在宅医療における認知症について53~抑肝散・トラゾドン・抗精神病薬の使い分け
- 賢一 内田
- 11月1日
- 読了時間: 4分

〜BPSDに対する薬物療法の位置づけ〜
前回家族・介護環境の調整」では、まず非薬物的介入(介護者の関わり方や環境調整)を重視すべきことをお伝えしました。それでもなお、興奮や暴言・幻覚などのBPSD(行動・心理症状)**が強く、生活に支障を来す場合に初めて薬物療法を検討します。
抑肝散 ― 易怒・興奮・幻覚への漢方的アプローチ
1. どんなときに使う?
抑肝散は、認知症に伴う怒りっぽさ・興奮・暴言・暴力などの症状に効果があるとされる漢方薬です。
2. 効果のエビデンス
複数の無作為化比較試験(RCT)の系統的レビューでは、プラセボ(偽薬)に比べてBPSDの改善がみられたとの報告があります。特に、妄想・幻覚・焦燥・攻撃性に対して有効とされました。一方で、**認知機能(MMSEスコア)**の改善効果は認められませんでした。
唯一の二重盲検試験(信頼性が高い試験)では、アルツハイマー型認知症に対して抑肝散とプラセボの間に有意差は認められませんでした。安全性は良好でしたが、科学的には「効くとも言えない」という結論です。
3. 使用時の注意点
抑肝散には「甘草」が含まれるため、低カリウム血症・浮腫・高血圧・不整脈に注意が必要です。血中カリウムを定期的に確認し、長期連用は避けましょう。
用量の目安
開始:1日1包(分1)
効果不十分なら:最大1日3包(分3)まで漸増
効果があれば:徐々に減量し中止を検討
4週間以上使っても効果がなければ中止
また、抑肝散自体が複数の生薬の合剤であるため、他の漢方薬との併用は避けるのが原則です。
アルツハイマー病への効果は限定的
アルツハイマー型認知症に対しては、信頼できる研究で効果がないと示されています。したがって、アルツハイマー病と明確に診断されている場合は使用を控えるのが基本です。
抗認知症薬(コリンエステラーゼ阻害薬・メマンチン)と併用する根拠も乏しく、むしろ併用より抗認知症薬を中止して抑肝散を試す方が理にかなう場合もあります。
ただし、レビー小体型認知症や脳血管性認知症など、アルツハイマー以外の認知症に伴う興奮・幻覚症状には第一選択薬として試す価値があります。
使うとき・使わないときのまとめ
状況 | 抑肝散の使用可否 | コメント |
興奮・易怒・幻覚が強い | ◎ | アルツハイマー以外の認知症で有効例あり |
アルツハイマー型認知症 | × | 効果なしとの報告 |
自傷・他害の恐れが強い | × | 即効性がなく不向き |
漢方薬をすでに使用中 | △ | 他剤を中止してから検討 |
甘草含有製剤との併用 | × | 低K血症リスク |
トラゾドン・抗精神病薬との比較
抑肝散は安全性が高い一方、即効性や鎮静効果は弱いのが特徴です。短期的に興奮を抑える必要がある場合は、トラゾドンや**抗精神病薬(リスペリドン・クエチアピンなど)**を検討します。
ただし、抗精神病薬は転倒や脳血管障害のリスクがあるため、高齢者では慎重投与が原則です。その点、抑肝散は軽症〜中等度BPSDで安全に試せる薬として位置づけられます。
まとめ
抑肝散は興奮・幻覚・妄想などに効果がある場合がある。
アルツハイマー病では効果が乏しい。
効果判定は2〜4週間以内に。効果がなければ中止。
副作用(低K血症・浮腫など)に注意。
非薬物的介入が効かない場合の第一選択肢として検討可能。
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