在宅医療における認知症について⑤~認知症じゃないかも?「うつ病」や「てんかん」との見分け方
- 賢一 内田
- 12 分前
- 読了時間: 3分

「物忘れが増えた」「昨日のことを思い出せない」――こうした訴えがあると、まず「認知症では?」と疑われがちですが、うつ病やてんかんなど、認知症以外の疾患が背景にあるケースもあります。今回は特に高齢者で見落とされやすい2つの病態についてご紹介します。
うつ病でも「記憶障害」は起こる
うつ病は、悲しみや気分の落ち込みが続き、生活に支障をきたす病気です。しかしそれだけではありません。思考力や集中力の低下が起こり、「最近もの忘れが多い」と感じる人も少なくありません。
このような記憶障害様の訴えは、実際の認知症とは異なるもので、「うつ病性仮性認知症」とも呼ばれます。うつ病では記憶の自覚がはっきりしており、「最近本当にダメで」と自ら積極的に訴える姿勢があるのが特徴です(詳細は表4参照)。
高齢者でも起こる「てんかん」発作
てんかんというと若年者の病気というイメージがありますが、実は65歳以上でも発症することが知られています。特に脳血管障害などをきっかけに発症するケースや、原因が特定できないものも多く、75歳以上では発症率が最も高い年代とされています。
高齢者のてんかんでは、**けいれんを伴わない発作(非けいれん性てんかん発作)**も多く、認知症と間違われやすい症状を呈します。
認知症と間違われやすい「てんかん発作」の特徴
てんかん発作には次のようなパターンがあり、突然に始まり、短時間で回復するという特徴があります(表5参照)。
表5:認知症と誤認される可能性があるてんかん発作の例
発作のタイプ | 症状の例 |
自動症 | 意識がぼんやりし、舌を動かす、口をもぐもぐする、戸を開け閉めするなどの動作を繰り返す |
動作停止 | 食事中に箸を持ったまま固まるなど、行動が突然止まる |
認知障害 | よく知っている道が突然「知らない場所」に感じられる(既視感・未視感) |
感情の変化 | 急に不安になるなどの情緒的な変化 |
感覚の変化 | 急な腹痛、めまい、悪心、冷感などを感じる |
てんかん発作は「1日中続かない」のが重要なポイント
認知症では症状が日常的かつ持続的にみられるのに対し、てんかんでは短時間の発作で突然始まり、突然終わるのが特徴です。そのため、本人が発作のことを覚えていない一方で、同居家族の観察が重要な手がかりとなります。
検査はどうする?
てんかんの診断には脳波検査が有用ですが、**1回の検査で異常が出ないことも多い(感度50%)**とされており、異常がなかったからといって除外はできません。繰り返し検査や動画観察が必要な場合もあります。
抗認知症薬に要注意!副作用としての「てんかん」
さらに注意したいのが、抗認知症薬によっててんかん発作を誘発することがあるという点です。例えば、ドネペジル(アリセプト)では「重大な副作用」としててんかんが記載されています。
認知症と誤って診断し、抗認知症薬を処方したことで逆に発作が誘発されることもあり得るため、診断には慎重さが必要です。
まとめ
高齢者の「物忘れ」や「記憶の欠落」がすべて認知症とは限りません。うつ病やてんかんでも同様の症状がみられるため、以下のようなポイントに注目しましょう:
うつ病 → 自覚あり、自然に回復することも
てんかん → 発作は短時間、突然始まり突然終わる
認知症 → 症状が持続的に進行
症状の出方や周囲からの観察も含め、慎重な見極めと専門医の判断がとても重要です。📺 もっと知りたい方はこちら在宅医療・認知症ケア・呼吸器疾患の解説をYouTubeで配信中!▶ 内田賢一 - YouTubeチャンネル
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