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在宅医療における認知症について45~認知症の精神症状とその対応

  • 執筆者の写真: 賢一 内田
    賢一 内田
  • 10月10日
  • 読了時間: 4分

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〜性格のせいにせず、関係の中で変わるBPSD〜

🧩 病前性格との関係

「もともと気が強かったから」「昔から頑固だったから」といった病前性格とBPSD(行動・心理症状)を結びつけて考えることがありますが、実は明確な因果関係は証明されていません

研究によると、病前の性格と発症後の行動変化の関係は、認知症の種類によって異なります。たとえば、レビー小体型認知症では誠実な性格の人ほど興奮しやすくなる傾向がみられた一方で、アルツハイマー病ではそのような関連が見られませんでした。

このように、「性格が悪いから」「もともとそういう人だから」と決めつけるのは誤りです。むしろBPSDは病気による脳機能変化と、周囲の関わり方の相互作用で変化します。

💬 医師から家族への伝え方の例「性格とはそれほど関係がありません。気の強かった人が病気で優しくなることも、大人しい人が乱暴になることもあります。今後の接し方で変化する部分もあります。」

👛 物盗られ妄想への対応

財布・通帳・眼鏡などの「物盗られ妄想」は、認知症の代表的なBPSDのひとつです。多くの場合、身近に介護している家族が「犯人」と疑われます。

しかし、妄想の対象になる人は本人が最も信頼している人であることが多く、「あなたを疑っている=嫌っている」わけではありません。この事実を家族に伝えるだけでも、介護者の心理的負担が軽くなります。

🩺 対応の原則

  • 本人と一緒に探し物をする(「一緒に探そうね」と寄り添う)

  • 家族が先に見つけても、「見つけたよ」ではなく、本人に見つけさせる

  • 「ほら、やっぱりあなたがしまってたでしょ」と叱責しない

  • 家に閉じこもっていると妄想が強まるため、デイサービスなど外出機会を増やす

「探し物が見つからない不安」が妄想を強めるため、“暇な時間を減らす”=心の安定を保つ薬になります。

👀 幻覚・幻聴への対応

「虫が見える」「誰かの悪口が聞こえる」といった幻覚・幻聴は、本人にとって実際に存在する“現実の体験”です。頭ごなしに否定せず、まずはその体験を認める姿勢が大切です。

🌙 幻視(見える幻)

  • 部屋を明るくする

  • カーペットや壁紙の模様、染みを変える(幻視誘発要素の除去)

  • 「へぇ、不思議ね」「私は見えないけどね」と中立的に受け止める

🔊 幻聴(聞こえる幻)

  • 「悪口を言われている」→ 実際は孤立や不安が原因→ 「そう感じているのね。でも本当のところは大丈夫だよ」と安心を与える

  • 「ボケてる」「ニンチ」といった差別的幻聴 → 「そんな声はひどいね」「私はそう思ってないよ」と共感を示す

幻覚は注意がそこに向くほど強くなります。話題を切り替えたり、お茶や散歩に誘うなどして場面転換を図るのが有効です。

⚡ 興奮・攻撃的な言動への対応

介護者を攻撃し始めたら、すぐにその場を離れることが鉄則です。トイレにこもる・玄関を出て少し外に出る——どんな手段でも構いません。

10〜15分経つと、多くの人は怒っていたことを忘れます。「思い出し怒り」はほとんど起こらないため、その場を離れること自体が鎮静法になります。

🔍 興奮の原因を探る

  • アルコール関連:断酒を厳命

  • 難聴:聞こえない苛立ちが原因のことも→ ゆっくり・短く・正面から話す→ 大声ではなく、口の動きを見せながら話す補聴器の導入も有効

包丁やはさみなど危険物は、あらかじめ本人の手の届かない場所に保管しておきましょう。

🌙 不眠・昼夜逆転

不眠や昼夜逆転は、「うつと認知症」でも触れたように、睡眠衛生指導で対応できます。

🌞 基本のポイント

  • 朝は太陽の光を浴びる

  • 日中は体を動かす・昼寝をしない

  • 夜は静かで暗い環境に

  • 寝る時間にこだわらない(65歳の平均睡眠は6時間)

「一晩眠れなかった」と家族が焦らないよう伝えることも大切です。日中に眠気がなければ、それは十分な睡眠が取れている証拠です。

🕯 夕方の不安・帰宅願望

夕暮れ時に「そろそろ帰ります」と外に出ようとするのは典型的な**夕暮れ症候群(サンドダウン)**です。その場合、現実を訂正しようとせず、安心させる対応をします。

「もう夜も遅いし、今日は泊まっていきましょう」「明日バスがある時間に一緒に帰りましょうね」

このように話を合わせて、本人の「帰りたい=安心したい」という気持ちを受け止めることが重要です。

💡 まとめ

  • BPSDは性格の問題ではなく、脳の変化と周囲の関わりの結果。

  • 指摘・否定・叱責は悪循環を生む。共感・受容・安心感が治療。

  • 妄想・幻覚・興奮・不眠などの症状は、原因に応じた具体的対応で改善できる。

  • 家族や介護職が「正しい関わり方」を学ぶことこそ、最良の治療のひとつ。

🎥 関連動画

内田賢一 - YouTubeチャンネル在宅医療・BPSDケア・家族支援の実際をやさしく解説しています。

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