在宅医療における認知症について54~トラゾドン ― 認知症の不眠に対して「唯一の科学的根拠がある薬」
- 賢一 内田
- 11月2日
- 読了時間: 4分

〜ベンゾ系は使ってはいけない、トラゾドンが第一選択〜
同居家族を睡眠不足に追い込むほど厄介なのが、**認知症の人の夜間不眠(睡眠障害)**です。夜中に何度も起きて歩き回る、叫ぶ、昼夜逆転する——こうしたBPSDは、介護者の消耗を大きくし、施設入所や入院を余儀なくされる大きな要因になります。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は使ってはいけない
従来、睡眠障害に対して多く使われてきたのがベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZD系)。しかし、最新の系統的レビューでは、BZD系の睡眠薬に関して認知症患者を対象としたプラセボ対照二重盲検試験が1件も存在しないことが報告されています。
しかも、BZD系薬剤には以下の副作用リスクが科学的に確立しています:
認知機能の低下
せん妄の誘発
転倒・骨折のリスク増加
したがって、認知症の人の睡眠障害にBZD系を使うべきではありません。
トラゾドンだけがプラセボを上回った
同レビューによると、これまで臨床試験が行われたのはメラトニン、ラメルテオン、トラゾドンの3剤のみ。
メラトニン → 無効
ラメルテオン → 無効
トラゾドン → 有効かつ安全性良好
つまり、現時点で認知症の睡眠障害に科学的根拠をもって推奨できるのはトラゾドンだけということになります。
エビデンスの基盤となった試験は小規模(被験者30名)ではあるものの、他に根拠のある薬が存在しないのが現実です。このため、認知症の夜間不眠に対する第一選択薬はトラゾドンと考えられます。
トラゾドンの使い方(臨床のコツ)
トラゾドンはもともと抗うつ薬(セロトニン拮抗再取り込み阻害薬:SARI)ですが、少量で鎮静作用・睡眠改善効果が得られます。
推奨用量:
開始:25mg/日(就寝前)
効果不十分な場合:50mg/日まで漸増
体格や耐性に応じて最大75mg/日まで考慮可
試験では50mg/日で有効性が確認されています。ただし適応外使用になるため、家族には「もともとは抗うつ薬だが、少量で睡眠に効く」と説明しておくのが望ましいです。
副作用と注意点
まれに以下の副作用がみられます:
持続勃起(持続性勃起症)
過鎮静・ふらつき
躁転(ハイテンション化)
かえって不眠が悪化する
投与後に調子が悪くなった場合は、すぐ中止するよう家族に伝えておくことが重要です。
他の睡眠薬との比較
薬剤 | 有効性 | 科学的根拠 | 主な問題点 |
メラトニン | 無効 | RCTあり | 効果なし |
ラメルテオン | 無効 | RCTあり | 効果なし |
スボレキサント | 不明 | 認知症対象のRCTなし | データ不足 |
トラゾドン | 有効 | RCTあり | 適応外使用だが安全性高い |
BZD系 | 使用禁忌 | RCTなし | 認知機能低下・転倒・せん妄 |
スボレキサントなどの新薬は、認知症患者を対象とした臨床試験が存在しないため積極的使用は勧められません。
BPSD全般への効果は限定的
トラゾドンは睡眠には有効ですが、BPSD全般に効く万能薬ではありません。BPSD(興奮・幻覚・妄想など)に対するプラセボ対照試験のレビューでは、有意な効果差なしと結論づけられています。
したがって、トラゾドンは**「眠れない認知症患者」に限って慎重に使う薬**と位置づけられます。
まとめ
認知症の睡眠障害にベンゾ系睡眠薬は禁忌
トラゾドンは唯一、RCTで有効性と安全性が示された薬
用量は25〜50mg/日が目安
副作用を説明し、無効なら速やかに中止
BPSD全般への効果は限定的
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