攻めの栄養療法を科学する⑱~低栄養とサルコペニアをどう評価するか
- 賢一 内田
- 12 分前
- 読了時間: 4分

― GLIM criteria と AWGS を用いた実践的アプローチ ―
■ ポイント整理
低栄養の診断は GLIM criteria を用い、 ①スクリーニング → ②アセスメント → ③診断 → ④重症度判定 の手順で行う
サルコペニアは進行性・全身性の骨格筋疾患であり、転倒・骨折・身体障害・死亡率増加と関連する
サルコペニアの診断には、アジア人の基準である AWGS を用いることが望ましい
■ はじめに
2010年、European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)によりサルコペニアの定義が発表され、2018年に改訂(EWGSOP2)されました¹,²)。
EWGSOP2では、
「サルコペニアは、進行性・全身性に生じる骨格筋疾患であり、転倒、骨折、身体障害、死亡率といった不良な転帰の増加に関連する」
と定義されています²)。
この定義は、サルコペニアが高齢者に限らず、若年者にも生じうる疾患であることを示唆しています。さらに EWGSOP2 では、低栄養に関連したサルコペニアという概念が強調され、低栄養を早期に発見・介入することが、サルコペニアの予防・進行抑制に不可欠とされています²)。
■ 低栄養の診断方法:GLIM criteria
2018年、ESPEN(欧州)、ASPEN(米国)、FELANPE(南米)、PENSA(アジア)といった静脈・経腸栄養関連学会の代表者によりGlobal Leadership Initiative on Malnutrition(GLIM) が設立され、GLIM criteria が提唱されました³)。
GLIM criteria では、低栄養の診断から重症度判定までを体系的に行うことが特徴です。
■ GLIM criteria による低栄養診断の流れ
① スクリーニング
まず、信頼性・妥当性が検証された既存ツールを用いてスクリーニングを行います。
代表的なツール:
NRS-2002
MNA-SF
MUST
スクリーニングの結果、低栄養リスクありと判断された場合に、次のアセスメントへ進みます。
② アセスメント
GLIM criteria では、現症基準(3項目) と 病因基準(2項目) を評価します。
● 現症基準
意図しない体重減少 - ≥5%(過去6か月以内) - ≥10%(過去6か月以上)
低BMI - <18.5 kg/m²(70歳未満) - <20.0 kg/m²(70歳以上)
筋肉量減少
筋肉量評価には、DXA、BIA、CT、MRI などの身体組成測定が推奨されます。
DXA・BIAによる四肢骨格筋量評価は、AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)基準が採用されています。
四肢骨格筋量指数(ASMI)
除脂肪量指数(FFMI)
DXA・BIAが使用できない場合、下腿周囲長を代替指標として用いることも可能です。
日本人におけるカットオフ値:
地域在住高齢者 - 男性:<34 cm - 女性:<33 cm
入院高齢者 - 男性:≤30 cm - 女性:≤29 cm⁴,⁵)
● 病因基準
摂取量減少・消化吸収障害 - エネルギー必要量の50%以下が1週間以上 - 食事摂取量低下が2週間以上持続 - 慢性的な消化吸収障害
慢性消化吸収障害には、嚥下障害、嘔気・嘔吐、下痢、便秘などが含まれます。また、短腸症候群、膵機能不全、肥満手術後、食道狭窄、腸管麻痺、ストーマ患者の排泄量増加なども該当します。
疾患の影響・炎症 - 急性疾患・外傷による炎症 - 慢性疾患による炎症
急性の重度炎症は、重症感染症、熱傷、外傷、頭部外傷などでみられます。
慢性または再発性の軽度〜中等度炎症は、悪性腫瘍、COPD、うっ血性心不全、慢性腎臓病などと関連します。
炎症評価の支持的指標として、CRP、アルブミン、プレアルブミンを用いることも可能です。
③ 診断
現症基準+病因基準のそれぞれ1項目以上を満たす場合、低栄養と診断されます。
④ 重症度判定
Stage 1(中等度) - 体重減少:5~10%(6か月以内) - BMI低下(軽~中等度) - 筋量:軽~中等度減少
Stage 2(重症) - 体重減少:>10%(6か月以内) - BMI著明低下 - 筋量:重度減少
■ 低栄養とサルコペニアをつなげて考える
GLIM criteria による低栄養評価と、AWGS によるサルコペニア評価を組み合わせることで、
「痩せているか」だけでなく
「筋肉量が減っているか」
「なぜ減っているのか」
を構造的に捉えることが可能になります。
これは、リハ栄養・在宅医療・高齢者医療において極めて重要な視点です。
■ まとめ
低栄養診断は GLIM criteria を用いて段階的に行う
サルコペニア評価には AWGS 基準を用いる
低栄養とサルコペニアは切り離さず、一体として評価・介入する
早期発見・早期介入が、機能低下と不良転帰を防ぐ鍵となる
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