在宅医療における認知症について39~抗認知症薬はBPSDに効くのか? ― 科学的根拠を検証する
- 賢一 内田
- 30 分前
- 読了時間: 3分

認知症の行動・心理症状(BPSD)は、物忘れなどの中核症状がきっかけで生じることが多いため、「認知機能を改善する抗認知症薬を使えば、間接的にBPSDも改善できるのでは?」という考え方があります。
日本の「BPSDガイドライン(第2版)」でも、抗認知症薬をBPSDへの第一選択薬として挙げています。しかし、本当に科学的根拠があるのでしょうか?
海外ガイドラインとの違い
日本:「まず抗認知症薬を検討」と記載(BPSDガイドライン第2版)
英国(NICEガイドライン 2018):抗精神病薬の一部を限定的に認める一方、抗認知症薬は選択肢としてすら挙げられていない
もし確かな根拠があるなら、各国のガイドラインも同様になっているはずです。
臨床試験とレビューの結果
精神症状をもつアルツハイマー病患者を対象にした研究をまとめると:
コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル・リバスチグミンなど)→ ごく軽度の改善効果を示す報告もあるが、無効とする研究も多い
メマンチン→ 系統的レビューでも「BPSDへの効果は期待できない」と結論づけられている
また、コリンエステラーゼ阻害薬では 有害事象による中断率が有意に高い(相対リスク1.64) ことも報告されています。
ガイドラインに抗認知症薬が載った理由
BPSDガイドラインで抗認知症薬が第一選択薬とされた理由は大きく2つ:
系統的レビューで「小さな効果」が示された
第1版からの踏襲
つまり、強固な科学的根拠があるわけではなく、過去の流れをそのまま引き継いだ側面が大きいのです。
個別の臨床試験の結果(例)
文献 | 対象 | 薬剤 | 結果 |
J Am Geriatr Soc. 2001 | BPSDありアルツハイマー病 | ドネペジル | 無効 |
Neurology. 2004 | BPSDありアルツハイマー病 | ドネペジル | 有効 |
N Engl J Med. 2007 | 強い焦燥性興奮あり | ドネペジル | 無効 |
BMJ. 2005 | 強い焦燥性興奮あり | リバスチグミン | 無効 |
PLoS ONE. 2012 | 強い焦燥性興奮あり | メマンチン | 無効 |
このように、研究ごとに結果はバラバラで、「確実に効く」とは言えないのが現状です。
まとめ
抗認知症薬がBPSDに有効かどうかは、科学的にまだ不確実
軽度の改善を示す研究もあるが、無効とする研究も多い
有害事象による中断リスクは無視できない
海外ガイドラインでは抗認知症薬は選択肢にすら入っていない
「まず抗認知症薬を」とする日本のガイドラインは、根拠が十分とは言えない というのが現状です。
BPSDへの対応は、薬よりもまず 原因の除外・環境調整・非薬物療法 を優先し、薬物治療は慎重に検討する必要があります。
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