在宅医療における認知症について6在宅医療における認知症について64~認知症が疑われる患者さんの「評価の進め方」
- 賢一 内田
- 11月19日
- 読了時間: 4分

認知症を疑う患者さんを評価する際には、段階的に情報を集め、誤診を避けることが重要です。ここでは 第1段階〜第3段階 の流れと、特に使用頻度の高い MMSEとHDS-R の注意点についてまとめます。
■ 第1段階:病歴聴取(家族からの情報が最重要)
最初のステップは、患者さんご本人と家族からの丁寧な病歴聴取です。
● 特に確認すべきポイント
症状の進行パターン 徐々に進むのか、階段状に悪化するのか
生活への影響度 日常生活に支障が出ているのか、単なる物忘れなのか
社会背景・生活状況 1人暮らしか、家族の支援状況はどうか
認知症では特に 家族からの情報が極めて重要 です。本人が自覚していない認知機能の低下を家族が気づいていることが多いためです。
■ 第2段階:身体診察(神経学的評価を含む)
認知機能の低下が、脳血管障害・パーキンソン症候群など別の疾患によるものかを判断します。
● 特に確認すべき所見
歩行障害(小刻み歩行・すくみ足)
錐体外路症状(筋固縮・手の震え・無動)
視野障害・麻痺・感覚障害
身体診察の段階で「認知症とは別の原因」が見つかることもあります。
■ 第3段階:心理検査(MMSE・HDS-R)
心理検査は、“年齢に対して記憶力が病的に低下しているかどうか”を把握するためのツールです。
心理検査は 最低限その点数を取れる能力はある と解釈することで、緊張による点数低下などによる誤診を避けることができます。
■ MMSE(Mini-Mental State Examination)
世界で最も広く使われている簡易認知機能検査です。得点が低いほど認知症やせん妄の可能性が高まります。
カットオフ値:23/24点
教育年数・年齢の影響を受けやすい
HDS-Rと比較すると「再生(記憶の呼び戻し)」の配点が少ないため、 アルツハイマー型では HDS-Rより点数が高く出る傾向
■ MMSEの実施手順(重要ポイントだけ解説)
MMSEは11項目ありますが、特に重要なのは③記銘 → ④注意 → ⑤再生 の順番を絶対に変えないこと。④注意(100−7の連続計算)は“干渉課題”であり、⑤再生の正確性に影響します。
① 時間の見当識(5点)
年、月、日、曜日、季節
西暦・元号の扱いは施設で統一する
季節の判断は地域差も考慮(“疑わしきは正答”も可)
② 場所の見当識(5点)
質問内容は施設に合わせて変更が必要です。例:
北海道 → 「ここは何という都道府県ですか?」
区・町村では「ここは何という自治体ですか?」
「ここは何階ですか」は複雑な建物では補助説明を加えても良い
※初診時は本人が病院名を知らない可能性があるため、診察時に名乗ることが大切。
③ 記銘(3点)
例:「さくら」「ねこ」「でんしゃ」
無関係な単語を1秒に1つ
最大6回まで繰り返し可能だが、得点は最初に正答した単語のみ
④ 注意(5点)
100−7を5回続ける課題。
【重要】
被験者が誤答しても 5回続ける
「93から7を引いてください」と言ってはいけない
被験者の「何から引くんでしたっけ?」に答えてはいけない
計算は作業記憶も評価しているため、途中の数値を言わない
⑤ 再生(3点)
③で覚えた単語を思い出す課題。→ ヒントは一切与えない
⑥ 呼称(2点)
時計と鉛筆の名前を答える。
⑦ 復唱(1点)
例:「みんなで力を合わせて綱を引きます」※原文“No ifs ands or buts"を使用する必要はない。
⑧ 三段階命令(3点)
右手で紙を受け取る → 半分に折る → 机の上に置くを 一息に読み上げる。
⑨ 読文(1点)
「目を閉じてください」など大きめの字で。
⑩ 作文(1点)
意味のある文章であれば正解。漢字の間違いは不問。
⑪ 構成(1点)
二重五角形の模写。形が正しく、重なる部分が四角形になっていれば1点。
■ MMSE実施のコツ
日付をいきなり聞かず、視力確認→呼称から入ると緊張が和らぐ
難しい項目(時間の見当識・再生)は最後に回すことも検討
地域差・施設差が出る項目は必ず基準を統一する
「疑わしい場合は正答扱い」とする施設も多い
心理検査は患者さんの自尊心を傷つけないよう、丁寧に配慮しながら進めます。




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