攻めの栄養療法を科学する54~経管栄養の臨床的有用性 ― なぜ“腸を使う栄養”が重要なのか ―
- 賢一 内田
- 17 時間前
- 読了時間: 5分

経管栄養が真価を発揮する場面
経管栄養が静脈栄養(TPN)に比べて明らかに有用とされるのは、
比較的重症な症例の急性期管理
在宅医療を含む慢性期の長期栄養管理
といった場面です。
特に、食道がんなど侵襲の大きい手術後や重症症例では、その有用性が多くの研究で示されています。食道がん切除術後の管理では、術後を経管栄養で行った群の方が、静脈栄養管理群よりも早期退院が可能であったと報告されています。また、重症腹部外傷を対象とした研究では、静脈栄養と比較して肺炎などの感染性合併症が有意に少なかったことも示されています。
在宅・慢性期における経管栄養の意義
在宅医療などの慢性期の栄養管理においても、経管栄養は非常に有用です。
静脈栄養は、
厳密な衛生管理
中心静脈カテーテル管理が必要であり、長期管理には不向きです。
一方、経管栄養は
胃瘻(PEG)
経鼻胃管
などを用いることで、比較的安全かつ安定した長期栄養管理が可能です。
臨床現場では、食事摂取量がやや低下した段階でまず静脈栄養が選択されるケースも少なくありません。しかし、経口摂取のみで必要栄養量の確保が長期的に困難と予想される場合には、👉 早期から経管栄養を検討することが望ましいと考えられます。
経管栄養法の主な利点
① 腸粘膜上皮の形態・機能を維持できる
腸管を使用しない状態が続くと、腸粘膜には廃用性萎縮が生じます。経管栄養を行うことで、この腸粘膜萎縮は防止されます。
動物実験では、
成分栄養剤
半消化態栄養剤
食物繊維添加栄養剤
天然食品
の順に、腸粘膜萎縮予防効果が高いことが示されています。
② 免疫能を維持し、bacterial translocation を防ぐ
消化管とその周囲には、**全身の免疫担当細胞の50〜80%**が集まっており、消化管は人体最大の免疫器官とも言われます。
経管栄養によって腸管を使用することで、
腸管バリア機能の維持
腸管免疫の活性化
bacterial translocation(腸内細菌の移行)の回避
が可能となり、全身免疫能の維持・賦活化にも寄与します。
③ 侵襲後の代謝亢進を抑制
経管栄養は、
ストレスホルモン分泌の亢進抑制
代謝亢進の抑制
筋タンパク分解の抑制
といった効果を通じて、侵襲後の異化亢進を和らげる働きを持ちます。
④ 胆汁うっ滞・肝機能障害が起こりにくい
経管栄養は、生体の消化吸収能に応じて栄養素が吸収されるため、肝臓への代謝負荷が過剰になりにくい特徴があります。
その結果、
TPNで問題となりやすい肝機能障害
胆汁うっ滞
が起こりにくいとされています。
⑤ 消化管の生理機能を保てる
腸蠕動運動、消化管ホルモン分泌など、生理的な消化・吸収機能を活かした投与方法である点も大きな利点です。
⑥ 代謝性・カテーテル関連合併症が少ない
経管栄養では、
高血糖
電解質異常
高TG血症
高BUN
Refeeding syndrome
などの代謝性合併症の頻度が比較的少ないとされています。また、中心静脈栄養で問題となる
カテーテル関連血流感染症
気胸
といった合併症も回避できます。
⑦ 長期管理が容易・医療経済的にも有利
投与ルートによる制限はあるものの、長期栄養管理が必要な場合はENが第一選択です。同じエネルギー量を投与した場合、TPNと比較して栄養剤コストは約1/2〜1/3とされ、医療経済的にも優れています。
経管栄養法の合併症とその対応
主な合併症
① デバイス関連合併症
チューブ閉塞・破損
事故(自己)抜去
経鼻チューブの気管誤挿入、鼻腔潰瘍
胃瘻カテーテルによる皮膚トラブル、バンパー埋没症候群 など
② 消化管関連合併症
胃食道逆流・誤嚥
下痢(吸収不良、高浸透圧、細菌汚染など)
便秘、腹部膨満、腹痛
③ 代謝関連合併症
高血糖・低血糖
電解質異常
脱水
Refeeding syndrome
代表的な対応策
高BUN血症 → 一旦投与量を減らす、水分量を増やす → 腎機能低下時は糖質・脂質調整、たんぱく質量調整
高血糖・高中性脂肪血症 → 総投与エネルギーを減量 → 高脂質タイプへの変更を検討
下痢 → 投与速度・投与量を一時的に減量 → 食物繊維含有タイプやプロバイオティクスの検討
嘔吐・逆流 → 半固形栄養剤への変更 → チューブ先端を幽門輪以降へ留置
脱水・溢水 → 水分量・電解質バランス・腎機能の再評価
※特に 1kcal/mLの栄養剤は水分含有量が約80% であるため、追加水分量の計算を忘れないことが重要です。
攻めの栄養療法を行うために
「攻めの栄養療法」を実践する際には、👉 合併症を恐れて栄養を入れなさすぎない👉 合併症の兆候を見逃さず、即座に調整する
この両立が求められます。
経管栄養は、**守るだけの栄養ではなく、回復を後押しする“治療”**です。
さくら在宅クリニック(湘南在宅クリニック)の取り組み
さくら在宅クリニック(湘南在宅クリニック)では、在宅医療の現場において、
病態
ADL・活動量
リハビリ進行状況
ご本人・ご家族の意向
を踏まえた実践的な栄養戦略を重視しています。
「守り」から「攻め」への切り替えを見極め、医原性サルコペニアを防ぎ、生活の質を支える栄養管理を多職種連携で行っています。
▶︎ 公式サイトhttps://www.shounan-zaitaku.com/
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