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看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する58~肺エコーの臨床的役割と観察ポイント― 換気確認から病態評価まで ―

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 6 日前
  • 読了時間: 3分


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🔹 肺エコーが活用される主な場面

肺エコー(Lung Ultrasound, LUS)は、使用目的によって評価対象が変わりますが、主に以下のような場面で用いられます。

  • 気管挿管後の換気確認

  • ショック時の病態評価(循環不全・うっ血)

  • 酸素化不良時の呼吸状態評価

換気確認を目的とした場合、胸膜の動き(Lung sliding)が最も重要な観察項目です。一方で、肺炎・肺水腫・気胸・胸水・無気肺などの病変も、超音波所見から推定可能です(図9)。特に肺底部の観察では胸水と無気肺の鑑別がしやすく、聴診で「呼吸音が減弱」と感じたときの判断材料になります。

🔹 挿管後の確認における肺エコーの優位性

気管挿管後、左右の気管支に正しくチューブが入っているかを聴診で確認するのは基本的な手技です。しかし、体格・環境・聴診条件により正確性にばらつきが出ることがあります。

近年では、肺エコーによるLung slidingの確認が聴診よりも高感度・高特異度であることが報告されています。特に**片肺挿管(unilateral intubation)**では、換気されていない側の肺は動かず、臓側胸膜の動き(Lung sliding)が消失します(図10)。したがって、Lung slidingが片側にのみ存在する場合は片肺換気を疑うことができます。

🔹 Lung sliding と Lung pulse の違い

ここで注意したいのは、胸膜の動き=必ずしも換気ではないという点です。肺に隣接する心臓の拍動が胸膜に伝わることで、呼吸とは関係なく微細な揺れが見られることがあります。これを Lung pulse(ラング・パルス) と呼びます(図11)。

▪ Lung pulse の特徴

  • 換気がなくても、心拍動によって胸膜が小刻みに揺れる

  • 揺れが脈拍と同期している

  • 心停止時には消失する

Lung slidingとの鑑別には、撓骨動脈を触診しながらエコー画像を確認します。胸膜の動きが脈拍と一致すればLung pulse、呼吸に合わせて動く場合はLung slidingと判断できます。

🔹 換気異常を示唆する肺エコー所見の整理

所見

意味

主な病態・原因

Lung sliding 消失

換気なし

気胸・胸膜癒着・巨大肺気腫・片肺挿管

Lung pulse 出現

換気停止(心拍動伝達)

片肺挿管・無換気肺(心拍動あり)

Lung pulse 消失

換気+心拍動なし

心停止

両側で Lung sliding 確認

換気良好

正常または挿管位置適正

🔹 検査の実際と注意点

肺エコーは簡便でありながら、検査者の技量によって精度が左右される検査です。特にLung slidingやLung pulseは微細な動きであり、プローブの固定の仕方が重要です。

ポイント

  • プローブの持ち手を患者の体に接触させ、安定させる

  • 手ぶれによる画像揺れを「Lung sliding」と誤認しない

  • 大きな呼吸を指示すると換気の有無がより明瞭に確認できる

🩺 まとめ

肺エコーは、**呼吸音や胸部X線では得られない“リアルタイムの換気情報”**を提供してくれます。特に挿管後の換気確認、酸素化不良時の評価、心停止対応時などでその真価を発揮します。Lung sliding・Lung pulseを正確に見分けることができれば、臨床判断のスピードと確実性が格段に高まります。

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