在宅医療における認知症について41~うつと認知症 〜似て非なる2つの疾患〜
- 賢一 内田
- 10月6日
- 読了時間: 3分

65歳以上の方が**「気分が落ち込む」「何もやる気がしない」と訴えた場合、単なるうつ病とは限りません。実は、その背後に認知症性疾患**が潜んでいることがあります。高齢者の「うつ」と「認知症」は症状が重なりやすく、**鑑別(見分けること)**が非常に重要です。
💡 うつ病の特徴
うつ病は、気分の落ち込みが数週間以上続く精神疾患です。以下の9つの症状のうち5つ以上が、1日中かつ2週間以上続く場合は、うつ病を疑います。
① うつ気分
「憂うつ」「気分が晴れない」などの状態が、ほぼ一日中続きます。ただし、孫が来たときだけ明るくなるなど、気分に波がある場合はうつ病の典型とは言えません。
② 興味・意欲の低下
趣味や外出、食事など、本来楽しいことが楽しく感じられません。たとえば旅行に誘っても「楽しくない」「申し訳ない」と感じてしまうのが特徴です。
③ 食欲低下
食べても味がせず、体重が減少します。悪性疾患がないのにやせていく場合、うつ病のサインかもしれません。
④ 睡眠障害
夜中に何度も目が覚め、熟睡感が得られません。悪夢を見ることもあります。
⑤ 思考・行動の抑制(または焦燥)
動作や会話のスピードが落ちます。「考えがまとまらない」「体が重い」と感じ、焦りを伴うこともあります。
⑥ 易疲労感・気力減退
朝からずっと疲れているように感じます。「やる気が出ない」状態が続きます。
⑦ 無価値感・罪悪感
「自分は迷惑をかけている」「生きている価値がない」と思い込みます。重症では「貧困妄想」「心気妄想」「罪業妄想」に発展します。
⑧ 思考力・集中力の低下
家事や仕事がはかどらず、決断もできなくなります。朝食のメニューを決められないまま夕方になるようなケースも。
⑨ 自殺念慮(希死念慮)
「生きていても仕方がない」「死んだほうがいい」と考えるようになります。精神科入院中であっても自殺を図ることがあるため、慎重な観察と早期介入が必要です。
🧠 認知症との違いは?
高齢者のうつ病では、「物忘れ」「集中力低下」「意欲低下」などが目立つため、アルツハイマー病やレビー小体型認知症などと見分けがつきにくいことがあります。以下は代表的な鑑別ポイントです。
症状 | うつ病 | アルツハイマー病 | 血管性認知症 | レビー小体型認知症 | 前頭側頭葉変性症 |
気分の落ち込み | あり | なし | なし | あり | なし |
物忘れ | 「過剰に訴える」傾向 | 一貫してみられる | 一貫してみられる | 変動あり | 初期は少ない |
変動 | 日によって気分が変わる | なし | なし | はっきりあり | はっきりあり |
パーキンソン症状 | なし | 軽度〜末期 | 血管障害があれば出現 | 高頻度(約77%) | 亜型による |
その他 | 意欲低下が中心 | 記憶障害が中心 | 歩行障害など | 幻視・睡眠障害あり | 感情の抑制・脱抑制あり |
🩺 鑑別の考え方
米国精神医学会の診断基準(DSM-5)でも、「うつ病を診断する前に認知症などを除外すること」が求められています。しかし実際には、認知症の診断基準そのものが完全ではなく、両者の区別が難しいことも少なくありません。
このため臨床現場では、
「まず治療可能性のあるうつ病を疑い、治療反応が乏しければ認知症の可能性を考える」
というステップが推奨されます。
実際、NICE(英国)・米国神経学会・日本神経学会など多くのガイドラインでも、「認知症を診断する前にうつ病を除外する」ことが強く勧められています。
🗝 まとめ
高齢者のうつ症状の背景には、認知症が隠れていることがある
うつ病は治療可能性が高く、早期発見・治療が重要
鑑別が難しい場合は、まずうつ病を念頭に置く
気分の変動や意欲の有無、日内変動に注目することがポイント
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内田賢一 - YouTubeチャンネル在宅医療・認知症ケア・呼吸器疾患などをやさしく解説しています。




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