在宅酸素療法を科学する7~COPDと認知機能障害
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COPDと認知機能障害―低酸素血症・長期酸素投与の影響―
慢性閉塞性肺疾患が引き起こす認知機能の低下と、酸素療法による改善の可能性
COPD(慢性閉塞性肺疾患)では認知機能障害の合併が高頻度に認められる。 低酸素血症はそのひとつの要因であり、長期酸素療法(LTOT)が認知機能の改善に寄与する可能性が示されている。
1慢性閉塞性肺疾患と認知機能障害
COPD患者132例(男性74例、平均年齢71.5歳±12.1SD)を対象とした研究では、健康対照者との比較により認知機能が評価された。対象のうち45例は禁煙プログラム参加者、48例は急性増悪による入院患者、39例はLTOTが処方された症例であった。
現喫煙者では、若年かつ肺機能の低下が目立たなかったにもかかわらず、clock drawing testスコアで6.7%が異常を示した。COPDでは全年代を通じて有意な認知機能障害が確認されており、特に41〜50歳・51〜60歳という比較的若年層でその差が顕著であった。

43.2%
Clock drawing test
4点以下の割合
32.9%
MMSE 27点以下
(24点以下は20.4%)
36.4%
TMT-A
94点以上
55.7%
TMT-B
283点以上
年代ごとに正常対照と比較したところ、COPDは全年代で有意に認知機能が障害されており、正常対照と比べておよそ20歳年上と同等という結果となった。これはCOPDの「加齢促進効果」を支持するものである(図1参照)。

2認知機能における長期酸素投与の有効性
COPDの認知機能障害に関与する因子は複数あり、低酸素血症はそのひとつに過ぎない。脳血管障害・心血管障害・身体活動制限・社会的孤立なども関係すると考えられる。また、アルツハイマー病の神経変性と低酸素血症の関連も慢性呼吸器疾患の文脈で注目されている。

① NOTT研究(Nocturnal Oxygen Therapy Trial)
主要研究 | NOTT Study
6カ月間の長期酸素投与による NOTT 研究では、神経精神的効果も測定された。評価は WAIS(ウェクスラー式成人知能検査)と拡張 Halstead-Reitan battery(HRB)を用いて実施され、150名のうち42%の患者に改善効果が認められた。
改善が確認された領域は、TMTの全般性注意・文字数字整列の効率(sequencing efficiency)・精神運動速度(finger tapping test)・握力であった。感情的な状態には改善が得られなかった。
さらに12カ月まで追跡できた37名においては、持続酸素投与群が夜間投与群よりも神経精神的パフォーマンスの向上が優れていた。酸素投与には認知機能への有効性があり、持続投与が間欠投与より優ることが示唆された。
② その他の検討(低酸素血症を有するCOPD患者 n=10)
別の検討では、低酸素血症を有するCOPD患者10名(男性4例・女性6例、平均年齢65.9±7.3歳)と健康対照群を比較し、3カ月間の長期酸素療法後の効果を評価した。%FEV₁平均値は38.2±11.5(SD)で重症に相当した。
COPD患者は対照群と比べて TMT-A・TMT-B スコアをはじめとするほとんどの神経精神的テストで劣っていた。3カ月後の評価では統計学的有意差には達しなかったものの、神経精神的機能・大脳血流速度・自律神経機能に改善傾向が示された(表2)。この結果はNOTT研究と矛盾しない。
③ 認知機能障害における最近の研究(コホート研究)
より最近の研究として、COPD患者1,202例を年齢・性別・人種・教育歴・喫煙歴を調整し正常対照と比較したコホート研究がある(文献5)。主な知見は以下のとおりである。

2.42
認知機能障害
リスクのオッズ比
(95%CI: 1.043〜6.64)
5.45
酸素飽和度88%以下
でのオッズ比
(95%CI: 1.014〜29.2)
0.14
酸素療法常時使用
でのオッズ比
(p<0.0001)
ベースラインの酸素飽和度低下はリスクの増大と強く関連しており、酸素飽和度88%以下でオッズ比は5.45まで上昇した。一方、酸素療法の常時使用はプロペンシティスコア調整後でもオッズ比0.14と有意なリスク低減を示した(p<0.0001)。

図4:COPDにおける認知機能に影響する恐れのある因子(文献6より)
COPD特異的因子
低酸素血症
高二酸化炭素血症
肺機能低下
急性増悪
共通・生活習慣因子
活動性・喫煙
睡眠/閉塞性睡眠時無呼吸
炎症・健康状況
BMI・抑うつ・疲労
高齢者共通因子
年齢・教育
高血圧・心房細動
ビタミンB₁₂/葉酸
甲状腺刺激ホルモン
薬剤
認知機能障害は、治療へのアドヒアランス・入院期間・感染予防などの健康行動・日常生活動作(ADL)・死亡率にも影響を与えることが示唆されている(文献6)。COPDにおける認知機能への影響因子には、COPD増悪や高炭酸ガス血症のほか、COPDのない高齢者と共通する多因子のリスク関与が考えられる。

まとめ
低酸素血症は特にCOPDの認知機能障害と深く関連しており、複数の因子と連動して悪化方向に作用している。
しかし、長期酸素投与(LTOT)の有用性は複数の研究から示唆されており、特に持続投与が間欠投与より優れることが示されている。
さらに呼吸リハビリテーションや栄養療法などとの組み合わせによって、より大きな改善効果が期待される。




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