看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する46~エコーで見るDVT⑤ ― 検査法と実践のポイント
- 賢一 内田
- 10月16日
- 読了時間: 4分

深部静脈血栓症(DVT)は、非侵襲的に診断できる代表的疾患のひとつです。その評価において、エコー(超音波)は最も有用かつ即時性の高い検査手段です。今回は、DVTの**エコー検査法(全下肢静脈法)**について解説します。
🔍 DVTのエコー検査法 ― 2つのアプローチ
DVT評価には、観察範囲の異なる2つの方法があります。
① 全下肢静脈法(Whole-leg venous ultrasound)
骨盤部の総腸骨静脈から下腿ひらめ静脈までを系統的に観察
急性期・慢性期ともに評価でき、再検不要
診療・在宅領域でも標準的な手技
② 2点圧迫法(2-point CUS:compression ultrasonography)
鼠径部(総大腿静脈)と膝窩部(膝窩静脈)の2か所を限定的に圧迫評価
時間が限られる救急現場向けの簡易法
初回陰性でも1週間後の再検が必須
💡 本稿では、より詳細な評価が可能な 全下肢静脈法 を中心に解説します。
🩻 観察対象と静脈の基本構造
下肢の静脈は**筋膜より浅い「表在静脈」**と、**筋膜より深い「深部静脈」**に大別されます。DVTの対象はこの「深部静脈」であり、総腸骨静脈 → 大腿静脈 → 膝窩静脈 → 下腿静脈の順に観察します。
⚠️ 膝窩静脈以下では、1本の動脈に対して2本の静脈が平行走行することに注意しましょう(伴走静脈)。
⚙️ 使用する装置・設定のポイント
① プローブの選択
観察部位 | 使用プローブ | 周波数帯 |
下肢(大腿〜下腿) | リニア型 | 5〜9 MHz |
骨盤〜下腹部 | コンベックス型 | 3〜5 MHz |
高周波ほど解像度は高いが、透過力は低下します。表在〜中層観察にはリニア型、高深度部位(骨盤内)にはコンベックス型を使い分けます。
② 撮像補助機能
カラードプラ機能:血流確認に有用。静脈血流は遅いため、流速レンジ10 cm/s以下に設定。
ティッシュハーモニックイメージング(THI):微弱な輝度差を描出しやすく、血栓の可視性を向上。
カラードプラがなくてもDVT診断は可能ですが、血流消失の確認には非常に有用です。
🧍♂️ 患者体位とセッティング
基本体位:仰臥位(背臥位)
下肢の位置:外旋・軽度屈曲位(大腿内側の観察を容易に)
膝窩部以下:可能であれば座位にして末梢静脈を拡張させると描出性が向上
💡 体位によって静脈径や血流状態が変化するため、再検時も同じ条件で実施することが大切です。
🩺 検査手順(全下肢静脈法)
ゲルを十分に塗布し、B-modeで静脈走行を追う。
短軸像で圧迫法を実施:
プローブを垂直に当て、静脈内腔が完全に潰れるかを確認。
潰れなければ血栓あり。
長軸像で血栓範囲・先端可動性を確認。
必要に応じてカラードプラで血流確認。
静脈血流が欠如していれば閉塞型を示唆。
骨盤部〜下腿まで連続走査。
🧠 エコー像で見る血栓の経時的変化
時期 | エコー輝度 | 内部性状 | 圧迫性 |
急性期 | 低エコー(黒っぽい) | 均一・柔らかい | わずかに潰れる〜潰れない |
亜急性期 | 中等度輝度 | 不均一化 | 弾性低下 |
慢性期 | 高エコー(白く) | 線維化・器質化 | 硬く圧迫不可、壁癒着あり |
⚠️ 慢性化した血栓では血流再開を伴う場合もあり、「再疎通性DVT」や「ポストサーボティックシンドローム」への移行にも注意します。
📈 検査時の注意とコツ
大腿部から膝窩部までは静脈走行を連続的に観察する。
下腿では伴走静脈を区別して確認。
血栓を認めた場合は、
部位(近位/遠位)
範囲
可動性(浮遊性)を必ず記録する。
💡 浮遊性血栓はPEのリスクが高いため、即時報告・治療連携が必要です。
🩶まとめ ― DVTエコー評価の臨床的意義
DVTは下肢の腫脹・疼痛・浮腫の原因として常に鑑別すべき疾患。
エコーにより、即時・非侵襲的に診断・評価・経過観察が可能。
全下肢静脈法を習得することで、在宅・外来・病棟いずれでも安全なスクリーニングが行える。
カラードプラやTHIなどの機能を活用すれば、より精度の高い診断が期待できます。




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