看護師さんによる在宅医療におけるエコーを科学する56~肺エコーでの観察(アプローチ)のポイント
- 賢一 内田
- 11月10日
- 読了時間: 3分

― 換気確認から見える“肺の動き” ―
① 換気確認の基本:呼吸に伴う胸膜の動きを捉える
呼吸時、肺は風船のように膨らんだり縮んだりします。このとき肺の表面を覆う臓側胸膜が伸縮し、それに対して胸壁内側を覆う壁側胸膜はほぼ固定されています。
肺エコーでは、この臓側胸膜の動きを観察することで**換気状態(Lung sliding)**を確認します(図1)。胸膜は2枚構造であること、そして肺の動きに追随するのは臓側胸膜だけであることを理解しておくことが、画像解釈の第一歩です。
② 観察部位とプローブの選択
観察は**胸部前面と後面で左右4箇所ずつ(計8ポイント)**行うのが基本です(図2)。使用するのは、高解像度リニアプローブ(体表観察向け)。設定は以下を目安にしましょう。
Depth(深度):4cm以内
Gain(輝度):基本的に調整不要
胸膜表面の動きを鮮明に捉えることが目的です。
③ BATサインとLung Sliding(ラング・スライディング)
プローブを矢状断方向(肋骨と平行)に当てると、エコー画像上で2本の肋骨に挟まれた高輝度の線=臓側胸膜が現れます。この所見を「BAT sign(バットサイン)」と呼びます(図3)。中央の胸膜線が呼吸に合わせて左右にスライドして見える現象が、Lung slidingです(図4)。
よく動く → 正常換気
動きが鈍い → 痰・肺水腫・過膨張など
動きが消失 → 気胸、胸膜癒着、重度COPDなど
なお、プローブを水平断で当てると、肋骨表面を胸膜と誤認しやすいため注意が必要です。
④ Seashore sign(海岸サイン)
Mモードで観察すると、換気の有無がより明瞭に確認できます。胸膜より上(体壁)は水平な縞模様(海)、胸膜より下(肺)は**ざらめ状(砂浜)**に描出されるため、Seashore signと呼ばれます(図6)。
→ 縞+ざらめ模様が確認されれば、換気あり。→ 全体が縞模様の場合は、換気なし(気胸など)。
⑤ Curtain sign(カーテンサイン)
横隔膜付近を観察すると、吸気時に肺が膨らみ肝臓を覆い隠すような動きが見られます。これを**Curtain sign(カーテンサイン)**と呼びます(図7)。
Curtain signあり → 下肺に十分な含気あり
Curtain signなし → 胸水または無気肺を疑う
⑥ Bライン(Comet tail artifact)
肺エコーで特徴的な垂直アーチファクトがBラインです(図8)。肺実質の含気が減少している状態で出現し、肺水腫やうっ血性心不全の評価に役立ちます。
また、Lung slidingと同時にBラインが動いているかを観察することで、換気と含気の両方を評価できます。
🧠 ワンポイントアドバイス
胸膜の動きが見づらいときは、患者にゆっくり大きく呼吸してもらうと観察しやすくなります。
動きが小さい肺でも、**Mモード(Seashore sign)**を活用することで客観的に評価できます。
肺エコーは慣れるほど精度が上がる検査。まずは正常像の“動きのリズム”を掴むことが大切です。
🩺 まとめ
所見 | 意味 | 主な疾患・病態 |
Lung slidingあり | 換気あり | 正常肺 |
Lung slidingなし | 換気なし | 気胸、癒着、過膨張 |
Seashore signあり | 換気あり | 正常 |
Curtain signあり | 含気あり | 健常または軽度肺炎 |
Bライン多数 | 含気低下 | 肺水腫・うっ血 |




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