在宅医療を科学する27~「誰もいないはずなのに、誰かの気配がする」――高齢期の不思議な感覚の正体とは?
- 8 時間前
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こんにちは、さくら在宅クリニックです。
在宅診療の現場では、ご本人やご家族から「誰もいないはずなのに、すぐそばに誰かがいる気がする」「後ろに誰か立っているような感覚がある」といったお話を伺うことがあります。
これらは単なる気のせいではなく、医学的には「存在感覚(Feeling of Presence:FoP)」や「遅発性パラフレニー」といった言葉で説明される現象かもしれません。今回はスライド資料をもとに、その正体とメカニズムについて解説します。
1. 姿は見えないが「気配」を感じる「存在感覚(FoP)」
「他者の姿は見えないが、誰かが近くにいると強く感じる体験」を医学的に**存在感覚(FoP)**と呼びます。
主観的な体験: 目に見えるわけではなく、「いる」と直感的に感じます。
なぜ起こるのか?: 脳の右半球の病変や、自己身体の情報を処理する領域(TPJ:側頭頭頂接合部、島皮質)の働きの乱れが関わっています。
関連する病気: パーキンソン病(PD)などでみられることがあります。
対応のヒント: 十分な睡眠や安心できる環境づくりが、症状を和らげる鍵となります。
2. 高齢期に始まる妄想「遅発性パラフレニー」
60歳以降に発症する妄想性障害の一種で、統合失調症に似た症状を示しながらも人格が保たれているのが特徴です。
主な症状: 「誰かに嫌がらせをされている」といった被害妄想や幻覚(幻視・幻聴)が持続し、それらを事実として確信してしまいます。
要因と機構:
身体の衰え: 視覚や聴覚の障害、脳の右前頭葉・側頭葉の萎縮などが背景にあります。
環境の影響: 感覚が遮断されることで内的なイメージが外在化したり、社会的孤立によって妄想が固定化してしまったりすることがあります。
対応方法: 抗精神病薬による薬物療法と併せて、周囲のサポートや社会的支援(支援体制の構築)が非常に重要です。
幻視・存在感覚・遅発性パラフレニーの比較
スライド41では、それぞれの特徴を以下のように整理しています。
項目 | 幻視 | 存在感覚(FoP) | 遅発性パラフレニー |
主観的体験 | 見える | 「いる」と感じる | 妄想として確信 |
実在感 | 強い | 弱い(内的) | 確信的 |
関連要因 | レビー小体型認知症など | 右半球病変など | 視覚・聴力障害、孤立 |
主な対応 | 抗精神病薬(慎重に) | 睡眠・安心環境 | 抗精神病薬 + 支援 |
まとめ:大切なのは「ひとりで抱え込まないこと」
「変なことを言っている」と片付けられがちなこれらの症状ですが、実は脳のネットワークの変化や、周囲からの孤立といった環境因子が複雑に絡み合っています。
ご本人が「誰かいる」と訴えるとき、それは脳が発しているSOSや、孤独感の表れかもしれません。否定せずにまずは耳を傾け、専門家へ相談することが大切です。
当クリニックでは、患者様お一人おひとりの「こころの安定」も大切にしながら、住み慣れた地域での生活を支えてまいります。
さくら在宅クリニック




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