認知症について家族へ向けて4~「嘘をついている」のではなく「本当にそう信じている」
- 18 時間前
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「嘘をついている」のではなく「本当にそう信じている」―― 認知症の「徘徊」と「思い込み」を本人視点で理解する
「また徘徊した」「お金を盗まれたと言い張っている」介護する側が疲弊してしまうこれらの場面、実は本人には「至極まともな理由」があるのです。
認知症のある方が体験している「タイムスリップ」の世界と、それが引き起こす「徘徊」「思い込み」「家族とのすれ違い」を、本人の視点から読み解きます。
今まで、どちらかと言えば医療向けでブログ書いてきましたが、少しご家族からの要望もあり物語風にして
御家族向けに認知症についてできる限り分かり易く解説してまいります。
認知症世界の地図とはどんな場所か
現役刑事だった頃の記憶、子育て中の賑やかな日々……。
そして昔の記憶が、あたかも今、起きているかのように感じられ、夢中で当時と同じ行動をとってしまうのです。
「徘徊」ではなく、理由のある外出

本人の体験
今朝、目が覚めると「おっと遅刻遅刻。早く会社に行かなければ」と思い、10年前まで勤めていた会社に向かいました。すでに退職しているのに、です。バスに乗り遅れまいと急いで歩いているうちに、自分がどこに向かっていたのか、なぜ歩いているのかを忘れてしまいました。
「認知症の方が徘徊するので困っている」という話をよく聞きます。しかし、認知症のある方はあてもなく歩き回っているわけではありません。家の外に出るには、必ずなんらかの理由があります。
仕事に行く、だれかに会いに行く、買い物に行く、音楽を鑑張しに行く……。そしてその行動は、過去の思い出や習慣に基づいていることが大半です。10年以上前に退職していたとしても、本人の中では過去の記憶が今まさに呼び起こされているので、毎日出勤するのは当たり前のことなのです。
そう、本人にとっては真実を言っているだけ。ただ、明確な意図を持って歩き始めていても、途中で自分はなぜ外に出たのか、どこに向かっていたのかを忘れてしまうことがある。外出の理由を説明できず、周りの人から見ると、あてもなく歩いているように見えてしまうのです。

「徘徊」と呼ばれる行動の多くは、過去の記憶の中を生きているご本人にとって、いたって合理的な行動です。問題なのは「外出すること」ではなく、「道に迷って帰れなくなること」です。
タイムスリップしながら、商店街を歩く
昼の外出
近くに住む娘が毎日夕飯を届けてくれるのですが、今でもこの時間帯になると、娘と息子のために夕飯の準備をしなければと思い、毎日商店街に足が向かってしまいます。お肉屋さん、魚屋さん、八百屋さん……商店街の人たちはみんなわたしのことを知っていて、いつも喜んで迎えてくれる。それは、とても楽しく、気持ちの安らぐ大切なひとときなのです。

家族からは怒られるのですが、子育て中の思い出の中にいる本人は、気分も20代のように軽やかで、今よりずっと元気です。本人には本人の大事な用事や大切な思い出があって、そのために1人で出かけているのです。
「自分の家を他人の家だと思ってしまう」理由
夜の出来事
夜、時計が22時を回った頃、「そろそろ家に帰らないと」と思って支度を始め、「そろそろお暇しますね」とその家の主人に言いました。するとなぜか、いきなり怒り出し「何言ってるんだ、ここがあなたの家でしょう!」と腕を掴んできたのです。ここはわたしの家ではないし、何がなんだかわからず、怖くなってしまいました。その男は息子だったのですが、そのときのわたしには、そうは見えなかったのです。

「自分の家なのに帰ろうとする」という行動の背景には、複数の理由があります。
1
過去の自宅の記憶が現在の自宅にオーバーラップする
過去に住んでいた自宅の記憶が強く想起され、「自分の家ではないところにいる → 夜になったのだから自分の家に帰ろう」とシンプルに思ってしまいます。
2
空間や人の顔などを認識する機能に障害が起きている
その場所を自宅だと認識できなくなること、また家族の顔が見知らぬ人に見えてしまうことがあります。息子の顔が「鬼のような男」に見えたのも、この障害によるものです。
3
孤独感・家族との関係のストレスが「落ち着ける場所に帰りたい」という気持ちを誘発する
病気の進行への不安や孤独感が、「安心できる自宅に帰りたい」という行動につながることもあります。
「お金を盗まれた」と思ってしまう理由
自分の大切なモノが、あるはずの場所になかったら。だれかのことを疑ってしまうことは、認知症のあるなしにかかわらず、だれにでもあることではないでしょうか。
本人がお金を使ってしまって財布が空になっていたとしても、その買い物の記憶が保持されていなければ、当然「お金は財布の中にあるはずだ」と思ってしまいます。
財布のお金がない
→
最近使った記憶がない
→
だれかが盗んだ以外考えられない
本人の記憶の中では正しいことを言っているのです。そして、正しいと思っていることを「嘘をついている」「間違っている」と頭ごなしに非難されれば、感情的になってしまうのもわかりますよね。
また、つじつまの合わない出来事に直面したとき、自分が納得できる理由をつくりあげてしまうことも多いようです。これは決して嘘をついているわけでも、不条理に怒っているわけでもないのです。
障害の種類から整理する:困りごとの背景

心身機能障害 06完了済みの経験や事象を現在進行中のものだと思い違える
✓会話中、関係ない話に飛んでしまう(自分の中では関係あると思って話す)
✓退職した会社に今でも行っていると思い込み、毎朝出勤時間に家を出てしまう
心身機能障害 07見聞きした話・情報を否定的に解釈してしまう
✓家族が自分を置いて買い物に行くと、「仲間はずれにされた」と感じる
✓「プレゼントを探しに行った」という説明も、絶対に嘘だと思ってしまう

心身機能障害 08誤りや事実でないことを正しいこと・事実と思い込んでしまう
✓自分で出金したのに通帳の記録を見ても身に覚えがなく、盗まれたと思い込む
✓自宅にいるのに「ここは他人の家だ」と思い、家を出ようとする
✓家族や親友をまったく別人だと思い込む
✓勧められるがまま不要な高額商品を購入してしまう
心身機能障害 09うつ・不安状態・怒りっぽくなる
✓ちょっとしたことでイライラしたり、急に気分が落ち込んだりする
✓だれかが自分に危害を加えると思い込み、ひどい言葉を言ったり避けたりする
家族が疲弊しないために、在宅医療にできること

「本人の記憶の中では真実を言っているだけ」という理解が、家族と本人のすれ違いを大きく減らします。否定もせず、かといって全面的に迎合するわけでもなく、本人の感情に寄り添いながら安心できる環境をつくる。これが、認知症ケアの基本的なアプローチです。
さくら在宅クリニックでは、ご本人が「なぜその行動をとるのか」を理解したうえで、ご家族の疲弊を防ぎながら、ご本人が安心して生活できる環境を一緒に考えます。
外出が心配な場合も、「外出を禁じる」のではなく、地域の方々と連携して安全に外出できる仕組みをつくること、GPS端末の活用、見守りのネットワークづくりなど、さまざまな選択肢があります。
「問題行動」として捉えるのではなく、本人の世界を理解し、ともに生きる知恵を見つけることが、ご家族の関係を温かく保つ第一歩です。
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