神経障害性疼痛疼痛を科学する12~
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麻酔薬は、これまで麻酔目的に加えて神経障害性疼痛の治療薬としても広く用いられてきた。リドカインはNaチャネル遮断作用による神経細胞の異所性放電抑制を、ケタミンはNMDA受容体へのグルタミン酸結合の強力な抑制を、バルビツレートはGABAA受容体結合によるCIイオン依存性シナプス後抑制系の増強を介して神経障害性疼痛を軽減することが報告されている。本項では、これら麻酔薬の神経障害性疼痛における治療薬としての有用性を解説する。
リドカイン(静脈内投与)
Systemic IV Lidocaine — Naチャネル遮断薬
概要・歴史的背景
1950年代から局所麻酔薬リドカインの全身投与ががん疼痛・術後疼痛軽減として報告。その後、RCTの形態で神経障害性疼痛への有用性が確認された。9つのRCTのうち5つで末梢性神経障害性疼痛における有効性が明らかにされている。
作用機序:NaチャネルとNaイオン流入の抑制
Naチャネルは末梢神経損傷によって生じた神経腫に発現し、異所性放電を引き起こす。テトロドトキシン抵抗性の膜電位依存性Naチャネルが関与。リドカインの全身投与・Naチャネル遮断薬はこの放電を鎮静化する。
Naイオンの細胞内への流入を減少・阻止し、脱分極を防ぎ活動電位の発生・伝達を抑制。ただし鎮痛効果を発揮するリドカイン濃度では、正常な末梢神経の軸索伝導には影響せず、知覚・運動障害は生じない。
有効性が示されている疾患または病態
用法・用量 / 副作用 / 使用上の留意点著者(報告年月) | デザイン | 対象疾患 | 投与量 |
Wallace et al. (2000) | CDB n=16 | CRPS Type I & II | IV Target 3 mg/mL |
Galer et al. (1996) | CDB n=23 | Chronic neuropathic pain | IV 2 mg/kg / 45 min |
Wallace et al. (1996) | CDB n=11 | Peripheral nerve damage | IV Target >1.5 mg/L |
Kastrup et al. (1987) | CDB n=15 | Diabetic neuropathy | IV 5 mg/kg / 30 min |
Rowbotham et al. (1991) | CDB n=19 | Postherpetic neuralgia | IV Target 5 mg/kg |

lidocaine patch(5%)
局所貼付型 — 帯状疱疹後神経痛の第一選択薬
概要
貼付時の血中リドカイン濃度の上昇が軽微で、局所に投与されたリドカインが皮膚の浅層内の損傷・機能異常となった末梢神経からの異所性活動を直接抑制すると考えられる。二重盲検法で有効性が確認されている。
罹患期間が長い帯状疱疹後神経痛においても有効例が多く認められ、内服薬に比べ副作用が少ない点が特徴。NNT = 4.4。
用法・用量 / 副作用

帯状疱疹後神経痛において効果・全身副作用の少なさ・使いやすさから第一選択薬(グレードA)に位置付けられている。メキシレチン(経口)
Mexiletine — 経口Naチャネル遮断薬
概要
1980年代からリドカインと薬理作用が類似することから神経障害性疼痛への有用性が検討された。9つのRCTのうち4つで末梢性神経障害性疼痛における有効性が明らかにされている。糖尿病性神経障害・末梢性神経障害性疼痛に有用。
有効性が示されている疾患
著者 | デザイン | 対象疾患 | 投与量 |
Chabal et al. (1992) | CDB n=11 | Peripheral nerve damage | 750 mg/日 |
Wallace et al. (1996) | CDB n=20 | Neuropathic pain | 900 mg/日 |
Dejgard et al. (1988) | CDB n=16 | Diabetic neuropathy | 750 mg/日 |
Oskarsson et al. (1997) | DB n=31〜33 | Diabetic neuropathy | 675 mg/日 |
用法・用量 / 副作用

Ketamine — NMDA受容体遮断薬(麻薬指定:2007年〜)
概要
麻酔薬として開発。強い鎮痛補助薬として、NMDA受容体へのグルタミン酸結合を強く抑制する。麻酔作用を発揮する濃度よりも少ない用量で、正常な神経機能には影響を与えずに神経障害性の痛みを軽減。2007年1月より麻薬に指定。
中枢性感作(Central Sensitization)のメカニズム
末梢からの痛み刺激が繰り返しかつ長く続くことで、脊髄後角の神経細胞の異常興奮が生じ、その後は痛み刺激でない刺激に対しても痛み刺激が伝達されたときと同様な反応をきたす現象が「中枢性感作(central sensitization)」。この現象にはグルタミン酸がNMDA受容体に結合することが関与している。
ケタミンはグルタミン酸のNMDA受容体への結合を拮抗させ、Caイオンの細胞内への流入を阻止することでcentral sensitizationを改善する。
有効疾患と投与法

頭痛、めまい、血圧上昇、酩酊感、悪心、嘔吐、幻覚、錯乱、唾液分泌過多など。通常は自然改善。再度投与するかは鎮痛効果と副作用の総合的判断が必要。高血圧・狭心症・心筋梗塞・不整脈の既往のないことを確認し、副作用について説明・同意を得ること。
鎮痛薬としての位置付け
エビデンスのレベルが低く、対象患者数が少ないことから第三選択薬の位置付け(グレードA)。長期的な鎮痛効果の報告は少なく、短期的な鎮痛効果のみ。NNTは示されていない。
バルビツレート(ペントバルビタール)
Barbiturate — GABAA受容体作動薬 / 疼痛機序推定補助薬
概要と歴史的背景
心因性疼痛の補助診断薬として紹介され、器質性と心因性の疼痛機序の判別に有用と報告された。バルビツレートインタビュー(静注後に問診・行動変化を観察する方法)は難治性疼痛の疼痛機序推定・治療方向性の決定に判定が早く安全・簡便・安価な方法として紹介された。
心因性疼痛と神経障害性疼痛の鑑別法の一つとして、バルビツレートにより両者の自発痛は軽減されるものの、神経障害性疼痛の深部痛(圧痛)は軽減されないことが指摘されている。
薬理作用
主たる作用機序はGABAA受容体に結合し、CIイオン依存性のシナプス後抑制系を増強すると考えられている。加えて、カイニン酸やNMDAを介した細胞内Ca濃度の上昇を遮断する作用、Caチャネルの抑制作用、脊髄後角における神経伝達物質の放出抑制作用なども報告されている。
臨床報告
サイアミラールテストの陽性率は45%(100例の難治性疼痛患者)。チオペンタールを静注した17例の脊髄損傷患者では50%疼痛の軽減が全体の81%に(Tasker)。脳卒中後難治性疼痛39例ではバルビツレートテストで56.4%が疼痛軽減(Yamamoto)。
用法・用量 / 副作用

臨床研究の数が少なくエビデンスも少ない。このため神経障害性疼痛の第一・二・三選択薬には入っていない。しかし副作用が少ない点から早期に投与し、効果の有無を評価してみてもよい薬剤と考えられる。


神経障害性疼痛の治療薬として、リドカイン、メキシレチン、ケタミン、バルビツレートそれぞれの特徴と使用法の実際について述べた。神経障害性疼痛に対する第一および第二選択薬に抵抗性を示す場合は、これらの麻酔薬を副作用に留意しながら積極的に使用すべきであると結論する。




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