倒後からの性格変化・物忘れ・頭痛・傾眠 → 頭部CT/MRI(慢性硬膜下血腫を除外)。
薬剤(ベンゾ系、スボレキサント、ステロイド、IFN、抗認知症薬)の関与が疑わしい → 減量・中止を計画(処方医と連携)。
まとめ
高齢者のうつ治療は**「脳を休める=良い眠り」を中心に**。
日中活動を増やし、夜の睡眠を深くする指導が最優先。
薬は安全性を最優先し、抗コリン性負荷の高い薬は避ける。
重症サイン(自殺念慮・摂食不能)は速やかに専門へ。
経過で認知機能が悪化するなら認知症として再評価。
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