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不穏へのアプローチ④ ― 薬物治療の実際と薬剤選択のポイント

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 7月29日
  • 読了時間: 3分

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「不穏」とは、せん妄や認知症に伴う幻覚・妄想、興奮、暴言・暴力、不眠などの状態を指し、患者さん本人にも周囲にも大きな負担となります。非薬物的アプローチで対応しきれない場合、薬物療法が重要な選択肢となります。

今回は、不穏に対して用いられる代表的な薬剤とその選び方について、実臨床に即して紹介します。

薬剤選択の3つの視点

薬物選択時のポイントは以下の3つです:

  1. 不穏の程度(軽度〜重度、急性か持続的か)

  2. 投与経路(経口、注射、貼付剤など)

  3. 患者さんの背景・既往症(認知症の型、糖尿病の有無、嚥下状態など)

代表的な薬剤と特徴

1. ハロペリドール(セレネース®/リントン®)

  • 特徴:第一世代抗精神病薬。筋注・静注可能。

  • 使用場面:興奮が激しく経口困難な場合の第一選択。

  • 注意点:鎮静作用は弱く、せん妄が悪化することも。<br>特にパーキンソン病やレビー小体型認知症には禁忌。

▶「不穏=ハロペリドール」とされる場面も多いですが、必要最小限の使用と経口薬への早期切り替えが鉄則です。

2. オランザピン筋注(ジプレキサ筋注用®)

  • 特徴:第二世代抗精神病薬で唯一の筋注製剤。鎮静作用強め。

  • 注意点:糖尿病患者には禁忌(経口製剤)。<br>ベンゾジアゼピン系薬剤との併用は基本的に避ける。

  • 薬価:高価(ハロペリドールの20倍以上)。

▶急性不穏時に即効性を期待するなら選択肢。ただし慎重な適応判断が必要です。

3. ロナセンテープ®

  • 特徴:経口困難時に使える貼付剤(ブロナンセリン)。

  • メリット:副作用が出た場合はすぐに剥がせる。

  • デメリット:皮膚刺激やかぶれの可能性。鎮静作用は弱め。

▶嚥下困難な高齢者でも使いやすい選択肢として注目されています。

4. リスペリドン液剤/5. オランザピン口腔内崩壊錠

  • 特徴:どちらも水不要で服用可能な経口薬。

  • 使い分け

    • リスペリドン:幻覚妄想への効果あり、鎮静作用は控えめ。

    • オランザピン:鎮静効果が強いが糖尿病には禁忌。

▶注射は不要だが、経口内服に苦労するケースで非常に便利です。

6. クエチアピン(セロクエル®)/7. ペロスピロン(ルーラン®)

  • 対象:パーキンソン病やレビー小体型認知症の患者に第一選択。

  • 特徴

    • クエチアピン:鎮静作用強め。糖尿病患者には禁忌。

    • ペロスピロン:クエチアピンが使えない糖尿病患者向け。

  • 注意点:どちらも経口薬。内服困難時は選択肢が狭まる。

▶パーキンソン病やLBDでは安全性を最優先に、これらが主力となります。

抗精神病薬使用時の注意点

  • 多くの薬剤は統合失調症や双極性障害に対して承認されており、せん妄やBPSD(認知症に伴う行動・心理症状)には保険適応外である点に留意が必要です。

  • 短期間・最小限の使用を基本とし、可能であれば早期に中止・減薬を目指します。

  • 非薬物的アプローチとの併用が前提です。

まとめ

不穏に対する薬物療法は、緊急対応や療養環境調整の“つなぎ”として非常に有効ですが、薬に頼りすぎない姿勢が大切です。患者さん一人ひとりの状態に合わせた薬剤選択と、こまめな評価・調整が求められます。

次回は、不穏への介入とその評価について、より実践的なポイントをご紹介する予定です。

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