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認知症について家族へ向けて6~認知症と「錯覚」の世界

  • 2 分前
  • 読了時間: 6分


日常がトリックアート化していく——認知症と「錯覚」の世界

玄関マットが落とし穴に見える。電車とホームの隙間が深い谷に見える。認知症による「知覚・認識」の困りごとを、わかりやすく解説します。


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駅や商業施設の中を歩いていると、たまに「地面がデコボコしているのかな?」と思うような、幾何学模様のタイルが張られた床に出会うことがありませんか?

👁 「錯覚」——目に異常がないのに、見え方がおかしくなる

このように、目や耳に異常がないにもかかわらず、実際とは異なる見え方・聞こえ方をしてしまう現象のことを「錯覚」と呼びます。たとえば、山道で車を運転していると、車体が自分の思わぬ方向に寄ってしまい、慌てることってありますよね。左カーブでは左側車線が広く、右カーブでは右側車線が広く見える、という錯覚によるものです。

そう——目の前に存在している世界と、人が知覚する世界はそもそも同じではないのです。

認知症の方にとっては、この「錯覚」が日常のあちこちで起き続けます。


脳が視覚情報を正しく処理・判断できなくなることで、安全なはずの場所が危険に見えたり、見慣れた空間で迷子になったりします。

🚃 電車とホームのわずかな隙間が、深い谷のように見えた理由

当事者の体験

「電車に乗っていたときのことです。目的地に着いたので降りようとしたら、電車とホームの間がものすごく広く感じ、まるで深い深い谷底まで続いているかのような、大きな隙間があったのです。それなのに周りの人はみな、そこに隙間なんてないかのように、すいすい降りていきます。わたしは怖くて怖くて仕方なかったのですが、扉が閉まってしまいそうだったので、「えいっ!」と飛び降りました。もう、心臓はバクバクです。」

人は、目から入ってくる二次元の見え方から、モノの大きさや影の落ち方、モノの動きといった、距離や深さに関係する情報を読み取っています。そして、その情報をもとに、脳の中で三次元の世界をつくりあげ、それが何かを認知しています。

目で知覚


2次元情報

脳が変換


3次元へ

距離・深さ


を認識

「電車とホームの隙間が深い谷のように見えた」のは、目から入ってきた二次元情報を、脳が三次元情報に変換するところになんらかのトラブルを抱えているためと考えられます。目の前にある実際の距離や深さを正しく認識することが困難になっているため、とてつもなく大きな隙間に見えてしまっているのでしょう。

🚪 玄関マットが落とし穴に見える理由

人は、何か行動するときに、次のようなプロセスを踏んでいます。

① 知覚


外界の情報

② 判断


記憶・経験

③ 行動

このプロセス①と②の片方、もしくは両方にトラブルが起こることで、日常生活にさまざまな困りごとが起きていると考えられます。「玄関マットだと言われてもどうしても穴に見える」というエピソードは、目からの情報を知覚する過程で、玄関マットが穴に見えるという、プロセス①の視覚情報の処理トラブルが起こっています。

多くの人は一瞬穴のように見えても、「玄関に穴があるはずがない」というように、これまでの知識・経験などをもとに判断できます。しかし認知症のある方は、頼りにすべきその知識・経験などの記憶が曖昧になっているために、どうしても穴に見えてしまうのだと考えられます。

当事者の体験

「商店街を歩いていると、歩くたびに歩道の地面がぐねぐねと動くのです。もう、いつつまずいてしまうのかと、ビクビクしながら歩きました。しかし、立ち止まってよくよく足元を見ると、ただ白と黒のタイルが交互に並んでいただけでした。」

「ホテルの部屋では、床も壁も扉も白で揃えられていました。わたしはどこまでが床で、どこに壁があるのかわからなくなって、何度も壁にぶつかりそうになりました。エントランスはピカピカの大理石でしたが、わたしには一面が水溜りのように感じられ、滑って転ばないかとヒヤヒヤしました。」

🔍 認知症で起こる「視覚・知覚」の困りごと

🟡 心身機能障害16|形や大きさを正しく認識できない

大きさの違いで硬貨を見分けることが難しい

1円玉と100円玉はどちらも色がシルバーなので大きさで見分けるのだが、すぐに大小が見分けられない。ものすごく注意して、よく見て確認したつもりでも間違えてしまう。

ちょっとした段差や隙間で、電車やバスに乗れない

ホームと車両の隙間やバスと地面の段差が怖くて踏み出せない。とても距離があると感じ、飛び降りるような覚悟がいる。

床の模様がデコボコして見える

床に複雑な模様があるとデコボコしていると感じ、転びそうになる。黒いマットは穴に見えてしまい、マットの上を歩くことが怖い。

🟡 心身機能障害17|細かい色の差異を識別できない


床と壁と扉の区別がつかない

廊下の床と壁が同じ色で、どこまでが床でどこからが壁なのかわからない。扉と壁も同じ色でどこが扉かわからず、ひたすら壁をノックしてしまった。

ドアがスムーズに開けられない

ドアとドアノブの色が似ていると、どこを持てばいいのかわからない。ドアノブの動かし方も、押す・引く・スライドするなどさまざまで、力のかけ方がわからず、開けられない。

色の違いで硬貨を見分けることが難しい

5円玉と50円玉はどちらも穴があるため色で見分けるのだが、違いの見極めが難しくよく間違える。ものすごく注意して、よく確認したつもりでも間違えてしまう。

便座の場所がわかりにくい

床も便器も白いと便器の立体感が感じられず、座る場所がわからない。手で触って確かめないと床に座ってしまいそうになる。便座も便器と同じ色だと、上下どちらにあるのかわからない。

🏠 ご家族ができる「住まいの工夫」

これらの困りごとは、住環境を少し工夫するだけで大きく改善できる場合があります。「なんでこんなことが怖いんだろう」と責めるのではなく、本人の見え方に寄り添った環境づくりが大切です。

🏠 すぐにできる住環境の工夫

  • 玄関マットは、床と色の差がはっきりしたものに替える(黒いマットは避ける)

  • トイレの便座は、便器と色が異なるカバーをつけて視認性を上げる

  • 廊下の床と壁の色を変える、または幅木(はばき)にコントラストをつける

  • ドアノブに目立つ色のテープを貼り、つかむ場所をわかりやすくする

  • 段差には蛍光テープや色付きテープで印をつける

  • 床の複雑なタイル柄はシンプルなラグで覆う

⚠ 転倒・転落に注意

電車のホームや階段での転倒リスクは特に高くなります。外出時はご家族や介助者が一緒に付き添い、特に段差がある場所では手を添えてサポートするようにしましょう。

🌸 さくら在宅クリニックのご紹介

さくら在宅クリニックは、神奈川県逗子市を中心に、住み慣れたご自宅での療養を支える訪問診療・在宅医療の専門クリニックです。認知症による視覚・知覚の困りごとにも、医師・看護師・リハビリ職などの多職種チームが連携してサポートします。

「最近、転ぶことが増えた」「段差を怖がるようになった」「家の中で迷子になることがある」——そんな変化を感じたら、お気軽にご相談ください。

📍 所在地

神奈川県逗子市

🏥 診療内容

訪問診療・在宅医療・認知症ケア

🩺 対応エリア

逗子市・葉山町・横須賀市 ほか

📞 お問い合わせ

お気軽にご相談ください

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