在宅医療における認知症について42~65歳以上で「うつ状態」が疑われたら
- 賢一 内田
- 10月7日
- 読了時間: 4分

〜安易な薬処方の前に確認すべきポイント〜
高齢者が「気分が沈む」「意欲が出ない」「眠れない」などのうつ状態を訴えたとき、すぐに「うつ病」や「認知症」と決めつけるのは危険です。その背後には、身体疾患や薬剤の影響など、見逃してはいけない原因が潜んでいることがあります。
今回は、65歳以上の方にうつ症状が見られたときの基本的な診察の流れ(フローチャート)をもとに、臨床で大切なチェックポイントを整理します。
🧪 ① 血液検査で「甲状腺機能低下症」を除外
甲状腺機能が低下すると、次のような症状が現れます。
疲労感、寒がり、むくみ
便秘、体重増加
抑うつ気分、無気力
脈が遅い、息切れ
記憶力・集中力の低下
これらはうつ病や認知症と極めて紛らわしいため、必ず血液検査(TSH、Free T4など)を行いましょう。異常があれば内分泌科での治療で改善が期待できます。
🧠 ② 頭部画像検査で「慢性硬膜下血腫」を見逃さない
「最近なんとなく元気がない」「物忘れが増えた」「頭痛がある」そんな高齢者のうつ様症状の中には、慢性硬膜下血腫が隠れていることがあります。
頭部CTやMRIを撮ることで診断可能です。
特に転倒歴がある方では要注意。
放置すれば手遅れになることもあるため、画像検査を面倒がらないことが重要です。
「物忘れがあるから抗認知症薬」「意欲がないから抗うつ薬」という“安易な薬物療法”は、重大な疾患を見逃すリスクがあります。
💊 ③ 薬剤による「うつ状態」に注意
薬の副作用としてうつ症状が出ることがあります。以下の薬は特に要注意です。
▶ ステロイド・インターフェロン
これらは抑うつを引き起こすことがあります。ただし急な中止は危険なため、必ず処方医と相談して減量・中止を検討します。
▶ ベンゾジアゼピン受容体作動薬
(例:デパス、レンドルミン、マイスリーなど)
長期服用で依存や離脱症状(不安・焦燥・うつ・不眠など)が出ることがあります。離脱によるうつを「病気」と誤診して抗うつ薬を追加してしまう“処方カスケード”は避けるべきです。お薬手帳を確認し、漸減中止を検討します。
▶ スボレキサント(ベルソムラなど)
オレキシン受容体拮抗薬による睡眠薬です。海外試験では自殺関連有害事象がプラセボの約3〜4倍と報告されており、うつ状態や自殺念慮が出る場合があります。服用中の方は医師の説明のもと中止を検討します。
▶ 抗認知症薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)
これらの薬剤の添付文書には**「うつ」や「うつ病」**が副作用として明記されています。抑うつ症状が出た場合は、認知症合併が疑われても一旦中止すべきです。「認知機能が下がったら再開すればよい」というスタンスで構いません。(実際には認知機能改善効果は限定的です)
🍷 ④ 飲酒習慣の確認
アルコールは脳萎縮・認知機能低下・うつ病のいずれにも関与します。高齢者では代謝が遅く、少量でも血中濃度が上がりやすくなります。
禁酒により脳体積や気分が改善した報告もあり、診断的治療としてまず断酒を行うのが原則です。
厚生労働省のガイドラインにも明記されています:
「どの精神疾患であっても、治療が軌道に乗るまでは飲酒を控えることが重要です。」
もし断酒指導を行わない医師がいれば、呼吸器疾患患者に禁煙を促さないようなもの。専門的支援が得られる医療機関に相談するのが望ましいでしょう。
🩺 まとめ 〜高齢者の「うつ」を診たらまず除外を〜
65歳以上でうつ状態がみられたら、まず 身体疾患・薬剤・生活習慣 のいずれかに原因がないかを確認しましょう。
チェック項目 | 目的 |
血液検査 | 甲状腺機能低下症の除外 |
頭部画像 | 慢性硬膜下血腫など脳外疾患の除外 |
薬歴確認 | ステロイド・ベンゾ系・スボレキサント・抗認知症薬 |
飲酒聴取 | アルコール関連うつ・脳萎縮の確認 |
安易な「抗うつ薬」や「抗認知症薬」の追加処方は、原因を見逃し、患者さんに不利益を与える可能性があります。
まず原因検索、そして断酒・減薬・基礎疾患治療を優先することが原則です。
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内田賢一 - YouTubeチャンネル在宅医療・認知症ケア・呼吸器疾患などをやさしく解説しています。




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