認知症は治せるか~認知症治療の羅針盤12 軽度行動障害(MBI)の典型例から学ぶ症候・診断
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軽度行動障害(MBI)の典型例から学ぶ症候・診断
軽度行動障害(mild behavioral impairment: MBI)は、認知症発症以前の正常認知機能や主観的認知障害(SCD)、あるいはMCIの人々に認める神経精神症状(NPS)を指す概念である。MCIと相補的な関係にあり、認知症への進展リスクを示唆する。2016年にISTAARTが診断基準を提唱した。

70歳代半ばの女性。初診2年前、親族の不幸をきっかけに不安感が高じ、かかりつけ医でうつ病の診断のもとミルタザピン(15mg 0.5錠)を内服。約1年前に家族がもの忘れに気づきHDS-R 27/30点で頭部MRIにも病的所見なく経過観察となっていた。家族が不安ともの忘れについて精査を希望し当科受診。
初診時現症
振り返り徴候を何度か認め、本人は「もの忘れは大したことはない」という一方で家族によれば少し前の出来事を何度も尋ねると言う。料理・買い物の頻度が減り、入浴したがらなくなっていた。MMSE 22点(時間の見当識−4、計算−1、遅延再生−3)。GDS 2点。不安症状が中心で典型的な抑うつ気分・意欲低下は認めず。幻覚・妄想・性格変化なし。不安を主とした軽度行動障害(MBI)を念頭に置いた。



50歳代後半の男性(大卒)。精神科既往歴なし。元来有能な会社員で海外赴任を経験。次第にコミュニケーションが一方的になり問題視され帰国。帰国後も「初対面の人に自慢話をする」「上司の承諾が必要な文書を独断で決済する」「無断で帰宅する」「自分が司会のミーティングで何も話さずに終了する」「一方的な内容のメールを送る」などの行動が続いた。自らの行為についての内省は乏しかった。
初診時現症・検査
整容よく礼節保持、疎通良好。しかし認知機能検査中にフライングでの応答、待つべき場面で「はい、もう大丈夫」と自ら切り上げるなどの行動がしばしば見られた。MMSE 29点(計算−1)、WMS-R全群指数は平均レベル。FABは「運動系列」「葛藤指示」「Go/No-Go」においてほとんどが誤答であり、前頭葉機能低下が疑われた。


基準1 — 行動・人格の変化
人生後期(50歳以上)から始まる行動や人格の変化が少なくとも6ヵ月以上断続的に持続し、患者・情報提供者・臨床医により観察される。以下のうち少なくとも1つ以上の証拠により示される:a. モチベーションの低下(例:アパシー、自発性の欠如、無関心)b. 感情調節の障害(例:不安、不快感、不安定、多幸感、イライラ)c. 衝動制御の障害(例:興奮、脱抑制、賭博、強迫性、刺激への過敏)d. 社会的な不適切さ(例:共感性のなさ、内省の欠如、頑固さ)e. 知覚や思考内容の異常(例:妄想、幻覚)
基準2 — 機能への影響
対人関係・社会機能・職場での機能・日常生活の少なくとも1つに最小限以上の障害がある(ただし最小限の援助があれば概ね日常生活の自立は維持できる)。
基準3・4 — 除外
行動・人格の変化は他の現存する精神障害(全般性不安障害・大うつ病・躁病・精神病)、外傷・全般的な医学的要因・物質や薬物による生理学的効果に起因するものでない。かつ患者は認知症症候群の診断基準を満たさない。MBIとMCIの関係
中高年以降で発症する精神症状は、純粋な精神疾患のこともあれば、認知症の前駆症状のこともある。MCIの51%、認知機能正常者の27%に1つ以上のNPSを認めたとの研究がある。NPSはMCIから認知症やAlzheimer型認知症への進展リスクとする報告や、認知機能が正常なレベルから前頭側頭型認知症やLewy小体型認知症への進展リスクとする報告がある。MBIとMCIは対立した概念ではなく相補的な関係にある。
本2症例のまとめと臨床的意義
CASE 1はAlzheimer病のMCI段階で不安症状をベースとして確認行動などを認めた。CASE 2では脱抑制や現実検討能力の低下・共感性の欠如・社会的に不適切な行動が主症状であり、行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)の初期症状としての行動障害が目立った。CASE 1では、不安症状からかかりつけ医にてうつ病との診断を受け抗うつ薬を内服していた。高齢発症のうつ病は非典型的な例も少なくないため、本例で不安症状が主体でうつ病として治療することはあり得る。一方でMBIの可能性もあるため慎重に経過観察し、適時のメモリークリニックなど専門家への依頼が望まれる。
BPSDとの相違点
BPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)は「知覚、思考内容、気分や行動の障害といった、認知症患者にしばしば出現する症状」(国際老年精神医学会)と定義されており、認知症の人を対象としている。一方、MBIは認知症発症前の状態を対象とすることが主な違いである。現在、認知症疾患は前臨床期からMCI、認知症へと続く連続体と捉える方向になりつつあることからすれば、MBIとBPSDは本質的には同じもので、単に症状が発現する時期の違いであるとも考えられる。TIPS — 臨床のポイント
✦MBIは、認知症発症以前に呈する精神・行動上の症状を指す。
✦MBIとMCIとは対立した関係ではなく、相補的な関係である。
✦MBIの存在は、軽度認知障害や認知症への進展リスクを示唆し、臨床上重要である。アパシー・不安・焦燥は特にハザード比が高い。
✦MBIとうつ病など精神疾患との鑑別は容易ではなく、精神科へのコンサルテーションを要する。強くうつ病が疑われた場合もしっかりと精神科での評価・治療を行う。#軽度行動障害(MBI)#NPS(神経精神症状)#不安症状#脱抑制#アパシー#MCI前駆症状#bvFTD#認知症予防#BPSD#うつ病鑑別#FAB#前頭側頭型認知症




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